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外に出るならコートを着ないと風邪を引くということで、寮にある上着を取るためハグリッドと別れた。ドラゴンっすよ、ドラゴン! まだ卵なんだよね? 卵を孵すには灼熱が必要なんだよね――私が耐え切れる暑さだろーか不安だわ。魔法でどうにかしようかな……いやでも、私がそんな高学年の魔法使ったらヤバいか? いやいやだって私セブの娘だし大丈夫じゃね? あ、でもハグリッドが気付かなければ問題ないか。よし解決。
足音も軽くコートをひっつかんで談話室を過ぎようとすれば、ドラコに呼び止められた。何だねワトソン君? 私は急いでいるのだ、中身のない質問は受け付けないよ。
「どうしたんだい、レイノ。図書館に行ってたんじゃないのかい?」
「うん、でもそこで面白いことがあってね。ちょっとばっかし外に行ってくるよ」
「その余裕が憎たらしいったら」
パンジーが眼力だけで羽ペンを折りそうな形相をした。パンジー怖い。マートルも粘着質で性格病んでたし――何で私の周りには怖い女の子しかいないんだろーか、誰か癒し系の子をくれ。
「でもさパンジー、私、普段から真面目な女の子だよ?」
だからテスト前だからってわざわざ詰め込む必要ないんだ、と言えば睨まれた。何でさ、理不尽だろ!?
「さっさと行きなさいよ、それで点数落とせば良いんだわ」
「酷いやパンジー! 私はコツコツ型なんだよ、信じてくれ!!」
憎まれ口だって分かるから大仰に体を抱いて嘆くふりをした。そして手を振って談話室を出る。そういえばアメリアは勉強どうしたんだろうか? 談話室にも図書室にもいなかったけど、レポートが終わったんだかどうだか。
「ハグリッド!」
ハグリッドの小屋は近寄っただけで熱気がした。ちょっと、熱気漏れてるよハグリッド。わざわざ近寄ってくる生徒なんて片手で数えるほどだろうけど、先生方が来た時どうやってごまかすつもりなんだ?
「おお来たか! さあ、入ってくれ」
薄く開かれた扉の隙間から潜り込んで、自分に冷気の層を巻いた。そうでもしないと息苦しくて死にそうだ。
どこ製のお茶かは知らないけど飲めないことはないお茶と、かのロックケーキが出た。素朴な味付けだったしガリガリと食べてたらハグリッドがそんなに喜んでくれるとは思わんかったとか言いながら何枚もくれた。いや、あんまりいらん。私はハムスターじゃないんだよ。
「ノルウェー・リッジバックという種類らしい――卵の見分け方に書いとる――珍しいやつでな」
ニコニコと本の絵と実物を指で指し比べるハグリッドと一緒に見比べた。なるほど、絵のまんまだ。
「ねえハグリッド、卵が孵る時は教えてよ。そんなの一生に一度見られるか見られないかってものだし、私産火が取りたいんだ。ドラゴンの産火なんてめったに出回らないんだよ」
頷くハグリッドに、心の中でガッツポーズした。サトシ君みたいに「ゲットだぜ!」って叫びたい気分だよ!
イタチ肉を挟んだサンドイッチを出されたけど、食べようとは思えなくてお茶だけ飲む。ロックケーキのかすがテーブルの端に残ってたから、ハグリッドは無造作にそれを払った。
「それで、おまえさん、何が聞きたいんだった?」
こんな暑い中じゃイタチの肉も腐るか干からびるんじゃないだろうかとハリーは思った。
「ウン。フラッフィー以外に『賢者の石』を守ってるのは何か、ハグリッドに教えてもらえたらと思って」
あのレイノの父親――だとは絶対に思いたくないけれど――のスネイプが『賢者の石』を狙ってるのは確実だ。ハリーはレイノを犯罪者の娘にしたくないし、レイノが悲しむ姿を見るのも嫌だった。
「もちろんそんなことはできん。第一、俺自身が知らん。第二に、お前さんたちはもう知り過ぎておる。だから俺が知ってたとしても言わん。石がここにあるのにはそれなりのわけがあるんだ。グリンゴッツから盗まれそうになってもなぁ――もうすでにそれも気づいておるだろうが。だいたいフラッフィーのことも、一体どうしてお前さんたちに知られてしまったのか分らんなぁ」
「ねえ、ハグリッド。私たちに言いたくないだけでしょう。でも、絶対知ってるのよね。だって、ここで起きてることであなたの知らないことなんかないんですもの」
ハーマイオニーがおだてると、ハグリッドのヒゲがピクピクした。笑ったみたいだ。
「私たち、石が盗まれないように、誰がどうやって守りを固めたのかなぁって考えてるだけなのよ。ダンブルドアが信頼して助けを借りるのは誰かしらね、ハグリッド以外に」
ハグリッドが嬉しそうに胸を張った。良くやった、と目配せすれば、ハーマイオニーもウィンクを返してきた。
『あの』スネイプが石を守る魔法に協力した?――ハリーにはハグリッドの言葉が信じられなかった。ハーマイオニーもロンも同じように思っているようで、信じられないとばかりに眉間に皺を寄せている。
だがそんな時、何故かあの見知らぬ女性の言葉が甦った――スプーナー教授になるな。かけ間違えたボタン……スプーナリズム。どれをかけ間違えているのかなどハリーには分からなかった。迷って視線をさまよわせ、暖炉でゴウゴウと炎に焼かれる黒い卵を見つけた。
「ハグリッド――あれは何?」
聞くまでもなく明らかなことだった。孵化させようとしている。
「えーと、あれは……その……」
ハグリッドは落ち着きなくヒゲをこねくり回した。ロンが暖炉を覗き込んで歓声を上げる。
「ハグリッド、どこで手に入れたの? すごく高かったろ」
「――賭けに勝ったんだ。昨日の晩、村まで行って。ちょっと酒を飲んで、知らない奴とトランプをしてな。はっきり言えば、そいつは厄介払いして喜んどった」
ヒゲをいじる手は止まらなかった。ハーマイオニーが眉尻を吊り上げた。
「だけど、もし卵が孵ったらどうするつもりなの?」
「それで、ちいと読んどるんだがな」
ベッドに手を伸ばして、ハグリッドが枕の下から取り出したのは一冊の古い本だった。
「図書館から借りたんだ――『趣味と実益を兼ねたドラゴンの育て方』――もちろんちいと古いが、何でも書いてある。母竜が息を吹きかけるように卵は火の中に置け。なぁ? それからっと……孵った時にはブランデーと鶏の血を混ぜて三十分ごとにバケツ一杯飲ませろとか」
この卵がノルウェー・リッジバックという種類のドラゴンの卵だと言われても、ハリーにはあまり興味が持てなかった。ハーマイオニーはさっき言っていた――ドラゴンを個人で飼育するのは違法だと。