Star Dust






 だんだんと校内は試験色に染まってきて、教師陣は宿題を増やしたし、生徒の中にも図書館通いを始める者がちらほらと。二度目の学生時代の私は教科書をめくって復習しつつ暇をつぶすという優雅な時間を過ごす。左右でドラコとアメリアが唸ってて、可哀想だから時々ヒントをあげたりした。ドラコの反対隣りにはパンジーがいて参考書のページを目を皿にして捲ってる。この状態のパンジーに夜、後ろに立たれたりしたらホラーだな。ついでにクラッブとゴイルは離れた場所からお菓子の匂いを漂わせてる。凄くウザい。


「これじゃ、宿題ばかりに時間がかかって試験勉強にまで手が回らないよ!」


 ドラコが羊皮紙に突っ伏した。アメリアがこっちをチラ見してくるからもう提出したと言えば地獄を見たような顔をされた。


「なんでレイノはそんなに早く終わったんだい? 僕だって悩んでるのに」


 ドラコは頭良い方だし、自分でもそれが分かってるから、自分に自信があるんだろう。ジト目で見つめてきた。アメリアも私の教科書に落書きしようと羽ペンを伸ばしてきたから叩き落とす。


「四歳から一人暮らししてるし、要領が良くなって当然だよ。勉強する以外の暇つぶしもなかったしね」

「四歳から?!」

「うん。セブ、先生の仕事があったしさ。だからセブと長く一緒にいたのって夏休みの二カ月とかだけだね。長いので一年近くだけど一歳の時のことだし」


 パンジーもいつの間にやら参考書から顔を上げてた。


「ある種の英才教育とも言えるわね。食事とかどうしてたのよ?」

「自分で作ってた」

「ああ、なるほど」

「だから背が低いのね」

「ちゃんと食べなきゃ駄目よ、レイノ」


 ドラコ、アメリア、パンジーだ。なんて失礼な奴。


「ちゃんと栄養を考えて作ったともよ。これは体質なの!」

「今日の夕飯には肉を食べるんだぞ」

「サラダばっかりじゃ背も伸びないわ」


 隣の二人に子供扱いされてなんか、凄く悔しいんですけど。背が低いことが悔しいんじゃないんだけど、ないんだけれどもっ!


「ええいあんたたち、宿題はできたのかっ?!」

「それがまだ途中なのよねぇ」

「面倒なことを思い出させられた……」

「目が痛いわ」


 そう言えば三人は自分の宿題を見下ろしため息をつく。パンジーは目をこすった。


「手伝うから、早く終わらせて試験勉強しよう、ね?」


 それから私は参考書の引用可のページを開いたり部屋に置いてる文献を持ってきたりして手伝った。

 ……私、もしかしなくてもパシられてね?





 試験十週間前になった。そろそろあれが孵化するはずだ、ノーバート。ドラゴンの生まれて一番に吐く火――産火って言うんだけど――は高く売れる。じゃない。浄化作用があって、たいがいの毒と呪いが消せるんだよね。そりゃあ死の呪いとかは無理だけどじわじわと命を削って行くような類の呪いは消せてしまうほどお高い、じゃなかった、滅多にないものなのだ。欲しいなぁ、ハグリッドくれないかなぁ……。

 会わせてもらえないだろうから、ちょっと残念に思いながら図書館でドラゴンの本を読むことにした。文献に記述されるドラゴンの産火の説明を目にするたびに悔しさとか悲しさが胸にチクチクと刺さる。……うう、欲しい。何故私が耐熱薬瓶を持ってると思ってる?

 宿題に忙しい皆はそっちに集中してね、と成績優秀者の余裕を見せつけ――たらパンジーに殴られるからコソコソと――コートを重ね着して図書館に向かう。前に一回体の表面に温かい空気の層を張ってみたことがあったけど、あれはなかなか良かった。何でもっと前に思いつかなかったんだろーかってくらい良かった。だけどあまりに居心地が良すぎて薄着しちゃって、逆に心配されたんだよね。……熱を感じるための神経がおかしくなったんじゃないかってポピーの元へ運び込まれた。

 司書の厳しい視線に作り笑いを贈って本棚に走り込む。あのいかにもな厳格の塊はちょっと苦手だ。ミネルバばーちゃんはまだ愛嬌があるんだけどね。

 ドラゴンの棚に行き、『イギリスとアイルランドのドラゴンの種類』、『ドラゴンの飼い方――卵から灼熱地獄まで』とかを読む。実はこの本を読むのは二度目だったりする。リドルと一緒の時、図書館の本は全部征服して見せようと意気込んで読んだのだ。歴史関係の本はあんまり読まなかったけど。魔法史は苦手だ。――魔法史。魔法史? 何か忘れてるような気がする。魔法史ねぇ……。興味がないことだったんだろうか、何を忘れてるのかさえ思い出せないや。

 棚の前で立ち読みしてた私の横に大きな影が差した。見上げれば――ハグリッドだ。背中を丸めてドラゴンに関連する棚のあたりをうろうろと見ている。


「ありゃりゃ」


 今日だったのか。もうこのイベントは終わってるものだとばかり思ってたんだけど、どうやら私の幸運値はまだ捨てたもんじゃなかったようだ。


「おお、おまえさんは――レイノか」


 私とハグリッドの付き合いはほぼないに等しい。入学前から交流があったのはジジイとミネルバばーちゃんだけだし、セブに引き取られてからルーピン先生とは一回も会ったことがない。騎士団の人たちは――さっぱり。交流関係狭いよ! その代わりにリドルンとの学生生活は純血派に囲まれて女王様してたけど!――あれ、これって交友関係って言えるのかな。まあ良いか。細かいことなんて気にしない!


「初めまして、ハグリッド。私のこと知ってたんだ?」

「あ、ああ。お前さんのご両――親父さんがここの教師だしな」

「そ。ところで何を探してんの?」


 ハグリッドは小さな黒い目をキョドキョドさせた。


「あー、いや……もう探すのは諦めようかと思っとったんだ」

「そう」


 私は題名が見えるようにわざと本を持ちかえた。


「それだ! あ、まあなんだ、気にせんでくれ」


 私はこっそり口の端を上げた。これはあれですね、産火ゲットのチャンスですね?


「ドラゴンって良いよね」


 ハグリッドは話が急に変わったことにキョトンとし、それからコクコクと頷いた。


「ああ、ドラゴンっちゅーのは良いもんだ、あの鱗、あの力。魅力的だ、なあ?」

「うん。それに産火にも浄化作用があったりさ、本当に魅力的な生物だよね」


 私は『研究対象』として興味があるけど、ハグリッドは『愛でる対象』として興味があること分かった上でこんなことを言ってるんだけどね。


「ど、ドラゴンを生で見たいと思わんか……?」


 ハグリッドが腰をかがめて耳打ちしてきた。いよっしゃあああああああ!


「もちろんだよ」


 前世で田舎に住んでた私は、家の窓にトカゲやらヤモリやらが貼り付いてるのを何度も見たことがある。グロいって言う子もいるかもしれないけどなかなか可愛いんだよ。だから、トカゲに似てるはずのドラゴンも、きっと可愛いに違いない。家の中を体長十センチ強の蜘蛛やヤスデが歩いてることなんて普通だったし――これっておかしいのかな。


「後で――ウーン、今から小屋に来んか? 見せたいのがあるんだ」


 私はもちろん快諾したとも。ドラゴンちゅわん待っててねー! 今貴方の愛しの君が参りますよ!

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