Star Dust






「あのね、スキャバーズのひげの端っこのほうが少し黄色っぽくなってきたみたい」


 話題を変えようとハリーが言い、どうでもよさげに黄昏れている(ポーズをしている)私を誘わず話し込み始めた。本当にどうでも良いから有難い。ハリーお兄ちゃんは良い子だね。


「ほんとかい? このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車の中じゃその話でもちきりなんだけど。それじゃ、君なのか?」


 突然コンパートメントの扉が開き、青白いデコリーンジュニア、じゃなかった、ドラコが入ってきた。そういえばこの荷物の買物の時に会ったんだよね、記憶あやふやだけど。拡張魔法をかけたはずなのに中身が溢れそうなくらい服を送ってくれたんだよね、うん。過去では裾直しをしながら七年間有難く使わせてもらいました。


「そうだよ」


 クラッブとゴイルは――ひげ面じゃなかった。安心だ。十一歳のくせして青髭なんかになられた日にゃ世を捨てて隠居するよ。原作? そんなの私への精神被害に比べたら軽いもんさ! もちろんセブは連れて行くけどね。


「ああ、こいつはクラッブで、こっちがゴイルさ」


 左右を示しながらドラちゃんは言った。ドラちゃんってぇと、某どら焼き大好きロボットを思い出すなー。助けてドラ○もぅん! って泣きつけばいつでも何でもパパッと解決してくれるんだ。それをここのドラちゃんに求めても無理だろうけど。


「そして、僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」


 咳ばらいしたロンを見つけた目はそのまま私を捉えて、おや、という顔をした。


「久しぶりだな、レイノ。母上がまた会いたいと仰っていた」

「久しぶり、ドラコ。それは……遠慮したいな。服に埋もれて死ぬかと思った」


 あの買物の最中に私たちは名前呼びするようになった。他人行儀だし、三人もマルフォイがいたらどれが誰だか。そういえばアブラカタブラどうしただろう。ヴォルディーに八つ当たりされてるかもしれんな。やーいやーい。

 ドラコはクスリと笑うと私から顔を上げてロンを見やり、高慢に言った。


「僕の名前が変だとでも言うのかい? 君が誰だか聞く必要もないね。パパが言ってたよ。ウィーズリ家はみんな赤毛で、そばかすで、育てきれないほどたくさん子供がいるってね」


 ドラちゃん、呼び方を父上かパパに統一なさいな。


「ポッター君、そのうち家柄のいい魔法族とそうでないのとがわかってくるよ。間違ったのとは付き合わないことだね。そのへんは僕が教えてあげよう」

「間違ったのかどうかを見分けるのは自分でもできると思うよ。どうもご親切さま」


 差し出されたドラコの手に応じず、ハリーは言った。でもよハリー? 私としてはロンはお勧めできないぞ? デコがこういう言い方をしたのもロンの咳ばらいにムカついたからって理由もあると思うんだ。デコは繊細だからさ! 飴細工のデコリーン、ガラスでできたデコリーン、ああ、鑑賞用として一家に一個欲しいなふひゃひゃひゃひゃ!


「ポッター君。僕ならもう少し気をつけるがね。もう少し礼儀を心得ないと、君の両親と同じ道をたどることになるぞ。君の両親も、何が自分の身のためになるかを知らなかったようだ。ウィーズリーやハグリッドみたいな下等な連中と一緒にいると、君も同類になるだろうよ」


 嫌味な言い方だなー、でもそれがデコリーンだから。ムカつく所か愛おしいね。きゃあ頑張って、ドラコ! デコ広げて!


「もういっぺん言ってみろ」

「へえ、僕たちとやるつもりかい?」


 臨戦態勢な五人にため息が漏れる。みんな血の気が多いこった。ゴイルがスキャバーズ振り回したら、通路側に座る私には逃げ場がないし被害がでる。殴られたらついクルーシオっちゃうかもしれないじゃないか。疲れたらクルーシオ、面倒になればアバダの私が通るよ。アバダじゃないのは私なりのちょっとした優しさです。


「ドラコ、ハリー、ロン。喧嘩するなら外でして。迷惑だから」

「君もマルフォイの味方か?!」


 このガキが……。ロンの頭は単純すぎるのか? 単純なんだろうな。私は双方にウザいっつったんだ。


「私は私の味方。ここで喧嘩なんてされると私に被害がくる。OK?」


 そう言って三人を追い出し、ついでに二人も追い出してローブに着替えた。ローブの下にセーターもシャツもスカートも、そういえばシシーが見繕ってくれたものだった。肌触り良いよね……今にして考えれば、服もその他も最高級品を使っている私が家なき子だと誰も思わなかったのは納得できる。

 睨んできたロンに構わずコンパートメントを開けて廊下で着替えが終わるのを待った。――私、ロンの第一印象最悪じゃね? まあ私も深く付き合いたいとは思わないけどさ。







 車内に声が響く。


「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いて行って下さい」


 あっ、そういえば私の毛玉はどうなった。羽毛は向こうに来られなかったから二十年ぶりに会うことになる。忘れててごめんね羽毛! 荷物のカートに吊るして上の棚に乗せっ放しで全然相手してやれなかったもんね! 寮に着いたら可愛がっちゃうよ、ウザいくらいね!

 そういえばあっちの貯金はどうなったんだろうと思ってポケットに手を突っ込んだら鍵があった。良かった、ヴォルディの元にあったら取りに行けないもんね。

 青白い顔した二人と一緒に列車を降りる。闇の迫った空は紫を越して黒く、星が瞬いている。空気が澄んでいるからこその美しい夜空はいつみても感動する。


「イッチ年生! イッチ年生はこっち! ハリー、元気か?」


 ランプを掲げたハグリッドがゆらりと現れた。暗いから、ハグリッドの巨体が陽炎のように揺らいでいる。お化けだなまるで。私としては可愛いおばけなら大歓迎だけど、巨大で可愛さのかけらもないお化けはご遠慮したいや。

 山道を歩いてハグリッドに続く。この道、ただの十一歳にはその辺のお化け屋敷より怖いよ。私は二度目だからそんなに怖くないけどね。

 角を曲がって見えたホグワーツの荘厳な佇まいに歓声が上がる。でかいばかりで不便だというのが私の感想だ。まあ、慣れればどこも都だけども。


「四人ずつボートに乗って!」


 ハリー達三人組とネビルが乗って四人だから、私は名も知らぬ誰だかと同乗した。誰もやはり、私より十五センチはでかかった。巨人に囲まれているようだよ。周りからは子供が何で? みたいな目で見られたけど気にしない。前もそうだった。

 みんなが頭を下げる中、私は下げる必要がないくらい低いのでそのまま崖の下をくぐった。ジメジメとした船着場から降りてハグリッド先導の元石段を登る。ネビルはトレバーを回収できたようだ。良かったねネビル。お祖母ちゃんは嬉しいよ。うっ、恨みになんて思ってないんだからねっ!?

 ハグリッドが扉をガンガンガン、と三度叩いた。また長い、波乱に満ちた七年間の始まりだ!

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