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「おや、君は……」
デコリーンシニアといえばルッシーことルシウス殿下だ。本当に王子様みたいな感じだよね、性格と性根を別にしたら。ついでにジュニアがドラコ。当然だね。目を丸くしている殿下は何故か、口の端が釣り上がりかけている。一体どうしたんだろう? 息子が可愛い(自画自賛)彼女連れてきたって思ったのかな。
「初めてお目もじつかまつります、ホグワーツ魔法魔術学校、魔法薬学教授セブルス・スネイプが娘レイノ・スネイプと申します。以後お見知り置きを」
輝くシルバーブロンド(つまり遠くから見ればただのハゲ)の主ルシウス・マルフォイに軽い会釈をして、この世界に生まれてから身につけた作法通りに挨拶する。スカートを摘まんで膝を少し曲げ、小首を傾げる感じ。
「これはこれは。私はルシウス・マルフォイ、こっちは妻のナルシッサ。ホグワーツの理事をさせてもらっている」
よろしく、と差し出された手を握り返して笑む。この人死喰い人なんだよね? ああもったいない。仮面で隠すなんてもったいない。顔を晒して魔法をかけて、夢の国(永遠に目が覚めないけど)に連れてって。君の父上とは懇意にしているよ、と微笑するルシウス殿下。うん知ってるよ。てかシシー影薄いね。
「こんな可愛らしい娘がいたなんて全く教えてくれなかったから、少し彼を恨んでしまうね。今年入学かな?」
「父上、Miss.スネイプは僕と同い年です」
「そうか。ドラコ、ちゃんとこのレディーをエスコートできたか?」
「もちろんです、父上!」
ヨーロピアンには私が七つか八つにしか見えず、私には十一歳だと自称するドラコ達が十四・五歳にしか見えない。髭の生えた小学生ってのもあり得そうで怖い。まだ見ぬクラッブやゴイルがそうだったりしたらどうしよう? 私、スリザリンに入りたくなくなってきた。ああ嫌だ嫌だ。同い年のはずが髭面のクラスメイト、御年は十一歳――うぇっ。
というか、セブは私のコレどう思ってるんだろうか? ほぼ一人暮らしみたいなことしてるから栄養が足りてないんだとかって思ってるのかな? 栄養バランスはバッチリでしてよダッド。
「まあ、十一歳なの? とってもお小さくて可愛らしい方ね。ねえルシウス、私、娘も欲しかったんですよ」
責めているわけじゃないというのは、落ち着いた言い方で分かった。分かったけど、うむ、何で私をキラキラした目で見るのかな、シシー?
「あー、Miss.スネイプ。すまない」
何でか殿下が謝ってきた。一体どうしたっていうんだろうか?
「妻の気晴らしに付き合ってくれないかな?」
それくらいならと頷いた私はシシーに誘拐され、自立式着せ替え人形となった。そしてついポロリと今日が誕生日だと溢してしまって山のような服を押し付けられた。影薄いなんて思ったわたしの馬鹿。薄いどころか濃いわ! 助けてダディー!
ハリーはさっきの女の子のことを思い出していた。彼女はどうしてかハリーの胸に懐かしさを湧きあがらせ、もっと一緒にいたい、しゃべりたいような気持ちにさせた。
「ねえ、ハグリッド」
「なんだ?」
例のあの人とかいうものから話題を変えようと、ハリーはさっきの少女についても話す。
「ハグリッドの位置からじゃ見えなかっただろうけど、お店にはもう一人女の子がいたんだ。夕日みたいな髪をしててさ、七歳くらいにしか見えないのに、僕と同い年なんだって。
その子は寮を差別してるようには見えなかったけど……魔法族はみんなスリザリンに入りたがってるの? あの男の子みたいに」
「そりゃあ違うな。代々グリフィンドールに入っとる純潔の家系もあるし、血をたどれば四寮全部揃う家系もある。みーんな自分の寮に誇りを持っとって、スリザリンだけが特別ってわけじゃあねえ」
夕日色の髪、と聞いた時ハグリッドが肩を揺らしたように見えたが、ハリーは内心首を傾げるだけに止めた。
「その女の子は、男の子が言うには、スリザリンに入るのが当然なんだって。魔法薬学? の先生の娘だからって」
「スッ、スネイプ先生か……。スリザリンの寮監だ。ハリー、その子のことをどう思った、え?」
腰を落として訊ねるハグリッドに、ハリーは答えた。
「仲良くなりたいなって思ったよ」
その後どうしてか足音も軽妙なハグリッドに連れられ、ハリーは学校に必要な物品を買っていった。
また、薬屋の端で店主となにやら熱く議論を交わしている男を見たが、すぐに忘れてしまった。