Star Dust






 セブの足はもう治ってるからヒョコヒョコ歩きじゃない。良かったよ本当に、後を引くけがだったらどうする気だったんだろーか。


「レイノ、そろそろ大広間に行って夕飯をとってくると良い。私は用事がある」


 セブの用事ってのはアレだろ、クィレルを脅すんだ。でもなー無駄なんだよなぁ。だってあの後頭部に憑いてんだもんね、想像すると気持ち悪いなぁ。言うなれば阿修羅像の顔二つバージョン? そう考えると可愛く思えてきた。……私の感性に不具合が生じた気がする。


「はーい。じゃあね、セブ」


 セブの部屋にいつの間にか(私が入学したからだろうけど)常設されるようになったバンホーテンココアを飲みきる。粉から練るのが美味しいんだよ。お湯は使わずにホットミルクで溶かすんだ。まあ、私が作ってるから薄味なんだけどね。

 手を振って出たけど、向かうのは大広間じゃない。行くのは死の森――クィレルとセブと、そしてハリー。この三人が集う場所へ。


「……な、なんで……よりによって、こ、こんな場所で……セブルス、君にあ、会わなくちゃいけないんだ」


 クィレルから漂ってくるニンニク臭。すぐ上に隠れてる私には地獄みたいだ。ううむ、臭いが移ったらどうしてくれる――授業のある日はいつも染み付いてなかなか取れないんだぞあれ。


「このことは二人だけの問題にしようと思ってな」


 セブの声、クールっ! きゃあ超惚れる――!! 格好良い格好良いっ! メロキュンですわ御養父様っ☆ おっと、悶えすぎて落ちかけた。あぶねーあぶねー。


「生徒諸君に『賢者の石』について知られてはまずいからな」


 ハリーが身を乗り出したんだろう、葉がすれる小さな音がした。ついでに私は録音中。今度家に帰ったらカセットに焼こう。


「あのハグリッドの野獣をどう出し抜くか、もう分かったのか?」

「で、でもセブルス……私は……」

「クィレル、私を敵に回したくなければ」


 護身の言い訳を遮ってセブは言う。


「私が何を言いたいか、良く分かっているはずだ」


 何を言いたいかってそりゃあ、ねぇ☆ やべえドキドキしてきた。このトキメキはあの時ぶりだ――魔法薬学の初授業。駄目よ、私たちは親子なのっ…………ブハッ! 自分で考えて砂を吐くなんて恥ずかしい奴だな、私って。それにセブへの愛は恋愛じゃなくて家族愛だからなぁ。くっくっく、なんだか原作の時代に来て萌え脳が戻ってきた感じがするゼ。


「それでは、近々また話をすることになるだろう。もう一度よく考え、どちらに忠誠を尽すか決めておくのだな」


 フードを目深に被り、セブが立ち去っていく。さて、私はこの子に用事があるのだよ。




 スネイプだったのだ。スネイプが賢者の石を狙っているのだ……! ハリーはクィレルが去るのを待ちながらぐるぐると考えていた。


「ハオ!」


 自分の考えに没頭して俯いていると、前方が急に暗くなった。顔を上げる。黒髪の、オリエンタルな容貌の女がいた。


「――――!!」


 のけぞり、座っていた木の幹に背中を押しつけた。見慣れない顔の女だ。アジア系の顔がこんなのだといつかテレビで見た覚えがある。


「そこまで驚かなくても別に取って食ったりしないから。今日はそーだな、君にヒントを上げに登場したのだよOK?」

「お、OK」


 女は魔女らしい恰好をしていなかった。どこかの民族衣装なんだろう目新しい服を着ていて、前で合わせる形のようだがボタンがなく、布のベルトのようなものを腰に巻いている。ハリーの据わる枝に危なげなく立ち、彼を見下ろしていた。


「ヒントって――何を言いたいんですか?」

「ヒントはヒントだよ。君が一番悩んでることの、答えにつながるヒント」


 女は笑んだ。


「良く考えて、調べるんだよ? 問題を解くときは、自分がスプーナー教授になっていないかもう一度見直すんだ」

「スプーナー教授……?」

「物知りの友達に聞くと良い。彼女ならこのヒントが解けるだろうから」


 女はそう言うと、消えた。姿現わしができないはずのホグワーツで、女は真実視界から消え失せた――




 ハリーは転げるようにグリフィンドールの席に走った。大広間にひとはもうまばらだった。


「ハーマイオニー!」

「まあ、ハリー! 貴方ったら、一体どこにいたのよ?」

「僕らが勝った! 君が勝った! 僕らの勝ちだ!」


 『物知りの友達』の名を叫ぶように呼んだ。ロンがハリーの背中を叩きながら歓声を上げる。


「みんな談話室で君を待ってるんだ。パーティをやってるんだよ。フレッドとジョージがケーキやら何やら、キッチンから失敬してきたんだ」


 焦りで空腹を忘れたハリーは焼きたてのパンを掴んだ。冷えた指先が熱い。パンを振りまわすように腕を回して言う。


「それどころじゃない――どこか誰もいない部屋を探そう。大変な話があるんだ」


 三人はピーブズのいない部屋に隠れ、鍵を確かに閉めた。


「僕らは正しかった。『賢者の石』だったんだ。それを手に入れるのを手伝えって、スネイプがクィレルを脅してたんだ――」


 今さっき確信へと変わったことを話す。


「それじゃ『賢者の石』が安全なのは、クィレルがスネイプに抵抗している間だけということになるわ」

「それじゃ三日ともたないな。石はすぐなくなちゃうよ」


 ハーマイオニーが顎に手を当て、真剣に眉間を渓谷にした。ロンは絶望的だと頭を振る。クィレルがあのスネイプに抵抗し続けられる訳がない。


「それで、僕――女の人に会ったんだ」

「女の人?」

「ホグワーツの先生じゃなかった。見覚えなんてなかったし……アジア人だよ。その人はヒントだって言って、変なことを言ったんだ。スプーナー教授がどうとかって」


 訊ねるロンに頷いた。ハーマイオニーが先を促す。


「えっと『問題を解くときは自分がスプーナー教授になってないかもう一度見直せ』だって」


 ハーマイオニーが呆れたようにため息を吐いた。


「貴方たち、スプーナリズムって言葉に聞き覚えないの?」

「何それ?」

「あんまり聞かない言葉だね」


 ロンは頭を捻り、ハリーも耳慣れないそれに疑問符を飛ばした。


「スプーナー教授っていうのは、William・A・Spooner。オクスフォード大学の学寮長で、言い間違いが多かった人よ。例えばI’ll take a shower.(シャワーを浴びてくるね)をI’ll shake a tower.(俺はタワーを揺さぶってみせる)って言ったりしたの。つまりそのヒントは、言い間違いをしている可能性を考えなさい――つまり事実を見誤るなってことでしょ」


 ロンはハリーに知ってたかと目で訊ね、ハリーは首を振って答えた。


「でも、事実を見誤るなってどういうこと?」

「それを私に聞かれても困るわ」

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