Star Dust






 ハーマイオニーがついに立ち上がり、天井に届けとばかりに手を伸ばした。我慢できなくなったらしい――ハーマイオニーに当たらないのは当然だろう。スネイプのこの質問はハリーをいびるためだけのものに違いないのだから。だからこそハリーはこう言った。


「分かりません。ハーマイオニーが分かっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」


 グリフィンドールから笑い声が上がる。周囲を横目で見回せばシェーマスと目が合い、良くやったとばかりにウィンクされた。誇らしくなって胸を張ればそれが苦笑いに変わる。


「座りなさい」


 言われたハーマイオニーは不満そうにしながらも従った。スネイプの機嫌が悪くなったのは誰の目にも明らかだった。


「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは一点減点」


 答えを羊皮紙に書きうつそうとみんなが羽ペンなどを取り出す中、スネイプはその音に被せるように言った。

 そしておでき薬を作る間中ずっとグリフィンドールは念入りに叱責を受け、ネチネチと嫌みを言われた。何も言われなかったのはマルフォイとレイノだけで、それどころかレイノはおでき薬をさっさと完成させてマルフォイの手伝いまでしている。


「あいつ絶対、スネイプから先に教えてもらってるに違いないよ。でなきゃあんなに早く作れるもんか」


 ロンがレイノを罵る。ハリーもそんな気がして否定できなかった。

 マルフォイが角ナメクジを完璧に茹でただから見るようにとスネイプが言ったが、マルフォイの成果なのかレイノのおかげなのか分らないな、とハリーは考えた。


 ――と、緑色の煙がどこからか立ち昇り、換気の悪い地下室を満たした。シューシューという普通ならしない音がして誰かが何か問題を起こしたと分かる。

 被害を受けたのはシェーマスの鍋と生徒数人の靴底、おでき薬に失敗したネビル本人だった。ハリーはネビルの隣で作業していたが、おでき薬もどきの被害者にはならずにすんでいた。もしかしたらハリーが気付いていないだけで服のどこかに穴が空いているかもしれないが。


「ポッター、針を入れてはいけないとなぜ言わなかった? 彼が間違えば、自分の方が良く見えると考えたな? グリフィンドールはもう一点減点」


 ハリーは全くそんなことなど考えなかったし、それどころかネビルが失敗したことさえ煙が晴れるまで知らなかった。理不尽な言い掛かりに反論しようと口を開きかけ、ロンに小突かれて止めた。何で止めるのかと文句を言いかけロンの顔を見て止める。


 授業が終わってレイノの姿を探すと――あの陰険教師に走り寄っていた。レイノの考えていることを知れるはずもないハリーは肩を落とし、ロンに慰められながら地下室を出て行ったのだった。





「セブ」


 授業が終わって、地下の教室には私とセブだけになった。セブは私から目を逸らしている。わあ、目を合わせられないって自覚はあるんだね? 全く、嬉々として八つ当たりする様子には萌えるけどみっともない。それでも三十なの?


「……何だ」

「セブもさ、恥ずかしいと後悔するくらいならやらなきゃ良かったのに」


 少なくともさっきのセブの言動は、大人として格好悪かった。子供に示しがつかないよね、それも我が子が受けてる授業でやったとか……本当に格好悪いよね。言っちゃなんだけど、うん。苛め恰好悪い。


「恥ずかしくなど、ない」

「なら何で目逸らしてんの」


 萌えシーンとして堪能しましたが、それとこれは別ですよ。これは親子の問題っすよ。みっともないパパはいりません。


「もうあんな姿見たくないよ。セブは私のお父さんなんでしょ?」


 セブがやっと目を合わせてきた。「お父さん」効果は絶大だよ、セブの機嫌が良くなるって意味で。


「じゃあ、私そろそろ寮に帰るよ。ドラコたちが待ってるからさ。――また来るね」


 私は一方的に切り上げて教科書を抱えなおした。落ち込んで、でも機嫌が直ったならもうこれ以上言う必要もないだろうし。さっさと帰ってアメリアとお茶しよう。


「レイノ……格好悪い姿など見せてすまなかったな」


 扉に手をかけた時セブのそんな声が聞こえてきて、私は笑った。


「――うんっ!」


 寮ではドラコに実習での礼を言われた。貰ったクッキーを茶請けにアメリアの淹れた紅茶を飲む。どうも私は下手みたいで、ドラコに「お前は淹れるな」とティーセットを奪われた。でもセブは文句言ったことないよ?





