Star Dust






 セブと一緒に過ごす夏休み。永遠に続けば良いのにと毎年思うんだよね。だいたいホグワーツ勤務なんて仕事、小さい娘がいるシングルファーザーにさせる? ジジイ一回死ねば良いのに。


「行ってらっしゃーい……」


 そして、マグル出身の生徒には教師が出向いてダイアゴン横町まで案内しなくちゃいけないから――当然セブもそれの割り当てがあるわけで。割り振り表を見たときコリン・クリービーの名前を発見して噴いたりしたけどさ、愛娘放置で夏休みもパパお仕事ってどういうこっちゃ。姿くらましで生徒の案内に行ったセブを手を振って見送る。これから一週間、セブは朝から晩まで毎日仕事だ。私可哀想。


「日本に遊びに行ってやるんだから良いもんね。前川さん元気にしてるかな」


 外から見られたら大変だから、地下室の出入り口前で転生前の姿になった。目線が高いし顔もちょっと雰囲気が変わる。服は――夏だし、シャツにジーンズで良いでしょ。今日本で流行ってるファッションなんて知らないし。


「いざ日本へ!」


 指を鳴らして姿くらましする。うなぎパイ食べたくなってきたから静岡にも行こう。



 前に日本に来た時と同じあたりに出た。ただ前はどこだか分らない場所だったけど今回は商店街の中で、前川さんのアパートまでの道も覚えてる。何かお土産持ってった方が良いのかな。とりあえずスイカバーを十本くらい買って行けば問題ないと思う。


「まっえかーわさーん!」


 築二十年近い、ガタが来はじめてるアパートの二階、階段に一番近い端っこの部屋。チャイムを鳴らして呼べば、中からはーいと声がした。今日が土曜日で良かった。


「はい、どなた――って、小早川さんじゃないですか」

「お久しぶり。突然連絡もなしに押し掛けてごめんね、今お暇?」


 コレお土産だよどうぞとスイカバーを押し付ければ、あと一時間くらい後に姉夫婦が来るのだとか。掃除が終わって一息吐いたちょうどだったらしく、邪魔とも邪魔じゃないとも言い難い微妙な時に来ちゃったようだ。


「あ、スイカバー。スイカバー好きなんですよ私。良かったら上がって行ってくださいよ、どうせこれから来るのは姉ですから」

「言って良いの、そんなこと。じゃあお邪魔します」


 前川さんのフルネームは前川明良。一人称「私」だけど男性なんだよ。今の私の外見よりちょっと下で二十四歳の好青年だ。私が三十一だから――年の差の友情だね。良いんだよ私心はまだ十一歳だから。間を取って二十一ならちょうど良いでしょ。


「姉は今年で三十二になりますから小早川さんと一緒――ですよね?」

「うん、この七月で三十二になるからね。って、レディーに年齢言わせないでよ」

「言ったの自分じゃないですか」


 畳敷きの六畳間に胡坐をかいてスイカバーを頬張る。タネが美味しい。


「はあー、この甘さが日本人には合ってるんだよ分るかねワトソン君」

「ホーキーポーキーとか歯が溶けますよねホームズ先生」

「ただでさえ甘いのになんでキャラメルまで投入するんだとか思わない?」

「ギリギリキャラメルだけなら食べられるって程度ですかね」

「おお私は同士を得た! 友よ、ここに甘い物は適度に甘く同盟を立てようではないか!」

「小早川さん!」

「前川さん!」


 日本人の味覚万歳、と二人で手を取り合った。同盟に主な活動内容はなし。

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