Star Dust






 毎日、朝が楽しみだ。原作には詳しい日取りが書かれてなかったけど、ハリーの場合は朝にヘドウィグが手紙を届けてくれるんだよね、私の場合なら羽――羽毛の存在を忘れてた!! 二十年間離れてたんだから仕方ないよね!? うわぁ、ハロウィン以来すっかり忘れてたよ。へそ曲げて手紙届けてくれなかったらどうしよう? 産火はナシか、なしなのか!?


「どどどどど、DOしようアメリアさん! お助けのタスケ!」

「どうしたの、そんなにどもって。何かあったの、レイノ?」

「羽毛の存在をすっかり忘れてたんだ!」

「ウモー? ウモーって何?」

「私の梟だよ! ここ数が月放置してたから、腹立ててボイコットしてるかも!!」


 パンにたっぷりとママレードを塗りつけてるアメリアに言えば、酷い飼い主ねと呆れられた。うん、そのママレードの盛り具合よりも酷いということは自覚してるや。


「今日二時間目の授業ってないでしょ確か――ご機嫌取りに行って来るよ」

「毎朝の梟便を見て思い出さなかったのかい?」

「うん」


 ドラコにまで肩をすくめられた。その横にパンジーはいない。初めての試験だからと勉強に気張りすぎて眠れず、倒れて保健室に運ばれちゃったのだ。


「ドラコのワシミミズクから毎朝バスケット貰ってたのにね」


 アメリアはそう言うけどさ、今私手紙送る相手いないでしょ? セブと梟のやり取りしなくちゃいけないくらい離れてるわけでもなし、他に知り合いもなし。私は交友関係が狭くて深いのさ! 地元に友人が一人もいないとも言う!


「見てもナルシッサさんのサンドイッチ思い出すだけで、羽毛までは全然思い出さなかったよ……ていうか、あれ梟じゃなくてワシミミズクじゃん」


 今日ノーバートの誕生日だったらどうしよう本当に。一応ハグリッドに耐熱薬瓶を一つ渡してるけど、思い出してくれるかどうか。心配だ、ああ心配だ。


「まあ、そのウモーの機嫌を取るのが何よりも先だろうな。ホラ、梟用クッキー。これをやって宥めすかすんだな」


 ドラコが梟用のクッキーを十枚くらいくれた。ワシミミズクにご褒美としてあげるために毎朝持ってきてるのは知ってたけど、私に譲ってくれるとは思わんかった。有難や! ドラコ観音菩薩様!


「有難うドラコ! 恩にきるよ。どうにか宥められてくれりゃ良いんだけど」


 荒く挽いた小麦粉を使ってるからか表面にはぼつぼつとした凹凸があって、美味しそ……いや、犬用ジャーキーをあんまり美味しそうに飼い犬が食べてるから自分も食べてみたけど実際に美味しかったとかそんな話を聞いたことが……誘惑よ、去れ! 人はパンのみで生きるにあらず、パン以外にもクッキーも欲しいです、まる――駄目じゃん!


「レイノ、何してるの!?」


 つい口に運びかけた私を見てアメリアが裏返った声を上げた。危ない危ない、皆の前で食べるところだった。せめて食べるなら人目のないところで。


「あ、つい」

「食べても甘くないだろう? 僕はそんなのを食べるより、テーブルの上のものを食べる方が良いと思うんだが」


 ドラコがテーブルの上のパイや肉やなんやかんやを指し示した。いや、味付けが濃すぎて食えん。焼き立てらしいクッキーがお皿に盛られてたけど、チョコチップだったから余計仲良しになれそうになかった。クッキーはただ甘ければ良いというわけではないのだ。偉い人はそれが分らんのですよ。




 ハグリッドからドラゴンが生まれそうだって手紙が来た。僕とロンはハーマイオニーを何とか説得してハグリッドの小屋に行こうと、できる限り切々と説いた。


「授業があるでしょ。さぼったらまた面倒なことになるわよ。でも、ハグリッドがしていることがバレたら、私たちの面倒とは比べ物にならないぐらい、あの人ひどく困ることになるわ……」


