Star Dust






 ハロウィンパーティーを乗り越えれば十一月、楽しい嬉しいクィディッチの季節だ。ナルシッサさんの送ってくれる食料のおかげで試合を前にした私の体調は十分に良い。有難うナルシッサさん。神棚作って毎日礼拝しようかな……いや、私が作ると仏壇っぽくなるから止めよう。


「グリフィンドールの奴らはポッターの下をかけずり回るんじゃないか? 落ちてきたとき拾ってやれるようにさ」


 ドラコが皮肉げに言った。うん、今回はかけずり回るだろうね。箒がシェイクされるしグリフィンドールの皆はムンクになると思うよ。

 それにしても、ハリーがシーカーになるのは極秘事項じゃないのかグリフィンドール? 私がビーターになるのも極秘扱いだけど同じ『極秘』とは思えない差だよ。公然の秘密ってことかね。グリフィンドールはおおらかってか大ざっぱなのか。


「レイノ、頑張ってね」


 アメリアが両肘を突いて両手の上に顔を置き、楽しそうに笑った。ワクワクしてるのが見れば分かる。


「うん。私のテクニックの前ではみんな腰抜けさ☆」

「なんだか厭らしいこと言ってるみたいよ、それ」

「そういうつもりで言ったから良いんだ」


 突っ込みを入れるパンジーにニヤリと笑えば、肩をすくめて溜息まで吐かれた。ここは冗談でも『キャアレイノってば恰好良い惚れる!!』って言って欲しかった。


「もうそろそろ行かなくちゃ。着替える時間もあるし、ウォーミングアップもしたいしね」


 私はナルシッサさんからのマナを食べ終え、口元を拭った。いってらっしゃいとアメリアが手を振り、周囲のスリザリン生も暖かい目を向けてくる。本当に身内には優しいよねスリザリン。二番目の家族みたいで好きだよ。ゴリラ以外。


「――レイノ」


 歩き出そうとして呼び止められた。


「どーしたの?」


 教師席から離れてセブがこっちに来てた。一体どうしたのやら珍しい。公私混同しないセブだからこういう場所ではあまり話したりしないのに。テテっと近寄れば、セブが……いつも他人の前で浮かべてるのとは違った、家で見るそれのように微笑んだ。周囲は騒然そりゃ当然。見慣れなけりゃ衝撃的だもんなコレ。


「頑張って来い。見に行くからな」


 そう言って頭を撫でられた。ドラコが『スネイプ教授……あんな笑い方できたのか』と呟いてるのが聞こえた。アメリアは『親子なのねー』と納得した風だ。パンジーは固まってる。ついでにクラッブとゴイルはこちらを見もせずに飯を貪ってた。おいゴリラぁ!!


「――うん!」


 超頑張っちゃうよ。セブが見に来るって言うから。

 セブに向かう刺すような視線に気付いて元を探せば、ハリーが妙にギラギラした目でセブを睨んでた。原作ハリーじゃなくて黒ハリーなのかな。





 チェイサーのエイドリアン・ピューシー、シーカーのテレンス・ヒッグズ、リーダーのマーカス・フリント等々、スリザリンチームは脳みそより筋肉を揃えてる。私はゴリラの筋肉壁に囲まれて隠され、斜め上にある観客席からも見えないようだ。だって私からも見えないから。一体自分が今どこを歩いてるのかさえさっぱり分からないのだ。

 『スリザリンチームのビーターが一人足りない』。そんなざわめきが観客席を満たした。もちろんスリザリン生は落ち着いたもので平気そうにしてて、ますます混乱は広がった。そりゃそうだ、まさか私みたいなか弱い乙女が筋肉の壁の中に隠されているとは分かるかずもない。

 マダム・フーチがいる中央部に着くとやっと筋肉の柵から出ることができた。騒ぎ声は大きくなる。一年生の選手が二人――それも片方はその寮監の娘ときた。贔屓か、贔屓だろう、と噂し合う声が聞こえる。どうやらあいつらはブラッジャーに打たれたいらしい。顔を覚えといてやるから首を洗って待ってろ。


「さあ、皆さん、正々堂々戦いましょう」


 マダム・フーチの顔がフリントに向けられてるのは明らかだった。ルールも覚えられない脳筋なんだから仕方ないと思う。


「よーい、箒に乗って」


 私の箒とハリーのは同じ製品だが、この私をなめてもらっちゃ困る。経験と実績の差というものをとくとご覧に入れようではないか。ハハハ! せいぜい逃げ惑うが良い愚民共!

 銀の笛が高らかに鳴った。以下、リーによる実況中継。


「アリシア・スピネットにきれいなパス。オリバー・ウッドはよい選手を見つけたものです。去年はまだ補欠でした――ジョンソンにクァッフルが返る、そして――あ、ダメです。レイノ・スネイプの打ったブラッジャーがクァッフルを叩き落としました。スリザリンに渡ります。キャプテンのマーカス・フリントが取って走る――鷲のように舞いあがっております――近寄るチェイサーがスネイプにより弾き返されています。今年の一年には有望株が二人いるようです――フリント、ゴールを決めるか――いや、グリフィンドールのキーパー、ウッドが素晴らしい動きで止めました。ウッドの顔に――ウッドは避けましたが――ブラッジャーが打たれました、スネイプです。これほどの技術がどこで身に着いたのか、是非親御さんに聞いてみたいところであります。クァッフルは再びグリフィンドールへ――あ、あれはグリフィンドールのチェイサー、ケィティ・ベルです。フリントの周りで素晴らしい急降下です。ゴールに向かって飛びます――あいたっ!――これは痛かった。ブラッジャーが後頭部にぶつかりました」


 親御さんに、の下りがなんだか物言いたげだったのは気のせいじゃないだろう。それにしても良く舌の回ることだ。リーのこれは才能だよな。

 それから私はブラッジャーを打ちまくり、スリザリンの得点に貢献した。ハリーがシェイキング箒でヤバいことになってる間はフリントにブラッジャーが当たらないよう四方八方に打ち、時々見上げては溜息を吐いた。この事件のせいでセブは疑われ(怪我も一因だけど)、その疑いは晴れることなく死んでいくんだ。死んでから思い出を美化されたってな……。ハリーが我が子に言うことになる台詞は偽善だ。

 百七十対百でスリザリンは負けたが、原作じゃあ六十だったんだから悪かないだろう。
 試合後、アメリアに抱きつかれて押し倒された。体長差を考えてくださいアメリアさん。

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