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梟用クッキーを持って羽毛の機嫌を伺う。駄目だわこりゃ、最悪みたいだ。そっぽ向いてしまって私を見もしない。地味に傷ついた……私が悪いんだけどね!
「羽毛、許してくれないかなぁ? 悪気はなかったんだよ、ね? クッキー上げるからさ、ごめんよ」
一時間目が終わり、今は休み時間だ。鐘が鳴り響いているのを聞きながら止まり木の羽毛の背中をゆっくりと撫でた――ら、クッキーを一枚だけひっっ銜えて飛んでっちゃった。
「う、羽毛―っ!」
羽毛は私の手が届かないところにとまってクッキーをガジガジやった。ガーン! と実際口に出してオーバーラクションをとってみたけど、振り返ってもくれなかった。こういう時マンガや小説の主人公は「もう君なんか知らない!」だとか言うんだろうけど、この場合こっちが悪いんだから怒ったり諦めたりという反応をするのはお門違いだ。平身低頭して謝りまくるのが私だ。
「許してよぅ、数か月――てか三カ月も放置して悪かったよ! セブと一緒にいるから君に頼むことがなくて、来るのが疎遠になっちゃったんだ。本当にごめん、怒りを鎮めてくれなーい!?」
そりゃあ、二十年前の私だったらこんなに簡単には忘れなかっただろうけどさ、現に間に二十年開いちゃったんだ、仕方ない部分もあるよね……? まあ、そんなこと羽毛が知ったことじゃないとは分っているけれども、けれどもっ!
床に両手を突いて嘆いてると、私の頭にポスンと重みが。右手を上げて確かめれば――このふわふわな感触は羽毛だ!
「羽毛、許してくれるの?」
柔らかいホウ、という鳴き声に安堵した。君の心が広くて良かったよ本当に。
安堵の溜息を吐いた私の前に、パサリと手紙が落ちてきた。どうやら羽毛が落としたらしく、拾い上げて見ればレイノ様へと書かれてる。もしやと思いつつ二つ折りのそれを開けば――
『いよいよ孵るぞ』
「うぎゃああああああぁぁ運命は残酷だぁぁぁぁああ!」
何度も床を殴りつける。なんてこと、なんてことだ! 人生って本当にままならないね、自業自得だけど!! 誕生シーン見逃しちゃった、見逃しちゃったよ!
ハグリッドが瓶に産火を取ってくれてる可能性に賭けたい――でもあのハグリッドだからすっかり産火の存在を忘れてそうだ。ノーバートの世話に心躍らせてすっかり頭から飛ばしてるかも、いや、してる可能性が限りなく高い。なんてこと……。
そう嘆く私に羽毛が気楽にホゥと鳴いた。全面的に私が悪いから羽毛を責めることなんてできないけど、ああ――せめて一日ノーバートの誕生が遅ければ!
嘆いても時間は戻らない。あんまり悔しいから羽毛にあげるはずだった梟用クッキーの残りを食べることにした。やっぱり私にはこっちの方が合うと思う。羽毛が驚愕の鳴き声を上げて私の頭に止まった。爪が食い込んで痛いから頭を上下して振り落とす。
「――――レイノッ!」
羽毛につつかれながらクッキーを貪っていた私の前に、盛大な足音と共に現れたのはグリフィンドールの赤いカラーをした……ハリー?
「やあハリー、どったの?」
梟小屋に飛び込んできたのはハリーだった。一応私の兄ではあるけど、違う寮だってことであんまり話したこともなければすれ違う時に挨拶を交わすような仲でもない。特急の中ではまあまあ仲良く話したりしたのに、ロンが組み分けの後からウザくなったから疎遠になったともいう。
「レイノに、頼みたいことが、あるんだ……」
ハリーは荒い息で背中を上下させながら言った。
「レイノはハグリッドのあれを知ってるんでしょ?」
「あれ――ああ、あれね。もちろん知ってるよ。もう孵ったの?」
ハグリッドからの手紙があるということはもう孵ったんだろうけど、私は知らないはずなんだし聞いた。
「ウン。ついさっき孵ったんだ。で、実はそれをマルフォイに見られちゃって――お願いだよレイノ、マルフォイに黙ってるように言ってくれないかい?」
まさか私に頼みに来るとは思いもよらんかった。でも原作でドラコは先生にチクらなかったし、私が頼む必要は全くない。ていうか、私が黙ってるように頼んでみろ、逆にドラコはチクるだろうよ。ポッターの味方をするなんて許し難い、君はスリザリンだろう!? とか言われそう。
「無理だね」
即答した私にハリーは目を剥いた。
「え、どうして!?」
「私が口止めしたら、ドラコは先生に言うと思うよ? 私とハリーは友人だけど、それ以前にスリザリンとグリフィンドールだ。他の寮生、それもグリフィンドール生を庇えというのは、私にスリザリンで浮けと言ってるのと同じ意味だよ」
ドラコならきっと、レイノは流されやすいから頷いてしまったんだろう、仕方のない奴だ、と私を責めないだろうし、アメリアもパンジーも私の性格を知ってる――長いものには巻かれろ主義ってか事なかれ主義――から、別に私に対してどうと思うことはないだろーと思う。でもハリーに対しては? 私の親切心を利用した、とかそんな風に思うに違いない。グリフィンドールとスリザリンの溝を深めるばっかりだよ、うん。
「友達――」
……ハリー君は人の話を聞いてるのか? 独り言をブツブツと言ってるみたいだけど、私の話をちゃんとその頭にダウンロードしたの?
「ねえレイノ! 僕と君って友達!?」
「ま、まあ、知り合い以上だし。友達なんじゃない?」
実は双子の兄妹だけどね、言わないけど。もし妹だなんて言ってハリーと行動を共にすることになってみろ、死亡フラグは乱立だ。
「そっか、なら良いんだ――ごめんねレイノ! じゃあまた今度!」
ハリーは何故か爽やかな笑みを残して走り去ってった。嵐みたいな奴だなぁ。
ところで、一つ気になる。――どうしてハリーは私がここにいるって知ってたんだ?