 僕はハーマイオニーの言葉を途中で遮った。マルフォイがほんの数メートル向こうにじっと立ち止まって、僕たちの話に聞き耳を立ててたんだ。マルフォイがどんな表情をしてるのか見えなくて、余計不安だった。


「もうすぐ出てくるぞ」


 休み時間になって、走ってハグリッドの小屋に向かった。ハグリッドは顔を真っ赤にして興奮してる。足がガタガタと貧乏ゆすりしてて、ハグリッドの興奮具合が分かった。見れば卵はテーブルの上に置いてあって、不気味にカタカタと揺れてた……。中でドラゴンが暴れてるからだろうけど。亀裂がだんだんと大きくなり、遂に――

 キーッ! と内側から引っ掻いたような音がした。卵は力任せに内側から割られて、中から黒い塊が転げ出てきた。可愛いなんて言葉はこれに使うべきじゃない、捨てられたこうもり傘みたいにしわくちゃで、やせっぽっちで骨ばってた。なのに目だけはオレンジ色で爛々としてる。はっきり言って怖い。

 ハグリッドが何かを思い出したみたいに棚から何も入ってない瓶を取り出した。こけそうなくらい慌てた様子でその赤ちゃんドラゴンに近寄り、くしゃみと一緒に出た火花を瓶に保存してた。


「ああ……素晴らしく美しい、だろう?」


 ハグリッドはそれの頭を撫でようとして、噛まれた。うわぁ!


「こりゃすごい、ちゃんとママちゃんが分かるんじゃ!」


 ママと思われていないことは僕たち三人には明らかだった。ハーマイオニーが心配そうに顔をしかめながら訊ねた。


「ハグリッド。ノルウェー・リッジバック種ってどれくらいの早さで大きくなるの?」


 それは僕も気になったし、ロンもそうだと思う。ハグリッドは答えようと顔を上げて、音を立てて顔を青くした。はじかれたように椅子から立ち、窓に駆け寄る。


「どうしたの?」

「カーテンの隙間から誰かが見ておった……子供だ……学校の方へ駆けて行っとる」


 急いでドアを開いてその後ろ姿を確認した。あの髪とカラーの色で間違いない、マルフォイだ!


「どうしよう、あいつはマルフォイだ!」

「うええ、よりにもよってあいつが!?」


 僕が言えばロンが吐きそうな顔をして頭に手を当て、ハーマイオニーは真っ青になって口元に手を当てた。


「マルフォイ? なら……いやしかし、俺はレイノとそこまで親しいわけでもないし……」


 ――ハグリッドは今までに何度も口を滑らせてきた。今回も何か滑らせてくれるかもしれない。こんな時だけどチャンスだ! 話しかけるきっかけを掴めるかもしれない。


「レイノ? ハグリッド、レイノならなんとかできるの?」

「ああ。レイノは俺と一緒だ……あいつもドラゴンの良さっちゅうもんをよーく分かっとる。この瓶を用意したのもあいつだからな。産火は貴重だ……破魔の火だ」

「え、スネイプが産火を?」


 ハーマイオニーが目を丸くした。産火っていうのが何かは良く知らないけど、きっととても貴重で専門的なものなんだろう。


「ああ。お前さんたちと会う前に、俺はレイノと会ったんだ。ロックケーキを美味い美味いっつって食っちょった」


 ロンが信じられないとばかりに棚のロックケーキを振り返った。僕も信じられない。あんなに固いケーキが美味しいだって? レイノの味覚はどうなってるんだろう。


「ドラゴンが孵るのを俺とおんなじくらい楽しみにしとった」


 ハグリッドからこれ以上何かを聞き出すのは無理だった。おんなじことを延々と言うだけだったから。でもこれで、レイノと話す話題ができた。――マルフォイに黙っているように、頼もう。これを機会に打ち解けられたら良いのだけど……。

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