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急にドラコが立ち止まった。どうしたのかなーと思って振り返れば、ハリーたち三人の方を向いて、ドラコが薄笑いを浮かべてた。その顔、気持ち悪い。
「どうしたのドラコ? 頭が更におかしくなった?」
「なったわけないだろう! いちいち君は失礼すぎるぞレイノ。ちょっとポッターたちの秘密を握ってね、思い出すたびに笑えるんだよ」
ドラコの怒鳴り声は耳をふさいでやりすごした。でもさドラコ、思い出し笑いする人ってさぁ……
「ねえドラコ、知ってた? 思い出し笑いする人ってムッツリスケベなんだよ。ドラコはムッツリだったのか」
嗚呼、皆さん、悲しい事実が発覚いたしました。ドラコはスケベ、それもムッツリです。これを我々究明班は父親の影響ではないかと考えます。だってルッシー、見るからにエロ大魔神だし。銀髪のロン毛で美男とか、どう見てもエロ魔神です……小さい頃は可愛かったのに。天使とはかくあらんと感動してキリスト教徒になろうか悩んだのに! や、すぐに却下したけど。だって私無神論者。
「レイノ!?」
「大丈夫だよドラコ。私はドラコがたとえムッツリスケベであろうとオープンスケベであろうと気にしないから!」
「それは気にしろ! って、その話じゃない、僕はムッツリなんかじゃない!」
真っ赤になって否定するドラコに疑いの目を向けると、涙目で違うんだと叫び出した。冗談だよノビ太君。
「レイノ、ドラコをおちょくるのは止めてよ。いつもに増して貴女テンション高いみたいだけどどうしたの?」
ケラケラ笑う私を見てパンジーは首を傾げた。
「いや、前々から欲しいと思ってて、でも手に入るとは思ってもなかったものが偶然手に入ってね。今のレイノさんはなぁ、レイノさんはなぁ、最強なんだぜ!」
「貴女こそ保健室に行ってらっしゃいな。言動が奇妙よ」
「先生には私が言っておいてあげるわね」
パンジーに言われ、アメリアまでニッコリと笑いながら手を振られた。苛め? これって新手の苛め!?
「酷いよ二人とも! 私のどこがおかしいって言うんだ。それにアメリア、保健室に行くにしてもついて来てくれないんだね!」
アメリアは何を当然のことを、とでも言いたげに目を丸くした。何でさ!
「――そうだ、僕はレイノ程変じゃないぞ! レイノは変人だからな」
「な、なんだってー!? ちなみにどこが!?」
「全体的に?」
アメリアさん止めてください。目がジンワリと熱くなってきたよ本当に。裏切られた気分だ。信じてたのに! う、裏切ったね? 親父にも裏切られたことなかったのに!――原因はコレか? 三人には元ネタの分からないネタを使いまくったからか? そんな気がしてきた。確信があった。
「私に帰って来て欲しかったら、黄色いハンカチを振るんだね!」
私は顔を押さえながら来た道を走りだす。向かうは保健室ですよ。そこで隠れて、こっそり涙を流すんです。だって女の子だもん。
「はい、黄色いハンカチ」
パンジーがポケットから取り出したのは果たして黄色いハンカチだった。……偶然なんて嫌いだ!
