Star Dust






 スネイプが、『あの』スネイプが審判をする。ハリーは今頃それに絶望して、ロンに足の骨折っちゃえYO☆ って言われてるんだろうな。


「見たか? ロングボトムのあの顔! 引きつってた」


 ドラコがまたガキっぽい悪戯をしたらしい。クラッブやゴイルと取り巻きを前に演説するように胸を張って、偉そうな空咳をしてる。ここらへんの話はあれだ、セブがクィディッチの試合の審判を申し出るところだな。

 アメリアは最近変身学のレポートの言い回しに凝り始めたのか下書きに同じ意味の熟語を連ねているし、パンジーは取り巻きの一人と化してるからいない。宿題なんてさっさと終えてしまい暇な私は何をするか――遊びに行こう。どこってもちろん、セブの部屋。


「セブセブセーブセ♪」


 ねるねるねーるねの音程に合わせて名前を連呼しながら部屋の扉を開けた。懐かしいお菓子だ、今度買いに行こう。発売前だったら落ち込むなぁ。


「レイノか。どうした、こんな時間に」


 今日は休日でもなけりゃ祝日でもない。本当にただの平日で、ついでに言えばまだ就寝時間に三時間あった。いつも来るのは二時間から一時間半前だから、珍しく早く来たというわけだ。


「皆が自分のことに忙しくて、私に構ってくれる優しい心の持ち主が一人もいなかったから」


 時々酷いことを言うアメリア。さらりと口が悪いパンジー、自慢が大好きなドラコことデコリーン。今も昔も思うが、私って友人少ないね。


「そうか」


 セブは苦笑して唇の端をクイと上げた。そしてそれが似合うから格好良いってもんだ。写真撮りたい。写真ない。コリン、今すぐホグワーツに来て頂戴! もちろんカメラ持参でね!


「そういえばセブ、クィディッチの審判するって聞いたよ。頑張ってね」


 いつも使ってる椅子を壁際から引きずる。セブはテーブルに広げてた本を閉じて私のお土産を受け取った。いつもの水出し紅茶ですよー。

 ところで今度の試合はスリザリンのする試合じゃないから何の憂いもなく試合を観戦できるよ。まあ時々恨みがましそうな――縋りつくような目で見られるんだけど。他の寮の、特に選手の皆さんから。スリザリンに行ったのがそんなに不満かね君たち。ところで君たちはスリザリンを嫌悪しているんじゃなかったのかね? 私もスリザリンなのだよ?


「もう聞いたのか。ああ、任せていろ」


 セブはティーカップを呼び寄せるとそれに紅茶を注いだ。前に独自のブレンドなるものを試してみたのだけど、不味かったらしく不興だった(アメリアとかドラコとかパンジー)。セブに飲ませる前の毒見役にしてるって知ったら三人どう思うだろ。


「うん、楽しみだね」


 セブの読んでた本の題名が『証拠の残らない毒物一覧』だったのを見ながら、私は笑った。





 ドラコに抱えられて移動。最近は急に寒くなってきたし、こんな寒い中薄着をするわけがない。セーターにコート、マフラーなんて目じゃないぜ、だってシュラーフザック、つまり寝袋に包まれてるんだもん。

 恍惚とした表情でお姫様だっこされてる私を見た生徒たちがギョットした目で見てきたけど気にしない。この暖かさは伊達じゃないのだ。


「レイノ……っ、いい加減、腕が重いんだ、がっ……!」


 息が切れてきたみたい。ドラちゃん馬鹿ね、こういうのはクラッブとかゴイルに任せなくっちゃ。いくら私が『ドラコ』に頼もうと、君の体力じゃ私を連れてくのは無理だよ。


「じゃあクラッブかゴイル、どっちか代わって」


 私がシュラフから出ればすべて解決だけど、実はこの中で私薄着なんだよね。もう出るに出れないというか。出たくないって言うか。


「レイノ、さっきから聞こうか悩んでたんだけど――どうしてそんな恰好してるのよ?」


 パンジーが芋虫な私に聞いてきた。今さらだよパンジー。


「寒いから☆」

「あ……そう」


 パンジーに呆れられた。何でだっ! 夏場でもジャンパー着て暖炉に火を熾すイギリスだぞ?! 本州生まれの本州育ち、それもまあまあ南の方で過ごしてきた私には地獄なんだよっ! 感覚は日本人の時のままだしさ! シュラフ暖けぇ。こたつ欲しい。作ろうかそれとも取り寄せようか。コンセントと電圧の問題は変圧器とかでどうにかなるし――取り寄せるかな。


