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誕生日にダイアゴン横町に行ったのは、我が麗しの(と言うほど美形というわけではないけど)兄上様を見たかったからだ。魔法界の英雄ハリー・ポッター……うげっ、反吐が出るわい。だけど野次馬根性といおうか、学校で見るより一足先に見てみようと思ったのだ。目の色以外は母親そっくりの私と、目の色以外は父親そっくりのハリー。並んで立っても双子だと分かる人はほぼいないに違いない。似てなくて良かった。
ついでに、セブルスは私が養子だということは教えてくれたけど、私に双子の兄がいるということは言わなかった。だから私はハリーのことを知らないことになっている。一歳の時の記憶があるなんて誰も思わないわなー。
「混んでるなー」
セブルスはダイアゴン横丁に来るやいなや薬屋に直行し、籠ったまま出てこない。折角だしということで一緒に来たというのに、行き道を共にしただけという寂しさよ……。帰る時までずっと別行動ですかそうですか。てか、私の誕生日ってこと忘れ去られてる気がする。朝起きた時に「おめでとう」の一言もプレゼントもなかったし。
マグルには珍しかろう珍品の並ぶ店をウィンドウショッピングして、アイスクリームパーラーに着く。発光する紫色とか点滅する緑色とか、健康被害について不安が拭えない種類のアイスは極力視界から外してバニラとストロベリーの二段にする。
空腹に任せて早食いし、そういえばホグワーツの制服作ってなかったと思い出した。本はとっくにフクロウ便で注文してあるから今頃家に着いているはずだ。とりあえず服を買ってしまおう。マダム・マルキンの店に足を向ける。
――人ごみに揉まれて、あらぬ方向へ引きずられかけたのはいつものことだ。外人が大き過ぎるんだから仕方ない。
私の行動に敬意を表し、万歳三唱を送りたいと思います。バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!
ハリーがいました。ドラコもいました。ドラコ可愛いよドラコ。これが将来的に生え際が後退するデコだね? パパにそっくりに後退するんだよね? 遠目にはハゲにしか見えないあれだよね?
いやはや今のうちからとっても楽しみだ。将来のあだ名はデコリーンになるんだから楽しみだ。
「――ハッフルパフなんかに入れられてみろよ。僕なら退学するな。そうだろ?」
デコリー……ドラコがハリーに気取った様子で言っている。ハリーは可哀想に、魔法界に詳しいはずもなく唸るしかない。ドラコは反応の薄いハリーに見切りを付けたのだろう、私を振り返った。
台に乗ろうとしていた私は急なことにちょっと固まって、マダムマルキンに急かされて上った。ハグリッドの下りが無くなったのだろうか?
「君はどこに入りたいと……君も新入生?」
成長速度が日本人レベルの私は、どうみても十一歳には見えない。自覚してるよ、身長なんてドラコの顎までしかないんだから。でも日本人はこれで普通なんだよ! 西洋人の成長が早すぎるだけなんだ。老化もその分早いしね! やーいやーい老け顔ー!
「新入生だよ。今年入学する。私ははっきり言って、どこに入ろうが気にしない」
「は? 君は正気か? スリザリンに入りたがらないなんて」
「ダディ(っぽいセブルス)は……私がスリザリンに入らなかったら怒り狂いそうだけど。組み分けって本人の資質らしいし、どこに入っても仕方ないことだと諦めるよ」
「ふーん。そうだ、君の名前を聞いても良いかい? 僕はドラコ・マルフォイ」
「レイノ・スネイプ。よろしく」
答えながら思ったけど、今までドラコと会わなかったのっておかしくないか? だってルッシーはセブと一番親しい先輩だよね? 会わせたくなかったのか、偶然か。――セブってば休暇以外はずっと学校だし、偶然かもね。
「Miss.スネイプ? もしかして君、薬学教授のスネイプ先生と関係があるかい?」
「ん、家族だよ」
「へえ。なら君はスリザリンに入るだろうね」
「分からん。グリフィンドールには入らないと思うけど……。レイブンクローとか行くかも」
「グリフィンドールなんて、馬鹿の集まりさ」
ドラコは針子さんがマチ針持ってるのを気にせず肩を竦めた。刺さったら痛いだろうに。
「君もそう思うだろう?」
「え? いや……」
また振り返ったドラコに問いかけられてハリーは見るからに困っている。わあ、可哀想に。お兄ちゃんファイト! 陰からこっそり適当に応援してるよ。
「まあ、いたずら好きな奴とか蛮勇な奴とか多いけど、私はグリフィンドールはグリフィンドールで良いと思うよ」
困っているハリーを見てても萌えないし、私は助け舟を出すことにした。BLは範囲外なんだよね、私。ハリドラとかドラハリとか読まない。読んだら悲鳴上げそう。
「まさか! あの寮はマグル出身が多い。そうだろう? マグルなんて入学させるべきじゃないと思うよ。そう思わないか? 連中は僕らと同じじゃないんだ。僕らのやり方がわかるような育ち方をしてないんだ。
手紙をもらうまではホグワーツのことだって聞いたこともなかった、なんてやつもいるんだ。考えられないようなことだよ。入学は昔からの魔法使い名門家族に限るべきだと思うよ。君、家族の姓は何て言うの?」
キタ――長台詞! ちょっと変わった部分もあるにはあるけど、気にならない程度だから問題ない。
「さあ、終わりましたよ、坊ちゃん」
マダム・マルキンがそう言ったおかげでハリーは難を逃れ、踏み台から飛び降りた。
「じゃあ、ホグワーツでまた会おう。たぶんね」
ドラコに片手を上げてハリーは店から出ていく。うむ、ここからは原作にないからどんな会話が続くのやらさっぱりだわ。
「Miss.スネイプ。もし一人で来ているなら僕らと一緒に買い物しないか? 父は隣で教科書を買ってるし、母はどこかその先で杖を見てるはずだから」
「一応ダディと来てるんだけど、薬草の店に齧りついて離れそうにないんだよ。良ければご一緒させてくれる?」
私はドラコの誘いに乗ることにして丈合わせが終わるのを待った。つい額に視線が行くのはご愛嬌だ。