Star Dust






 私は自宅に帰りたいのだ。さっさと帰って日本に飛んで、即席ラーメンを買いたい。あの味が懐かしい。


「レイノ、二十四日に僕の家でクリスマスパーティーを開くんだ。来ないかい?」

「二十四日?――うーん、他に用事はないし、行くよ」


 ドラコに誘われ、私は少し悩んでから頷いた。でも二十五日はセブと家族二人のクリスマスだから他の用事なんざ入る余地はない。分るか、絶対にだ。


「あー……だけど参加するとなるとドレス用意しなきゃいけないんだよね? 面倒になってきた」


 やっぱりやめようか。私が精いっぱいドレスアップしても、ヨーロッピアンからすれば小学校低学年の女の子が背伸びしてるようにしか見えん。そんなほのぼのとした癒し要員なんてキャラ付けは性に合わんのだ。


「それなら母上が幼い頃のドレスがある。借りれば良い」


 ナルシッサさんの小さい頃のドレスか。私の髪が赤色だし、緑色のドレスとか持ってないかね?


「うん、分った。じゃあお言葉に甘えるよ」


 二十四日の予定はこれで詰まったな。アメリア――ビキンス家も名家の端くれだというし、ドラコは誘うつもりらしい。パンジーは当然誘ってあるんだろうなぁ、取り巻きの中では親しくしてる方だし。

 時計を確かめれば授業開始の二十分前。移動時間を考えるともう出た方が良いね。


「そろそろ授業だし、行こうか」


 グルフィンドールと合同の魔法薬学――セブの授業だ。受けるのは嫌じゃないんだけどあの寒さだけはどうにかならんものか? 今度シュラフを加工して全身を包めるジャンパーを作ろうかな。たしかそんな感じの上着羽織ったキャラいなかったっけ? 川の橋の下が舞台のマンガだったと思う。モコモコが欲しい。





「かわいそうに」


 ドラコが大鍋で暖をとりながら言った。そのくらい教室は寒い。歯がカチカチ鳴る……部屋か談話室に帰りたい。もしくはここから歩いて七分くらいのセブの部屋で布団に潜りこみたい。寮より近いし、それが良いかもしれないな。授業が終わったら行こう。どうせ次は空きコマだ。


「家に帰ってくるなと言われて、クリスマスなのにホグワーツに居残る子がいるんだね」


 ドラコがハリーを嘲っているようだがそんなことは知らん。今私にとって重要なのはいかに風邪をひかないかであって、ハリーいびりなんかじゃない。指先を擦り合わせ息を吐きかけて温める。赤ちゃんみたいにお包みにくるまっていられればさぞかし暖かいことだろう。ベビーカーでぬくぬくしている赤ん坊を幻視して憎たらしくなった。


「ドラコ、人を貶しても自分の価値は上がらないよ。自分を高めな」


 だけど今は目の前にない敵を憎むよりも、ドラコがガキ臭い(ガキだけど)醜態を晒すのを止めようか。


「レイノ?」

「格好悪いし、他人の足を引っ張ることほど醜いものはないからね」


 ドラコは黙った。宣誓。私はこれからドラコ紳士化計画を推し進めていくことを誓います。目指せ、精神年齢が高く格好良いドラコ!

 ロンを貶すシーンが無くなったのは、この言葉が効いたと考えて良いんだろーか?

 私は授業後、部屋に帰るセブの背中に貼りついた。他の言いがかりでハリーを罵るドラコの姿とハリー&ロンとハグリッドをチラリと横目で見ながら、ちょっとあくびした。





 クリスマス休暇、私はハリーのがみぞの鏡を見ようが見まいがどうでも良かった。今重要なのは、どうやって日本に行くかだからだ。チキ○ラーメン美味しいな、のCMが頭の中を回っている。でも出前○丁でもサッポロ○番でも良いよ。

 ソファーで日刊予言者新聞を広げるセブに言う。


「セブ、ちょっと遊びに行ってくるね」


 箒で飛んだら、一日や二日で帰ってこれるはずがないから姿現わしだ。それっきゃない。


「ああ分った。どこまで行くんだ?」


 セブが顔を上げた。そんなに行きづらい場所でもないし、時代が違うとはいえ前世の私の祖国だ。行って困ったことになるはずもない。


「ちょっとそこまで」


 ちょっとそこの、日本まで。時差の九時間は魔法でカバー。チートをいま使わずしていつ使う。


「気をつけてな」

「うん、じゃあ行ってきます」


 家を出て扉を閉める。この容姿じゃ奇異の目で見られるだろうから姿を変えた。ヴォルディーと別れた時の姿で良いな。目はそのままハシバミ色だけど日本人って人の目見て話さないし、分からんだろ。気にしないー気にしないー☆

 マルコメ坊主のとんち話のテーマ曲を口ずさみながら服も変える。お顔は残念で三級品なんだぜ☆


「いざ、懐かしの我が祖国へ!」


 角を曲がってきた男――セブとどっこいどっこいの年だな――が目を見開いて私を凝視したけど、魔法使いみたいだったから気にせず飛んだ。見覚えなんてない男だけど――誰だったんだろーか?