「顔が寒い。寒いよー寒いよー、こんな試合どうでも良いから暖炉に手をかざしてたいよぅ」

「こら、暴れるなレイノ! 落ちるぞ!」


 ゴイルに抱っこされることになった私は見た目の通り芋虫みたいに暴れた。だって顔が寒いんだ。吹き付ける冷たい風が痛いよぅ。ゴイルの食べ物臭い服に顔を隠そうかと思ったけど、寒さと吐き気を天秤にかけたら寒さが勝った。


「レイノ?」

「あ、アメリア?」

「大人しくしてること。良いわね?」

「はい、アメリアさん」


 やっておしまいなさいなんて言えない立場ですごめんなさい。我儘言ってる自覚はあるんですが、甘やかしてくれる皆が心地良くて甘受させて頂きましたごめんなさい。お顔が怖いですアメリア様。

 グリフィンドール対ハッフルパフの試合は、セブが審判をするからだろーけど皆が見に来てた。ジジイが来てるのを見てセブが苦々しそうにしてたのって、ジジイがいたら自分が審判申し出る必要なかったからだよね。ジジイ酷ぇ。今度『アイラブ美少年』って書かれた上着贈ってやる。それとも『アブノーマルラブ万歳』とか。喜んで着そうだけど。


「グリフィンドールなんてハッフルパフに大敗してしまえば良いのさ」


 観客席で試合開始を待ってると、隣のドラコが鼻を鳴らした。試合前にハリーたちをおちょくりに行ったけど、私のアッシーをしなくちゃいけないからすぐに帰って来たみたいだ。じゃあロンとの喧嘩はなくなったんだな。

 笛の音と共に試合は始まり、五分足らずで終了した。だから来るの面倒だったんだよね、セブが審判するんじゃなかったら来なかったよ。それにしても顔が寒い。シュラフに魔法をかけてジャンパーにする。一応靴は持ってきてたからそれを履いた。


「どこに行くの、レイノ?」


 アメリアが目を丸くしたからグラウンドを指した。


「セブんとこ」

「いってらっしゃい」

「グリフィンドールの馬鹿共には気をつけるんだぞ?」

「教授がいるから大丈夫でしょうけど、ポッターには近寄っちゃ駄目よ」


 アメリア、ドラコ、パンジーだ。ええもちろん、特に双子のウィーズリーには絶対に近付きませんよ。

 塔内部の階段を駆け降り、グラウンドを突っ切った。スリザリンとハッフルパフ以外の寮から上がる歓声が煩いことこの上ない。ハッフルパフとしたら負けて悔しいだろうし、でもスリザリンが首位から外れたことが嬉しいんだろうし(そう考えるとなんかムカつく)、微妙な心境なんだろうなぁ。


「セブ! お疲れ様っ!」


 グリフィンドール選手はハリーを胴上げするのに忙しいみたいだ。ハリー酔うんじゃなかろうか、どうでも良いけど。セブの腰に抱きついて見上げれば、頭を撫でてくれる。


「疲れるほどのものでもなかったがな」

「まーね」


 五分で終わったんだ、疲労困憊してたらどんだけ体力ないんだ。私のニンバス2000を貸し出してたから、セブの手の中にあるのは今のところ使い勝手が最高ランクの箒だ――三年生になるときにはファイヤーボルトになるんだろーけど。セブは飛行術があんまり得意じゃないし、ニンバスなら楽かなと思ったのだけど、どうだろう?


「どうだった、ニンバス」

「うむ、使いやすかったな。思い通りに動く良い箒だ」


 私はハリーが宙に放り投げられてるのを――まあ、あんまり良い気分はしないまま視界から外した。双子の兄が勝ったのは嬉しいけど、私の育ての親が疑われてるのはあまり喜ばいことじゃなかった。

 箒置場に箒をなおしに行き、その後セブの部屋でまったりと紅茶を飲んだ。久しぶりに私の水出し茶じゃなくてセブの淹れた紅茶を飲んだような気がする。どっちが美味しいとか不味いとか、全然分からん。

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