Star Dust






 ――って! あわわ、時間がヤバいもう一時間もねえ! シシーも客の出迎えせにゃならんし、私ばっかりにかまってたらシシーの着替える時間が失せる!


「ナルシッサ、私だ」


 ルシウスもそう思ったんだろう、ノックの後部屋に入ってきた。ルッシーは私の姿を見て感心したように声を上げる。


「似あうな」

「でしょう? この髪留めともとっても合うのよ」


 シシーが私をくるりと回転させた。


「こんなに似合うのだったら――レイノ。このドレスを貰ってはくれないか?」

「え!?」


 いや、この服銀糸とか金糸とか縫い取られてるよ? 他にも宝石とか縫い付けられてるし、この服一枚でロンドンの一等地で土地を買えると思うよ?!


「嫌なのか?」

「いえ、こんな素敵なドレスを頂いてしまうなんて私にはもったいない気がして」


 私だって貯金くらいあるわい。でもさ、流石にこんな高価な物を気軽に譲っちゃえるほどじゃないんだよ。長者番付になんて載ってないんだよ。


「そんなことを気に病む必要はない。私が差し上げたいと思ったのだから、受け取ってはくれまいか?」


 おぉう、上流の人間だなぁルシウスは。丁寧だけど有無を言わせない言い方に逆に感心してしまう。自分がしたいと言ったんだから文句を言わずに従え、とも取れる言葉だが、そんなつもりはないんだろう。こういうのは嫌いどころか好きだよ、格好良くて惚れちゃいそうだ。


「では、お言葉に甘えて頂きますね」


 もらったは良いけど、いつ着れば良いんだろうか。




 ウィーン少年合唱団が中でも有名だが、ヨーロッパには少年合唱団はいくつもある。それの一つなんだろう、十一歳以下の少年(きっと魔法族。確実に魔法族)で構成されたアカペラーズが中央の台で待機してる。頬は薔薇色、髪はくるりと波打って、さながら絵画の天使のようだよ。これが成長するとむさくるしくて体毛の濃いガイになるんだから運命は皮肉だ。


「皆様、本日はマルフォイ家のクリスマスパーティーにお越しいただき有難うございます」


 ルシウスが開会の挨拶を述べ、パーティーが始まった。幼い声のポリフォニーが荘厳に響き渡る。骸骨の指揮者が指揮棒を振り体を揺らししている。

 セブと手を繋いでいたら微笑ましいものを見るような目で見られた。失礼な、私はもう十一だ! あんたたちと違って老け顔じゃないんだよ!

 でも時々、私を見た瞬間目を剥いて私とセブを見比べた人もいた。あれは一体どういうことだろうか……セブに娘がいるとは思わなかったってことなのかな?


「セブ、私もう疲れたよ」


 アントワープ聖母大聖堂のルーベンスの絵の前で、愛犬抱えて冷たくなりそう。私は犬飼ってないから羽毛になるな。じゃあ羽毛抱えて安らかに冷たくなろうか。ヘンドリック・レイ来んの遅いんだよ!


「ドレス選びが大変だったようだな、レイノ」


 ふらふらの千鳥足で現れた私を見てセブも分かってたんだろう、私の頭を撫でると抱き上げてくれた。セブはじゃあ私のアッシー君だね。アッシー君、私あのローストチキンが欲しいよ。ソースはかけなくて良いからね、単なる肉を食べたいんだよ。

 合唱団が天使の歌声を披露してくれてるけど、はっきり言って歌はどうでも良かった。ハレルヤと繰り返し歌われても、耳に指突っ込みながら『あ、そう』としか言えない。もうちょっと別の歌にしようぜ、例えばカーロ・ミオ・ベンとかアン・ディ・ムジークとか――いけね、これイタリア語とドイツ語だわ。でもハレルヤもラテン語だから良いじゃん。

 それからは人間にも――じゃない、私にも――食べられるものだけ食べて、疲れも取れてきたからセブから下りた。セブの腕もそろそろ痺れてきただろうし。

 セブの知り合いに挨拶して回る。主催者ってかルシウスにはもうパーティーの始まる前に挨拶してあるから飛ばした。


「ふむ。パーティーには久しぶりに出たが、なかなか楽しめるものだったのだな」


 セブが満足そうなのはアレだ。娘自慢をできたからだろう。私はもう、恥ずかしくて顔を上げてらんなかったよ……セブ、もうそこらへんで止めて下さい。貴方の娘さんは恥ずかしくて顔が上げられません。

 てか何で三歳の時に庭の枝折ったこと知ってんの? 今の杖買ってもらうまではあれ振って魔女の気分満喫してたけど、セブはいなかったんだから知らないはずでしょ!? どうして知ってるの!?


「そ、そう?」


 楽しんでるセブに比べて、私はもう減量した気分だ。おうち帰りたい。


「ああ。お前もいつもより食べているようだし、良かった」


 なんと、娘自慢に満足してただけじゃなかったんだね。その親ごころにキュンッ☆ このままじゃ私キュン死にしそうだっ。


「うん、今日は楽しいねぇ」


 遠目のルシウスはハゲて見えたし、ドラコもスキンヘッドに見えたし、セブは萌えをくれたし。素晴らしい日だよクリスマスイブ。これから君の誕生日を祝えそうだよジーザス。おめでとう、そして有難う素敵なプレゼント。

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