 どこか寂しい路地裏に姿を現わす。着地がちゃんとできたので三百点! と両腕をピンと高く挙げて小さく呟いてみた。……イタい子だな。時間もちょうど昼前くらいで、うむうむ、余は満足じゃ。

 日本の金はグリンゴッツでもう換金してある。うむうむ、五千円札が樋口さんじゃないのが逆に新鮮だね。二千円札もまだだし――うーん、年号眼鏡って確か、千九百九十年代にもあったよな。まあそれは置いておいて、即席麺だ。ラーメンラーメン!

 なるべく大きな街に行こうと思ったから東京なんだが。スーパーを見つけるのが大変だ。デパートしかない……よくよく考えてみれば、都市部過ぎて市街地じゃねーやココ。困った。どこまで行けば市街地なのか、東京に詳しくないからさっぱり分らん。

 でも三十年ぶりの日本だし、ちょっと人込みに流されてみるのも楽しいかも知れん。私は流れに乗ってみることにした。人ごみに流されて、変わっていく私を――という懐かしい曲が脳内でリピートした。「あなた」って担任教師のこと差してるんだよアレ。あ、でもこの時代じゃナウな曲か。ナウって言葉も現代じゃ死語だったんだけど。ナウでヤング! ナウでヤング!

 ひたすら知らない道を突き進んだらスーパーには行けなかったけど、商店街に辿り着いた。私って運良いんじゃなかろうか。






 商店街を入って歩けば、とある一角に野次馬が集まっていた。中心には怒鳴られてる外人さんと怒鳴ってる日本人……なんだなんだ、どーしたどーした。


「どうしたの、おじさん?」


 なだめる意味も込めて聞けば、この外人さんがおじさんの店の商品をつまみ食いしちゃったらしい。食うなら買え! ということか。でもなー、外国じゃあ、味見させてくれる店が多いんだよなー。ここらへん、東京って世知辛いなぁ。主要都市化して、逆にケチになっちゃったんだな。落語も前払い制が東京ってか江戸で、後払い制が大阪だったし。


「おじさん、この外人はそんな悪さしたくて食べたんじゃないよ、日本のやり方を知らなかっただけなんだよ」


 ううむ。久しぶりに人に対して日本語を話すが……これで日本語おかしくないよね? 自信なくなってきた。脳内はいつでも日本語――というわけじゃなくて、日本語と英語が混じってるからなぁ。英語ナイズされてたらどうしようか。


「それでもだ。ここは日本だ」


 おじさん、私の気遣いに答えてくれるつもりはないのか。江戸っ子ならもっとおおらかであれよこの野郎。仕方ないので外人を振り返った。


『お兄さん、ここの棚に並べられてたのは味見しちゃいけない商品だったんだよ。知らなかったから仕方無いとは言え、この人が怒ってるのもある意味仕方無いんだ』


 自慢じゃないが私はクイーンズイングリッシュを話せる。てか、それを手本にして学んだから、それが基準なんだよね。


『そうだったのかい? 僕の田舎じゃ味見なんていつでもさせてくれたんだけど』

『まあ、所変わればってことだよ。ローマに入りてはローマに従え。今度からつまみ食いしちゃ駄目だよ』


 二メートル近い巨体の兄ちゃんはどうやらアメリカ人みたいだ。見た目はオランダ人だけどRの発音がちょっときつかった。兄ちゃんにつまみ食いの分払わせ、一緒に町をぶらついた。


『君、英語上手だね。それもイギリス英語だろう?』

『三十年向こうで暮らしたら上手にもなるよ』

『三十年? 君、二十五歳くらいにしか見えないよ!』

『レディーに年齢の話をさせるんじゃありません――まあ、日本人の神秘だと思ってくれれば良いさ。お兄さんはアメリカ?』

『うん。田舎の方なんだけどね。大学で知り合った子を訪ねてきたんだけど、場所がよく分らなくて』

『案内しようか?』

『お願いできる?』

『地図読めば早いから』


 その後お兄さん(でも私のが年上……)を案内し、その日本人にスーパーまでまた案内してもらってラーメンを購入した。周り道だったけど日本人の知り合いが出来て余は満足じゃ。

 そして我が愛しのラーメンたちは縮小魔法で鞄の中へinだ。スーパーまで連れてってくれた前川さん(あの外人の友達。関西出身らしい)や店員が目を剥いてたけど、そんなに多く買ったかね?

 宇宙船な焼きそばも買ったし、即席麺は色々買ってしまった。五食入りで百九十九円ってかなり頑張ってる値段だよね。私のいた二十一世紀じゃ考えられないや。――まあ一人で買って帰る量じゃないな。どうしてそんなにって聞かれたからイギリスの飯が不味くて食えたもんじゃないからって答えたら、同じ日本人だからか前川さんが多いに賛同してくれた。味濃いよね、外国料理って。薄味育ちの我々にはもはや刺激物のレベル。でも我々は東京の蕎麦とうどんも食べらんないよね、刺激物だから。温かい蕎麦の汁が飲めないとか有りえん。前川さんが客が二人も来たってことで奮発して蕎麦の出前を取ってくれたんだけど、汁の辛さに泣けた。

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