 ハグリッドの木の小屋でロックケーキを食べるのを諦めながら、ハリーは彼のローブをよだれだらけにするファングの頭を撫でていた。


「気にするな。スネイプは生徒という生徒はみーんな嫌いなんだ」


 スネイプの初授業について愚痴をこぼせば、ハグリッドは仕方無いと肩を竦めた。


「でも僕のこと本当に憎んでいるみたい」

「ばかな。何で憎まなきゃらなん?」


 わざとではないのだろうがハグリッドはハリーと目を合わせなかった。ロンがハリーの言葉を補てんするように文句を言う。


「それに、あのスネイプの娘! 贔屓されてるに決まってるよ! あんなに早くおでき薬ができるもんか!」


 僕なんて授業時間ギリギリまで出来なかった、とロンは憤まんやる方ない様子で、レイノの薬のあまりに早すぎる完成を疑っている。でも、とハリーは考えた。事前に少し教えられていたくらいであんなに速く作れるものだろうか。


「レイノが? スネイプ先生に贔屓されちょるだって? そんなことあるわきゃねえ、だってレイノはハリーの――」


 ハグリッドはハリーの顔を見た瞬間、唇をへの字にした。まるで何か言葉を飲み込んだような様子で、ハリーは胸騒ぎがした。


「いかんいかん、これは言っちゃならねえんだった」

「僕の、何なの? ハグリッド!」

「聞かんでくれ。これはダンブルドア先生にも止められとるんだ」


 身を乗り出して訊ねるハリーの顔の前で手を振って、ハグリッドは話題を変えた。


「チャーリー兄貴はどうしてる? 俺は奴さんが気に入っとった――動物にかけてはすごかった」


 ハリーの質問は取り下げられ、疑問がハリーの胸に渦巻いた。レイノが、何? 僕の何なの?

 少なくともハリーの関係者だというのは分かるが、一番聞きたい詳細は聞けなかった。ロンは兄自慢の話に花を咲かせ、ハグリッドもそれにウンウンと頷いている。レイノは僕の、僕の――何なんだろう?

 ロンの兄弟の話に夢中な二人に少し疎外を感じ、ハリーはテーブルの上をなんとはなしに見まわした。ティーポットカバーの下に紙切れを見つけその紙に書かれた記事を読んだ――「グリンゴッツ侵入さる」。


「ハグリッド! グリンゴッツ侵入があったのは僕の誕生日だ! 僕たちがあそこにいる間に起きたのかもしれないよ!」


 ある意味魅力的ともいえる内容にハリーは声を上げた。ハグリッドが目を逸らす。ロックケーキを勧められたがこれが食べられるほどハリーたちの歯は強靭ではないので無視だ。


「荒らされた金庫は、実は侵入されたその日に、すでに空になっていた」


 七百十三番金庫を思い出し、ハリーの頭ではぐるぐると想像が巡った。小さな包みしか入っていなかったあの金庫は、ちょうど七月三十一日に空になったのだ!

 これ以上いたら夕食に遅れると言われ、ハリーとロンは木の小屋を追い出された。来てくれた礼だとロックケーキを押し付けられ、二人のポケットは重い。それはまるでハリーの悩みのようで、スネイプのこと、レイノのこと、七百十三番金庫のこと――この三つが彼の歩みを遅くした。その日の夕食の味は良く分からなかった。

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