Star Dust






「レイノは泣かねぇな! ハリーはビービー泣くのに、妹の代わりに泣いてんのか、あ? ハリー?」


 シリウスがハリーの頭をガシガシと撫でる。まだ据わってない首がグラングランと揺れ、私はハリーの首がもげるんじゃないかと内心恐怖した。シリウスこっちくんな。


「じゃあハリーは将来ジェームズみたいになるかもね。レイノは大人しいからきっともてるよ」

「うん、うん」


 ウンとしか言わないピーターは無視されてるけど本当に友達なんだろうか。

 「妹を男の魔の手から守るんだよ」とリーマスに言い聞かされたハリーは目を丸くして「う?」とか言ってる。ハリーは可愛いけどリーマスが黒い。リーマスに抱かれてる私だけど怖くて身動き一つ取れない。目をかっぴろげて見上げる私にリーマスは微笑み、一年もすればだいぶ伸びる髪を優しく撫でた。――今日は私とハリーの誕生日で、あと三カ月もすれば二人は死ぬ。二人に死んで欲しいかと聞かれれば生きていて欲しいし好きだと思う。でも、一歳児に魔法を唱えられる滑舌の良さを求めるのは無理な話。前に何かポルターガイスト現象的なことができないものかと試したことがあるけど何も起きなかったし、出来ていたところでポルターガイストでどうやって命を守れと……。

 ところで、今日は実は私とハリーの誕生日だ。一歳にもなれば将来の顔も想像できるようになってくるというもので、私はリリーそっくりの赤毛にハシバミ色の瞳をしている。目の色を除けばリリーが縮んだと言っても良いくらい母親似なのだ。――これなら教授を落とせるかもしれない。武器は最大限に使うべきだよ、うん。立ってるなら親でも使えって言うじゃん? 使えるなら母親だって利用するよ。年齢という壁だってぶち壊して絶対に落としてみせる。将来はボイーンバイーンの色気溢れる女になって、セブルスに鼻血噴かせてみせるんだ!

 ジェームズがティーセットを乗せた盆を手に居間に入ってきた。魔法で出せば良いだろうに、ケーキの用意をしているリリー見たさにわざわざ台所まで行ったのだ。どんだけリリーが好きなんだ、ジェームズ。


「二人とも、かけたまえよ。今日はハリーとレイノの誕生日さ! 今日くらいは仕事なんて忘れようじゃないか!」


 ジェームズの楽しそうな声に二人も笑い、私たちを抱いたまま椅子に着いた。ハリーがぐずってシリウスの腕の中で暴れた。


「ちょ、ハリー!?」

「ハハ! やっぱりハリーもパパの方が良いよね。ほらシリウスハリーを渡してよ」

「あ、ああ……」

「ハリー、パパだよーん☆」


 手持無沙汰に手をにぎにぎとするシリウスにちょっとキュンとした。


「二人とも今日は二人のために有難う! こんなご時世だけど、この子達の誕生日を祝わないなんてことしたくないしね――」


 ナチュラルにピーターが忘れられているけど、本当にこれでも親友なんだろうか。

 リーマスに抱かれたままピーターを憐れんで見やったら、ごく自然に存在を無視されたピーターが真っ白な灰になっていた。可哀想に、だから裏切ったんじゃね?これで裏切るなという方が無理だと思うんけど。

 私がそう考えてる間にセブルスが来て、リリーとハグをしてすぐにジェームズに引き剥がされた。盛大な舌打ちをするセブルスはとても格好良いですごちそうさまですゲフン。リリーが私をリーマスからスルーパスしてセブに渡し、意外と抱き方が上手い彼に抱かれた私はニッコリと笑みを浮かべた。満面の笑みを浮かべることが少ない私にリリーもジェームズも小さく声を上げる。


