Star Dust






 毎晩就寝前に一時間、私は魔法薬学教授の自室で過ごしている。つまりまあ、セブの部屋だ。

 室内は明るく、目に痛くない程度の光が照らしていた。みんなはセブの部屋は暗くてどうだこうだと言うけど、レポートの採点とかするのに暗かったら視力落ちちゃうからね。その時々で明るさを調節してるらしい。ついでに今の明るさが一番明るく、私が来た時用だそうだ。


「はい、セブ」


 寮や広間ではドラコが紅茶を淹れてくれるし、その前の二十年はヴォルディーが淹れてくれたし(時々アブラカタブラとかオリオンとか)、私の淹れる紅茶は不味い(不味く淹れてるつもりはないんだがな)ままだ。でもセブは私の淹れる紅茶を嫌な顔一つせずに飲んでくれるし、頭を撫でてくれたりする。本当にお父さんだよね、セブ。でもこういうのは教えて欲しかったな……。


「ああ」


 時計の針は八時半を指していた。あと一時間半もすれば寮からの外出が禁じられ、外出が見つかった場合は罰せられる。トイレ掃除一週間(もちろんマグル式)とか、減点とか色々。


「今日は疲れた。私は始めビーターになるつもりなんてなかったのに、みんな乗り気で流されちゃったよ」


 まあ、やると決めたからにはしますがね、押し流された気持ちが拭えないのですよワトソン君。


「そうだったのか? 周りが騒いでいるし、お前も何も言わなかったから当然やる気があるのだと思っていたが」


 セブが紅茶から顔を上げた。


「んにゃ、どっちかって言うと流された感じ」


 ところでセブ、実はその紅茶は水出しなんですよ。水出ししたのを温めたんです。お味はいかが?


「美味くなったな、レイノ。練習したのか?」


 セブが紅茶のカップをクイと持ち上げる。――良かったようだ。そしてやっぱり私は下手だったようだ。なにそれ凹む。


「ううん。コレ、水出し」

「水出し?」

「お湯じゃなくて、お水でゆっくり淹れたんだよ」


 だから失敗しませんでした。お湯だと確実に失敗することが判明したな。


「ふむ、悪くない。今度から水出しにしてくれ。――今からでも遅くはない。止めたければ止めても良いんだから、そうなら言え」


 セブは初めて不味くない私の紅茶に満足したみたいで、いつもより顔が緩んでる。お父さんは娘に甘いねぇ。


「やるよ、私。ドラコたちも期待してるみたいだし、私もやる気でたし。見ててねセブ、私の前に敵なしと思い知らせてやるから」


 後半は冗談と思ったんだろう、セブは期待している、と笑いながら言った。まあ、初めて箒で飛んだばかりの子供が、数いる先輩たちを滅多打ちにできるとは考えられないよね。私がセブの立場だとしても信じられないだろうし。その幻想をぶち壊す!

 父親と過ごす一時間は短いと思う。今までが今までなだけに、私は後ろ髪引かれる思いで寮に戻った。

 真夜中少し前に、寮の出入り扉に来てくれるように頼んで。





「ほら、レイノ! 行くぞ!」

「やーだー! 絶対フィルチに見つかってジ・エンドだって!」


 ドラコに腕を引っ張られつつも、私は扉にむしゃぶりついた。パンジーが呆れたように言う。


「行かなきゃ、スリザリンは腰ぬけだって言われるわよ?」

「じゃあ、私個人が腰ぬけということでよろしいでしょう。行ってらっしゃいませ、お坊ちゃま、お嬢様」

「馬鹿か」


 真面目に言ったのに扱き下ろされた。七割本気だったのに!!


「……一体、何をしている?」


 背中の方向から新しく加わった声は私の待ち望んだものだった。足音しなかったよ、セブ。どこでそんな隠密の技習ったのさ。


「きょ、教授!」

「これは――」


 ドラコとパンジーがどもる。ついでにいえば、アメリアはとっても健康的に十時の鐘と共に就寝した。私を部屋から追い出して「行ってらっしゃい」と言った上で。同室者に追い出されるとかないわ、本当にないわ。


「生徒の夜間の外出は認められていない。Mr.マルフォイ、Miss.パーキンソン。老け薬の効果的使用法についてレポート六十センチ。レイノは――」


 セブが悩むように眉根を寄せた。どう見ても私は被害者だ。だがパンジーが口を開いた。


「教授、レイノは悪くないんです」

「ポッターたちとこれからトロフィー室で決闘するつもりで、僕達がレイノに介添え人を頼んだんです」


 頼んでないじゃん!! 事後承諾って言葉を知っているかいドラコ? 言ったのはパンジーだったけど。でも庇ってくれて嬉しいよ。実はセブを呼んだのは私だって言ったら怒るだろうがな。


「それでは、レイノ。二人のレポートを手伝ってやれ」

「はい」


 期限は三日後だ、遅れるなよと言い残し、セブはトロフィー室を見に行くためだろう、踵を返した。


「……寝ようか」

「ああ」


 私が聞けば、ドラコがちょっと情けない顔で頷いてきた。そんなに行きたかったのかね、決闘。男という生き物は分らん。


「そうね。ねえレイノ、今日あなたの部屋に泊まって良い?」

「ベットないから共有になるよ?」

「気にしないわ」


 もう同室のみんなは寝ちゃってるし、帰ってきた音で起こしたくないのよね、と言うパンジーと一緒に女子寮の階段に向かう。ドラコと就寝の挨拶を交わして、私らは部屋の扉を閉めた。

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