次の授業は出席した。いたたまれなかった。
マルフォイがこっちを見て薄ら笑いした。やっぱりアレはマルフォイだったんだ……。
「気味が悪いよ……。ねぇハリー、そういえばスネイプに君、口封じを頼むとか何とか言ってなかったかい?」
口封じしたらマルフォイは死んじゃうんだけど、ロンは気付いてないみたいだ。ハーマイオニーがキビキビと説明しだす。良い、ロン? 口封じって言うのはね……
「断られたよ」
「やっぱりあいつはスリザリンだよ!」
説教くさいハーマイオニーを邪魔そうに手を振り、ロンは嫌そうなのを隠しもせずにレイノを悪し様に言った。向こうでニヤニヤと笑ってるマルフォイにレイノが声をかけてる。
「でもロン、スネイプはスリザリンなのよ?」
「だからそうさっきから言ってるじゃないか!」
「違うってば。スネイプは私たちをそう簡単に庇える立場じゃないのよ、だってスリザリン生なんだもの」
ハーマイオニーが頬に手を当てて言ったことに、ロンが何を言い出すんだとばかりに片眉をはね上げた。ハーマイオニーの言葉はそう、レイノが言ったのと同じ内容だ。
「レイノも言ってたよ、『私にスリザリンの中で浮けって言うの?』って。僕らを庇ったらレイノが仲間外れにされちゃうのも確かなんだ。だから仕方ないんだよ」
マルフォイがレイノに何か反論して、レイノがそれをおちょくってるみたいだった。パーキンソンが腕組みして、ビキンスがふわふわしてる。
「ホラ! ね、スリザリン生だから仕方ないのよ。それにロン、どうしてあなた、スネイプをそんなに敵視してるの? スネイプは感じの良い子よ」
ハーマイオニーが眉をハの字にして聞けば、ロンはそんな話なんて聞きたくないとでも言うようにそっぽを向いた。
「あいついけすかないんだよ! 悪魔みたいな奴だよ、本当に」
「あなた、おんなじ様なこと私に言ったの覚えてる?」
ハーマイオニーが顎を突き出しながら詰めよると、ロンはとたんにどもって言い訳しだす。
「エー、あれだよ、あれ。君が本当は悪夢みたいじゃなかったってことだよ!」
レイノたちはコントみたいなことをして、また揃って次の教室に向かって歩き出した。マルフォイたちに分からないように僕を振り返って、器用にウィンクした。
「レイノは助けてくれてるよ、ロン」
僕は二人に言った。
「だって、今も助けてくれたよ」
面白くなさそうな顔をするロンと、僕の話を聞いてレイノがスリザリンにいる理由が分からないと悩みだしたハーマイオニーと三人で、時間も迫ってたし、次の教室に急いで走った。
時々ドラコがニヤニヤと三人を見てるから、本当に気持ち悪い。
「ドラコ、本当に頭おかしくなったんじゃないの? 時々気持ち悪いよ。鳥肌が立つくらい」
「本当にレイノは失礼な奴だな。僕は至って正常だぞ」
「鏡見てから言ってよ」
手鏡でちょっとにやけたままの顔を映せば、ドラコは自分の口元をバシンと隠した。
「僕、こんな顔してたのか……?」
「うん、近からず遠からず」
実はこれには魔法がかかってて、無表情でも『にやけ顔』に映るという優れもの。これでアブラカタブラをおちょくって遊んだのも懐かしい思い出だ。
「ところで何見てたの――ああ、ウィーズリー? 右手が恐ろしいくらいに膨れてるね。空気でも詰めたのかな」
「ふふっ、そうじゃないさ。でも僕はウィーズリーがああなった理由を知っててね。あれじゃ羽ペンなんて持てないだろうし、保健室行きだろうな」
ノーバートに噛まれたロンの手が、人類には真似できない太さにまで膨れてた。あれが全部筋肉だとしたら――ロンは人類最強になれるな。ポパイも目じゃない。
「ひやかしに行くつもりなら止めといた方が良いよ。あのムキムキな手じゃドラコなんて一捻りさ。拳が唸ると思う、風を切って」
ロンたちに絡みに行こうとするドラコの袖を引いた。
「いや、あれはただの腫れだから大丈夫だ。強くなるどころか弱くなってるだろうね」
「えー、筋肉なら面白いのに」
「右手だけ筋肉の塊になってどうするんだ」
「腕相撲負けなし?」
「あれは腕力だろう」
「相手の手の骨を、こう、砕くんだよ。わかりる?」
「反則じゃないのか、それ」
バキーンと折るのだ、と言えば脱力された。何故だ。
「お前は平和だな、レイノ」
ドラコがため息をつきながら言った。悪く言うつもりじゃないのは分かるから怒りはしないんだけどさ……私はチミの三倍以上生きてるんだぜ、ドラちゃん。滲みでる年上オーラが分らないのかね?
「それはアレだよ」
向こうでハリーとハーマイオニーがロンに保健室に行けって騒いでる。私もそれには賛成だ……あれでペンを握れるとは到底思えない。
「平和の大切さを知ってるからさ。フッ」
前髪をサラリと手で流した。
ヴォルディーも悪の道になんか走りださなかったら、今も私と平和に過ごせてたのかもしれない。仮定の話だけど。
「あいらぶぴーすなのだよ」
「レイノ気色悪いわ」
平和のためなら何でもできる子だよ私は。
目指せ、セブと過ごす、平和な余生!
「失礼だな!!」
「似合わないから止めた方が良いと思うぞ」