「あらあら、レイノはセブルスが好きみたいね」

「なんでだいレイノ!? パパの方が好きだよね、ね、レイノ!?」


 楽しそうなリリーに対しジェームズは膝が崩れ手を突いて嘆いた。うぜぇ。


「ったく、なんでテメーが来てんだよスニベルス!」

「私はリリーに呼ばれたから来たまで。名付け子の誕生日に来るなとでも言うつもりか、ブラック」


 セブルスは鼻でシリウスを嗤うと、一転私には優しい笑みを向けた。


「大きくなったな、レイノは」

「ええ、毎日重くなっていくのよ」


 私はセブに手を伸ばす。今の短い手じゃ届くわけもないって分かってるけどなんとなく、セブの目の下に隈が見えたし、癒してあげたいと思って。


「すぇぶ」


 まあ、こっそり深夜に一人で練習してる発話をここで披露することになろうとは思わなかったけど。


「え」

「あら」


 ジェームズが目を剥きリリーが頬に手を当てて笑った。そして肝心のセブは口を半開きにして私を見下ろしている。そんなに見つめちゃイヤン、セブってば私に惚れちゃった?――虚しくなれる妄想は止めよう。ちょっと泣けた。年齢差さえ、この年齢差さえなければ! 悔しさのあまり血の涙を流しそうだ。これじゃセブがただのペドフィリアじゃんか……!


「レイノ、そんな、今、『セブ』って!?」

「スネイプの名前だね」

「そんな、レイノが初めて口にする言葉は『パパ』か『ママ』だって決めてたのに!!」


 最近ベビーベッドの横で煩かったのはそのせいか。しつこいくらいに言葉の端々にパパだのママだのと言い続けてたのを見るにつけこの男の頭は大丈夫なんだろうかと不安になったものだけど、そんな理由があったとは。ただの間抜けかと思ってた。


「せぶ、せぶー」


 せっかくなので何度も呼んでみた。セブの顔がだんだんと綻び、泣きそうな笑顔を浮かべる。映画の教授より若い――というか、映画のアラン氏の実年齢考えると切なくなるから気にしないことにして――青年セブの泣きそうな笑み、凄く美味しいです。サドってわけじゃないけどなんだか泣かせて写真に撮りまくりたいくらいだよ。ああ、なんでこの場にカメラがないのさ!? 魔法界のカメラがあれば、あればぁっ!


「パパは僕だよ、そんな陰気で陰険で近寄るだけでカビが生えそうな男の名前なんて呼ぶんじゃありませんっ!」

「セブに失礼でしょ、何言ってるのよ!」


 泣きそうになりながら言い募るジェームズの顔にリリーの拳がめり込んだ。まさかの暴力に目を見開いて見ていればジェームズの顔は梅干か狆みたいになっていた。ず、頭蓋骨陥没……? ブルリとセブが体を震わせたから見上げれば滝のように汗を流しながらジェームズの遺体を見ていた。気持ちは良く分かる。あれ、大丈夫なんだろうか。ヴォっ様に血祭にされる前に嫁に血祭にされて死にそうなんだけど。


「リリー、死ぬぁっ、うぁっ、あんっ、気持ちイイ!」


 ジェームズの嬌声が聞こえ始めた。ジェームズはマゾだったのか、それともリリーが与えるものは痛みでも快感に変わるのか。こんな快感フレーズは嫌なんだけど……。


「ジェームズ……たとえお前が道を踏み外しても俺は友達だからな……っ」

「僕は嫌かなぁ」

「リーマス!?」

「あの……えっと、ボクは……」

「なんでそんなこと言うんだ、リーマス! 俺たちはずっと友達だって誓ったじゃねーかよ!!」

「ジェームズは変わってしまった――彼はもう昔のジェームズじゃないんだ、シリウス」

「ちょっとだけ……嗜好が、変わった、だけ、かなって」

「それを連れ戻してやるのが友達ってもんだろ、リーマスゥ!!」


 無視されてるピーターに誰か気づいてあげてよ、ねえ!! この積み重ねが裏切りを生んだんだって誰の目から見ても明らかだよねコレ!?

 なんだか青春な感じのやり取りを繰り広げる外野を気にすることなく、セブは膝をガクガクさせながらリリーの猛攻を見ている。怖すぎて目が離せないのかもしれない。私はリリーが私たちを守って死ぬという歴史が信じられなくなってきたんだけど、本当に彼女はあと三か月後に死ぬんだろうか。これを見て信じろという方が難しいよね。

 ――だけど、原作は変わることなく。ハロウィン当日に私は両親を失った。

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