Star Dust






 次の日グリフィンドール席をチラっと見てみれば、二人は目の下に隈を作って、でも上機嫌に大広間にやってくるところだった。寝不足でハイになってるんじゃなかろうか。深夜のテンションがそのまま続いているのだとしたら今日の二人とは関わりたくない。どんな理論の飛躍をされるか分ったものじゃないもんね。

 私は死にかけるような冒険なんてまっぴら御免だし、次の冒険はまだかしら☆ とか思えるような強心臓の持ち主じゃない。ハリーは能天気なのか、それとも紙一重というものなのか、分からん。物語の主人公達はえてして無謀で能天気で、なのに幸運値SSなんだから羨ましい。

 ワシミミズクがいつものように藤の籠と手紙を運んできた。手紙を読んだドラコが決闘のことなんて忘れたように満面の笑顔になる。


「父上に、レイノがビーターになることを言ったんだ。父上がお祝いを渡すつもりだって」


 来年は僕ももちろんクィディッチのチームに入るが、レイノは上手だから当然さ、とドラコは自慢そうだ。おおかたスリザリンの誇りとか思ってるんだろう。でもさドラコ。私、あのゴリラーズとチームワークをとれる自信がないんだ。傍目に見れば私は野獣の園に投げ込まれたか弱い兎なんだからね、そこを理解してくれると物凄く有り難いんだけどね!


「素敵ね。おじ様のことだし、きっとクィディッチの一式とか下さるんじゃないかしら?」


 パンジーはどうやらルッシーと面識があるようだ。一式っていうと、箒磨きセット、バット、とか? 制服は寮から支給されるし、いったい何が贈られてくるのやら。



 贈られてきたのは予想外に髪留めで、エメラルドを散りばめた銀細工だった。これで髪をまとめろっつーことだろうが、緑と銀なんて、とってもスリザリンなカラーですな。





 次の週目覚めれば、枕もとにはワア驚き☆ ニンバス2000が鎮座ましましていた。いらねえええええええでも来ちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


「わあ、これがニンバスなのね?」


 私の「WAO☆」という声で起きたアメリアがニンバスの柄を撫でさすった。とろけるような目をしている。魔法界の子供は――大人もだけど――みんなクィディッチが好きだな。私はクィディッチはサッカーの次くらいに好きだ。一番がカープ、二番にタイガース、三番目に旧ホークス。え、サッカーじゃないじゃないかって? それはまあ、言わぬが花だよ。


「ねえレイノ、これでしっかりポッターをぶちのめしてね」


 アメリアさん、言葉のチョイスが物騒です。


「えー、うん。まあ……できうる限りは」


 だんだんと分かってきたことがある。アメリアは自分の興味あることと、自分の境界に入ることを許した人間以外には容赦ない。身近な私からすればライン分けがはっきりしているアメリアの性格は分かりやすいんだが、ライン内とライン外への対応の差が極端すぎて傍目には未知の存在だ。私はたった一人の同室生だからかお互いだけを観察することができて、だからアメリアをちょっと理解しやすかったんだろう。


「ほんとね、嘘にしないでね」


 アメリアに駄目押しされ、私は苦笑を浮かべるしかない。技術的に問題はないし兄に向かってブラッジャーをかっ飛ばすのに躊躇はないんだが、呪いをかけられてシェイクされてるハリーに向かってブラッジャーを打つような陰湿なことはしたくない。だからハリーをぶちのめすのは二回目以降かね?


「――うん、善処するよ」


 後で考えさせてくれ。






 朝食の席でハリーは箒を受け取っていた。公然の秘密にしたかったのだろうか、ミネルバばーちゃんの意図が掴めん。もし秘密にしたいのならこういう場所で渡すのは誤りだ。

 横でドラコが憎々しげに肉を引きちぎっている。生え際が高速で後退していきそうな勢いだ。禿げろ、その勢いで禿げるんだ!!


「ポッターめ、ポッターめ……!」


 自分が思い出し玉を投げたからハリーが曲芸したことを分かってるから、ドラコは皿とフォークをカチャカチャといわせる。


「ドラコ。でも私も、ネビルが暴走したおかげでビーターになるんだよ。お互いさまさ、これでグリフィンドールは最悪の敵を自ら作ってしまったんだからね」


 私がビーターになるというのは本当に――本当に内密にされている。おおかたセブが教師陣に緘口令敷いたのに違いない。

 そして、私を見て内緒話や噂話をするような奴はいない。スリザリンの一年と先輩達は話を聞いて喜んでいるらしいけど、外に噂が漏れるなんていうことはこの寮に限って全くない。お外が嫌いなスリザリンだからたとえレイブンクローが相手でも漏らすことはない。身内が大好きって類の人間の集まりだしね。


「レイノならあの事件がなくっても推されてたわ。だってレイノ上手だもの」


 アメリアが我がことのように自慢そうに言った。そう言ってくれてうれしいよアメリア。君ってば、友に持つと本当に素敵なやつだよな――敵に持つと性質が悪いけど。

 昨日飛行訓練があった。が、飛び慣れてる私なら身についているのが当然の技術が初級者にあるはずもなくあっちヘフラフラ、こっちへヨタヨタ、な生徒を放って遊んでいたら、マダム・フーチにどこでそんな飛行法を身につけたんだと訊ねられたりした。前世です、とか答えたら電波系と思われるだろうな。半分前世みたいなものだけどね。


「はあ……それにしても、ニンバス2000……素晴らしかった」


 アメリアが部屋に置いたままの箒に思いを馳せた。あれは一応私の箒だけど、私が金を払ったわけじゃない。ある意味スリザリン寮の共有財産だ。乗りたいと言うなら乗れば良いと思うんだよね。


「乗りたいんだったら乗る? ちょうど一時間目は授業がないし」


 ドラコも乗りたいと顔に書いてたから、もちろんドラコとパンジーも誘った。クラッブとゴイルはいてもいなくても空気だから放置。箒より食い気に興味津津の胃袋ブラックホール二人を置いて一度寮に戻り、私たちは箒を持って人気のない城の影に向かった。

 来年にはドラコもチームに参加できるだろう。そこらへんのガキより才能があるし――唯一の弱点といえば肝っ玉が小さいことだろうか。だけどそれも訓練でどうにかなる。

 週三度の練習が面倒だけど、ドラコが入ると言うのならしても良いかもしれない。

- 23 -


[*pre] | [nex#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -