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ハリーは布団の中で明朝のことを考えていた。明日はクリスマスだ。プレゼントをくれるだろう人の心当たりは数人しかいないけれど、例年よりも楽しくて嬉しいものになることは間違いない。レイノは送ったキャンデー詰め合わせを喜んでくれるだろうか? レイノにプレゼントを貰えるとは思わないけれど、もし貰えるなら嬉しい。ああ、明日の朝が楽しみで仕方がない……。
だんだんと落ちていく瞼に逆らわず、ハリーは眠りの世界へ旅立った。
「ママは身内じゃないとますます力が入るんだよ」
呼び声に起こされて部屋を出れば、クリスマスツリーの下にはプレゼントの山があった。ロンのお母さん――ほんの少ししか言葉を交わさなかったけれど、見るからに優しそうな人だった――のくれたセーターに自然と頬が緩む。
「ロンどうして着ないんだい? 着ろよ、とっても暖かいじゃないか」
急かすジョージに愚痴を言いながらロンはのったりもったりセーターを着る。
「イニシャルがついてないな。ママはお前なら自分の名前を間違えないと思ったんだろう。でも僕たちだって馬鹿じゃないさ――自分の名前くらい覚えてるよ。グレッドとフォージさ」
ジョージがニヤリと笑いながら言った。
「この騒ぎはなんだい?」
特にこの部屋は騒がしかったらしく、監督生――パーシーがひょっこりと顔を覗かせた。双子の姿に納得したのか嫌そうに顔をしかめる。腕の中にはウィーズリー家のセーターがあった。
「監督生のP! パーシー、着ろよ。僕たちも着てるし、ハリーのもあるんだ」
「ぼく……いやだ……着たくない」
逃げを打つパーシーをひっつかまえ、双子は頭から彼の分のセーターを被せた。ここまで持ってきてしまったのが運の尽きだろう。
「いいかい、君はいつも監督生たちと一緒のテーブルにつくんだろうけど、今日だけは駄目だぞ。だってクリスマスは家族が一緒になって祝うものだろ」
ジョージがパーシーの腕を掴む。フレッドも反対側からそれに倣う。
「ちょ、フレッド! ジョージ!」
暴れるパーシーを連れ去る双子に、ハリーは苦笑した。嵐のようにやってきて、同じ勢いで去っていく二人はとても楽しい。
「ねえ、ハリー。まだもう一つあるみたいだけど、開けないのかい?」
見えなくなった三人の背をいつまでも追っているハリーにロンが訊ねた。
「ああ、開けるよ。誰からだろう?」
残った一つは小さい割に重量のある箱型のもので、包装紙を破ればアルミ製の缶が出てきた。蓋を開ければバターの香りとカードが零れてきた。
「HOME MADE byレイノ・S――レイノからだ!」
チョコとプレーンのミックスで、ゆうに三十枚は入っている。カードには保存を良くする魔法が掛かっていると書かれていた。
「スネイプからかい? あいつがプレゼントを渡すなんて想像もつかないよ。ねえ、手作り(ホームメイド)って? 手で作らなかったら何で作るって言うの?」
「マグルじゃあ機械が作ってるよ。レイノはきっとマグルに詳しいんだね」
機械って聞いたことがある、前パパが言ってた! と目を輝かすロンの質問を流して、ハリーはクッキーをかじった。良質のバターを使っているようで香りが良く、でもとても薄口だった。
「甘くない」
「一枚ちょうだい――砂糖けちったんじゃない?」
失礼なことを言うロンと一緒に首を傾げ、ハリーはしかし喜びに包まれていた。レイノがプレゼントをくれた、そのことが嬉しくて。
今年のクリスマスはプレゼントを渡さにゃならん相手も増えたけど、くれる友人も増えたから差し引きゼロというところだろうか。ナルシッサさんには昨日のうちにセブ曰く『甘くないクッキー』を渡してある。白人の味覚は遺伝的に黄色人種のそれよりも弱いから『旨味』が分らないらしいけど、だからって言ってひたすら甘くする理由が分らない。――あれ、コーカソイドってモンゴロイドよりも体質が虚弱なのかね? 光に弱いし、味覚も弱い。なのに日光浴が好きって言うんだから良く分らない。
セブは甘い者が苦手だから、意外そうな顔をしながらサクサク食べてた。こんなに枚数食べるとは思わなかったみたいだ。セブみたいに「お菓子が甘すぎるから食べられない」って人もいるんだろうと思うんだがね。甘さ控えめってのは考え付かないのかね?
「ぷ、ぷ、プレゼント♪」
自作の下手な歌を披露しながら御開帳〜。パンパカパーン、どこで○ドア〜。某有名猫型ロボットの真似をしながらプレゼントを掲げた。秘密道具じゃないからさっさと腕を下す。虚しいなと思ったのは内緒だ。
「おお、素晴らしい……!」
セブから貰ったのは箒磨きセット。ハリーももらってたが、セブが選手としての私に期待してくれていると思うと胸があったかくなった。見ててねセブ、今期からスリザリン寮のビーターに死角なしだよ。
アメリアからはお母さんとの合作だというラスク。死ねというのか。感想ちょうだいね、と書かれているから――紅茶に浸して食べよう。少しはましになるはずだ。沈みながらラスクの蓋を閉めたら、蓋の色が淡い黄色から赤に変わった。魔法がかかってるみたいだ。もう一回開けてみた。
「こっちが本命か……」
出てきたのはもう一枚のカードとティーセット。これで紅茶を淹れるのを練習してねと書かれていた。つまり、私の淹れる紅茶はそんなに不味いんだな?
ドラコとマルフォイ夫妻からは、昨晩のドレス以外にプレゼント貰っちゃうのは凄く気が引けた。だって包装紙からして立派なのだ。開けるのがもったいないというか怖れ多いというか……。一応『甘くないクッキー』の別に日本からの帰り道に京都に寄って、左り馬のあぶら取紙と手鏡と櫛をシシーに、扇子をルッシーに、お箸をドラコに買ったよ? でもお値段が違いすぎるのさ。うむう……つき返すのは失礼だし、開けようか。
で、中身はと言えば柔らかな肌触りのストールだった。銀色の。銀色と言えばアレだよね、透明マント。紗を幾重にも重ねてて見るだけでも価値がある。使うのもったいないな、でも使わないとドラコ悲しむだろーな。
「ジジイからか」
ジジイことダンブルドアからはホグワーツわくわく探検セットというものを貰った。深夜徘徊許可証、閲覧禁止の本棚から自由に本を借り出せるジジイのサイン、ペン型ライト。……校長自ら深夜の徘徊を推奨してどーするっ!! カードには姿が他人から見えなくなる呪文が書かれてたけど、その呪文は知ってたから正直いらんかった。でもまあ、今までのプレゼントの中で一番ましだったな。
「パンジーのは何かな?」
――化粧を始める人用の化粧品一式。パンジーのカード曰く、『子供に見られないようにするには化粧しかないわ!』だそうだ。別に老け顔に対抗しようとか思わないし……逆に有難いと思ってるし……子供に見られても気にせんのだが、うん。そんなふうに考えている私とは違い、パンジーは私に向けられる周囲の視線に憤っていたようだ。有り難く――数年後に使わせてもらおう。消費期限はないのか、良かった。
ミネルバからはネッカチーフをもらった。そしてハリーからは――
「何でだよ」
キャンデー詰め合わせセット。とってもいらん。