Star Dust






 スリザリン生は純血か混血でも血が濃い家系の出身者ばかりだ。だからどこの家もみんな入学前の勉強をさせていて、レイブンクローを別にすれば他の寮に比べ生徒全体のレベルが高い。


「レイノ! 今日は記念すべきことに、我らが寮監の初授業だ!」


 金曜の朝。ドラコがあんまりにもったいぶった言い回しをしてくるから、初め何を言いたくてそんなことを言ったのか分らんかった。


「うん、そうだね」

「――? 君は嬉しくないのかい、父親の授業だぞ?」


 私の横でライ麦パンを食べているアメリアが、そういえばレイノはスネイプ先生の娘だったわね、と言ったのにドラコが脱力した。私はもう慣れたぞ。アメリアは天然で、興味関心のないことはすぐ忘れる。本当に何でスリザリンに来たんだろうか。


「そりゃあ嬉しいけど、たとえば私が質問に完璧に答えられたとするよ? そしたら事前に質問の内容と答えを教えてもらってたんじゃないかって疑われる可能性が高い。だから面倒としか思えないんだよね。なお悪いことにグリフィンドールとの合同だしさ」


 特にロンあたりは、「贔屓だ! 娘だからって!」とか言うに決まってる。馬鹿か、セブみたいなタイプこそ身内には点が辛くなるっての。


「ああ、なるほど。まあ大丈夫さ。僕も父上からスネイプ先生は公平な方だと聞いているし、スリザリンには君を疑うような馬鹿などいないさ」


 スリザリンでは「公平な人」なんだね。グリフィンドールじゃあ贔屓してるって悪評立ってるみたいだけど、ところ違えばってことかね。スリザリンに対してネチネチ言うことが少ないのは元々家で家庭教師とかを付けている子が多いからだって思うんだけど、どうだろう。少なくとも五十年くらい前のスリザリンではそうだった。


「そうなら良いんだけど。ま、授業は楽しみだよ? セブも休暇にしか家に帰ってこれないから、ちゃんと教えを受けるのは初めてだし」


 スラグホーンの授業は――まあ、役に立ったと思うよ? ほっほう、ほっほうばっかり言いやがってうざかったのを除けばレベルもけして低くなかったし、悪くなかったと思う。


「そうなのか? 僕はてっきり先生が教えているものだと思ってたんだが」

「参考書はくれたけど直接教えてもらってはないね。誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントはだいたい参考書だったよ」

「それは――そうか」


 信じられないとわんばかりの顔を一瞬してドラコは頭を振った。まあ普通の子供なら泣きながら放り捨てるだろうな、そんなプレゼント。アメリアはどこもおかしいと思わなかったのか、凄いわねと言ってニコニコした。


「でも一番嬉しかったのはアレだな、『困った!に役立つ呪文集』。あれは一番役に立った」


 ヴォルディーにも使ったしね。反抗期の鍋に上下関係を分らせる魔法とか。凄く悔しがってたのを覚えてる。僕は人間なのにっって人権を訴えてたけど、鍋以下のことしたのはヴォルディーなんだから仕方ない。


「そんな本があるのか」

「私それ知ってるわ。パパが愛読してるもの」


 うっとりと笑む私にちょっと引いた様子でドラコは後じさった。そんなに怖かったかしらん?


「ま、まあ、授業が楽しみだな」


 ドラコはわざとらしく話を逸らした。


 ついでにその後、アメリアのお父さんとは話が合いそうなので、紹介してくれるように頼んでおいた。






 魔法薬学は地下の湿っぽい、セブの性格みたいな教室での授業だ。ここは以前もこんな風に鬱々とした部屋だったし、セブのせいじゃないとは分かっている。分かってるけど、どうにかならんのかと思うんだよ。

 私としてはグリフィンドールだろうがスリザリンだろうがどうでも良いから差別意識はないんだけど、双方の寮はまだ一年の初めだというのにもういがみ合っている。入学してから何日だね君達、いがみ合うの早すぎやしないか。


「冬場はここに来たくないよ……確実に凍えて死ねる」


 私がそう言えば、他のスリザリン生も頷いた。いくら寮監の授業だとはいえ寒かったらやる気なんて出ようはずもない。ついでに実際に出なかったから冬場には得点数が下がった。冬眠したいと思ったのは一度や二度の話じゃない。

 授業を教える鐘の音が響き、数瞬で扉がけたたましく開いた。セブの登場だ。ああ、これから萌え場面が沢山見られるんだね! でも正直、大人げないよねこれ!

 セブはアルファベット順に出席を取り、ハリーの名前の前でちょっと止まった。猫なで声! 猫なで声がくるよ!


「ああ、ふむ」


 セブはニヤリと笑んだ。見惚れている私をドラコが奇妙な物を見る目で見てきた。何さ、文句あんの?


「ハリー・ポッター。我らが新しい――スターだね」


 キタ――――!! 名ゼリフですよ奥様! 実を言うと録音魔法をこっそり使ってたとか、セブには言わないけどね!


 その後出席確認は何事もなく私を過ぎ、ザビニで終わった。威圧するような雰囲気を醸すセブに皆は息を飲んで黙っている。私の目にはその威圧感さえ好ましいとしか映らんが。


「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」


 教卓に腕を突き、説教するセブは素敵だと思います。


「このクラスでは杖を振りまわすようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかも知れん。沸く大釜、立ち上る湯気、人の血管をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。私が教えるのは、名声を瓶詰にし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法だ――ただし、私がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」


 一度ゆっくり目を閉じ、また開くと、セブはハリーを呼ばった。


「ポッター!」


 嬉しそうだ。絶対答えられないと分かってるからだろう。セブってばい・ん・け・ん☆ でもそんな陰険なパパが大好きです。


「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」


 生ける屍の水薬だよね。ハーマイオニーが答えたそうだけど、ハリーは顔を赤くして分かりませんって答えてら。ハーマイオニーはレイブンクローに行けば問題なかったと思うんだが、どうなのかね? 知識欲の大きい人間はレイブンクローでこそ花開くと言うか、グリフィンドールは天才型か、ちょっと頭が足りない奴が多いからね。


「チッチッチ――有名なだけではどうにもならんらしい」


 私以外のスリザリン組がクスクスと笑っている。こら、デコリーンちゃん! 貴方答え知ってるわけじゃないんだから、人のこと笑えないのよ! ママはデコリーンちゃんをそんな子に育てた覚えありません!


「レイノ。今お前、変なこと考えなかったか?」

「ん、何が?」


 ドラコが胡乱なものを見る目を向けてくるけど気にしない。


「ポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけて来いと言われたら、どこを探す?」


 山羊さんの臓腑を切り捌いたら出てくるよ。――胃だよ、胃。口パクしてみたけど、こっちを全く見てこなかったから無意味に終わった。お兄ちゃん、妹は悲しいよ。


「クラスに来る前に教科書を開いてみようとは思わなかったわけだな、ポッター」


 ハリーが答えられないのを鼻で笑って、セブは満足そうに唇の端を釣り上げる。


「ポッター、モンクスフードとウルフスベーンとの違いは何だ?」


 同じもの。別名アコナイト、トリカブトのこと。隠さないドラコたちの笑い声に教室がさざめく。ついでにハーマイオニーの掲げた手がプルプル震えてた。

- 16 -


[*pre] | [nex#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -