Star Dust






 寮に引っ込めば、割り当てられたのは四人部屋だった。だけど人数が四の倍数でなかったからだろう、私ともう一人だけみたいだ。ベットは二台しかなかったから、多い分は移動させたんだろうな。広くてよろしい。


「私アメリア。アメリア・ビキンスよ、よろしく」


 同室になった少女はちょっと垂れ目なことを除けば平凡な顔立ちだった。エスカルゴと呼ばれる髪型をしていて(頭の両サイドで髪を纏める。それがカタツムリの巻っぽい)、上品そうな子だ。いかにも箱入り娘的な。


「私はレイノ・スネイプ。レイノって呼んでね」


 アメリアはなんというか、髪型だけじゃなくてカタツムリっぽかった。気色悪いとかベタベタしているとかそういう意味じゃなくて、なんとなくトロくてぼんやりしている印象を受ける。どうしてスリザリンに来たんだろうか。


「ねえ。組み分けの時、みんな貴女に注目してたわ。どうしてなの?」


 二人で共有できる小物を見せ合っていると、アメリアが思い出したように聞いてきた。ああ、そりゃ名前だよ名前……。


「スリザリンの寮監の娘なんだよ、私。あの教授に娘なんかいたんだってところかな」

「へえー。寮監って、どの先生かしら?」

「黒髪に、鉤鼻の……いかにも陰険そうな顔した大きいカラスみたいな人」

「ああ、あれね」


 アメリアは納得して「似てないわね」と頷いた。養子だからといえば何度も頷いていた。……血は繋がらないけど家族だし、似てる所があると言って欲しかったんだが。まあ、まだ顔合わせて一時間足らずだし、無理か。

 二十年会えなかったわけだし、明日はセブの背中にひっつく所存であります、軍曹殿! 向こうからすればいきなり何をするんだって話だろうけどね。



 次の日各所でいつになく珍しい光景――かのセブルス・スネイプが童女を背負っている(詳しく言えば、童女が貼り付いていたのだが)光景が見られ、魔法薬学教授の株が微妙に上がったとか下がったとか。







 レイノはスリザリンに組み分けられてしまった。せっかくレイノと学生生活を送ることができると思ったのに、よりにもよってスリザリンとは! こうなることを知っていたら迷うことなくスリザリンに行っただろうに、何故レイノの名字はスネイプだったのかと、彼女の名字ながら憎らしくなる。せめてNやOだったら良かったのに。

 ロンやネビル達との会話が途切れ、ハリーは急に悲しみの感情に囚われた。レイノがいないことはまるで半身をもがれたような気分だ。会話なんてなくたって良い、ただ隣にいてくれればそれだけで満足なのに、レイノは反対端のスリザリンで嫌そうな顔をしながら夕食をとっている。

 レイノ――マダム・マルキンの店で初めて会った時、なんだか心が暖かくなるような気持になった女の子。栄養不足で背の低いハリーより更に小さくて、ハリーでさえ彼女の栄養状態が不安になった――は、背丈に反比例して大人だった。一緒にいたいと願っていたのに、どうして彼女はスリザリンに行ってしまったんだろう? 名字の壁さえなければスリザリンに行ったのに、なんて思うのはハリーだけなのだろうか? 彼女はハリーと一緒にいたいと思ってくれなかったんだろうか。もしそうだとすると、ハリーの胸は張裂けてしまうことだろう。


「ハリー、どうしたのさ?」

「いや、何でもないよ」


 心配そうに声をかけてくるロンに頭を振って、ハリーは教師席を見た。レイノが席に行く前に教師席を見たのはきっと、魔法薬学の教授だという父親の反応を見るために違いなかった。でも教師席には当然ながら何人も男の先生がいて、誰がそうなのか分らない。レイノそっくりな赤毛の人も、ハシバミ色の瞳の人もいなかった。あの色彩は母親譲りなのかもしれない。


「イタッ!」


 キョロキョロと教師席を見ていれば、クィレル先生のターバン越しに顔色が酷く悪い鉤鼻の先生と目が合った。その瞬間のことだ、額の傷に激しい痛みが走り、ハリーは反射的に額を手で覆った。


「あそこでクィレル先生と話しているのはどなたですか」


 大嫌いを通り越して憎んでいるような目だと思った。どうしてそんな憎まれているのだか分らないけれど、理不尽な程の怨恨が込められたそれに肩も跳ねる。

 パーシーに訊ねれば首肯とともに答えが返ってくる。


「おや、クィレル先生はもう知ってるんだね。あれはスネイプ先生だ。どうりでクィレル先生がオドオドしてるわけだ。スネイプ先生は魔法薬学を教えているんだが、本当はその学科は教えたくないらしい。クィレルの席を狙ってるって、みんな知ってるよ。闇の魔術にすごく詳しいんだ、スネイプって」


 そういえばスネイプ姓の新入生がいたみたいだけど、血縁者かな? と首を傾げるパーシーの独り言は聞き流し、レイノの父親だというスネイプ先生を見つめた。全く似ていないから、きっと母親の血が濃く現れたに違いない。

 それからは二度と目が合うことはなくて、寮に行くまで何ともいい難いもやもやがハリーの胸を満たしていた。




 次の日スネイプ先生の背中に貼り付いているレイノを見かけたとき、ハリーは彼が嫌いになった。

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