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家を出たのが昼の一時で、今は三時くらい。魔法って素敵ね。荷物を置きに階段を上がって部屋に向かう。二階にある、家の中でも日が射してて快適な部屋が私の部屋だ。この家はスリザリン寮くらいジメジメしてるけど、私の部屋だけそうじゃないんだよね。除湿魔法でもかけてあるんじゃなかろうか。今度確かめてみよう。
「ただいまー」
「おかえり。手は洗ったか?」
「洗うよー今からー」
ドタドタと階段を降りて、自分で淹れたらしい紅茶を飲んでるセブに声をかけた。そういや今の時間帯はアフタヌーンティーだね。アレだよね、いかに仕事をしないようにするか、と頭を捻った結果の産物だよねこの習慣って。イギリス人がみんな真面目に働いたら、失業者が大量に出ると聞いた時には笑っちゃったよ。
手洗いうがいは日本人として当然の習慣だけど、外国にうがいの習慣はない。国際結婚の女性が、帰宅してうがいしたら外国人の夫に「何ソレ」って聞かれて、夫が知人の歯医者(医者は医者でも確か歯医者だって気がする)まで連れてきて実演させられたって話を聞いたことがあったんだけど、実際こいつらうがいしねぇ。水でだけじゃ不安だから日本でアス○リンゴゾール買って来たぞ私。セブにもさせようかな。
「……何をしているんだ?」
うがいで「カエルの歌」を歌ってたら、聞きなれない音を変に思ったんだろうセブが洗面所に顔を出した。
「うがいだよ。喉の奥にいる雑菌を殺すのさ」
「――どこの習慣だ?」
私が日本びいきだと知ってるセブは、また日本か? と額に手を当てながら言った。モチのロンですよ。
「ジャパーン」
「またか」
「ダディ、うがいを馬鹿にすることなかれだよ! うがいは健康に良い習慣なんだからね! さあ、セブも一緒に!!」
「……どうやるんだ」
セブは慣れないからだろうけど、喉の奥を開かないで口の中でブクブクいわせちゃってる。難しいのかな、喉の奥開くのって。
「よく分らん」
「喉と食道の境界をカパっと開けるんだよ、そうとしか言いようがないよ!」
最終的にはセブもうがいを習得した。私ができて自分ができないのは格好悪いと思ったんだろうか? 必死になるセブの姿にほのぼのしたけど、これを口に出したら恥ずかしがるだろうから止めておいた。
さてはて、今夜はドラコん家でパーティーだ。懐かしいなパーティー。ヴォルディーに付いていくと私も闇陣営の仲間だと思われるから変身して行ったんだよね。
うさぎちゃんになるべきかセイントテールになるべきか迷ったよ。でもヴォルディーを『エンディミリオン!』って呼んでみたかったからうさぎちゃんに変身したんだよな。呼んだ時のヴォルディーの顔は面白かった。誰ソレって言うからロリコンの名前って答えておいたけどね!――間違ってはないよ?
「ねえねえセブ。セブも来るでしょ?」
なんてったってセブが唯一頼りにした先輩だもんね。それに加えて私が(主に食糧的な意味で)お世話になってるからねー。
「ああ。ドレスを借りるから早く行かねばならんのだろう?」
「うん。新調するには時間がなかったし、まだドレスの必要性を感じないし」
どうせ四年の時に買わにゃならんのだ。今んとこ必要ないよね。
「似合うドレスがあると良いのだが」
「奇抜なデザインでもなきゃどれも似たり寄ったりだと思うんだけどね」
「ふむ、少数意見だな」
目を丸くされた。何でだろ? 外人のガキって大概天使みたいな顔してるから(つまり今の私にもそれが適用されるわけだけど)、よっぽど奇をてらった服でもない限り似合うだろ。
「ううん、少数意見なのか……」
「そうだ。レイノには例えば――緑や銀色が似合う」
いやっほうスリザリンカラー☆
金色は似合わないと言われても、私だって金色のドレスなんて成金趣味っぽいものお断りだよ。
セブに姿現わししてもらって(私も出来るけど、したら問題になる)ドラコの家のすぐ前に現れた。いつ見てもでっかい家――っつーか屋敷だよなぁ。維持費にいくらかかってんだろ? こんな無駄の多い屋敷、処分しちゃえば良いのに。もったいないもったいない。これだからABBAに『金持ちはいつもお天気』って歌われるんだ。経費削減したら良いのに。売り払っちまえYO。
「レイノ! よく来たな!」
ドラコが迎えにきた。セブにも律儀に挨拶してるし、ハリーのこと以外ではちゃんとした子なんだよねぇ、ドラコって。
ドラコの案内で屋敷に向かう。門と屋敷の間は長く、家主やその家族か、許可をもらった奴じゃないとショートカットできないようになってる。実はアブたんから許可をもぎ取ってるからショートカットできるんだけど、したら問題になるからしない。
パーティーまで時間はまだたっぷりある。私に自慢の庭を見せたかったらしいドラコの先導でそこを歩いた。あ、あの首のえぐれた石像、私がしたヤツだ。
「ねーねードラコ。あの首のない像って」
どうして置きっぱなしなんだ? アブラカタブラへの嫌がらせにカメハメ波で吹き飛ばしたんだけど、片付けなかったんだね。何で?
「ああ、あれか。あの像は僕の祖父上が御存命の頃『あの像の首が私のそれの代わりに飛んだおかげで、私の首が繋がっている』と仰って、片付けないように命じられたんだ」
さようか。――まあ、サイヤ人の真似でストレスは解消したし、アブラカタブラに杖を向ける必要がなくなったのは確かだな。でもそうか、そんなこと考えてたのかー、アブたんってば。
シシーに会ってからはセブと別れ、衣装室に連れ込まれた。私に似あう(らしい)ドレスを選び出すまで何百着となく着せかえられ(魔法でだったから良かったものの、これがいちいち脱いで着てを繰り返さにゃならんかっとのだとしたら私は死んでたな)、パーティーが始まってもないのに私はもうクタクタだ。逆にナルシッサは生き生きしてるけど。シシー、私は貴女より年上なんだよ実は。年上は労わって……。
「これが良いわ!」
山のようなドレスの中から十数着に減り、また同じのを着ることになって、一番似合う一着が選び出された。貝殻の裏みたいな、緑色の波打った色のドレスだった。さり気無い銀糸と金糸のアクセントが上品で、袖がないから上にカーディガンを一枚羽織る。髪は前にルシウスがくれた髪留めでまとめた。うむ、良いのではないか?
「ああ、セブルスの娘だなんて残念だわ。私の娘になって欲しいくらいなのよ」
ノリノリのナルシッサはそんなことを言った。うーん、もし私がマルフォイ家に引き取られてたら、アブたんの禿げ化進行状況を生で見ることができたのか。ちょっと心惹かれるけど『セブの娘』であることが一番良いな。大好きな人の一番なんだから。