意志
クロヴィス兄上が暗殺された。原作って、兄上の出番は全然なかったんだね。
「兄上は政治をするには適さない方でしたからね。色々なところから恨みを買ってしまうこともあったのでしょう」
夕食の後、居間でくつろぎながら兄上の暗殺事件について話した。ナナリーは咲世子さんに連れられて部屋へ戻っているから、この場には私とルルーシュしかいない。
「姉上は……クロヴィス兄上が亡くなられて、悲しんでいないのですか?」
「悲しんでいるように見えますか、ルルーシュ」
質問に質問を返した私を咎めることなく、ルルーシュは顔をしかめながらいいえと答えた。
「私と、貴方と、ナナリー。この三人だけが家族だと私は思っています。私達を見て見ぬふりをした兄弟の死をどうして悲しむと?」
悲しむよりは喜ぶでしょうよ、と答えた私にルルーシュは苦笑を返した。
「やはり姉上は過激だ」
「過激になるのも仕方のないことです。人質なら私だけでも良かったはずですからね……ルルーシュとナナリーまで日本に送る必要などありませんでした。それを決定した父上も、それに反対の一票さえくれなかった兄弟も、みんな同罪だと思うのです」
まだ幼かった兄弟――ユフィやカリーヌのような年下の兄弟にはそれほどの恨みは無いけど、成人している兄弟も救いの手を差し伸べてはくれなかった。これが恨まずにいられようか。
ルルーシュは頭が天才的に良いからすぐに日本語を覚えたし、転生する前が日本人の私が日本語をぺらぺらなのは当然。私たち二人が言語で苦労することはなかった。だけどナナリーは別だ。暗くなった視界と母上暗殺時のショックで入院中苦しみ続け、やっと退院したと思ったらすぐに日本へ追いやられた。ルルーシュみたいな頭脳なんてそうそう人が持てるものじゃなく、一年間言語の壁に悩まされ続けたのだ。
まさに、恨み晴らさでおくべきかってところだ。
「もし、俺が。俺がクロヴィス兄上を殺したと言ったら、姉上はどう思いますか」
「よくやった、と褒めるでしょう。元々兄上は政治の手腕には疑問のある方でした。クロヴィスランドなど……あのような無駄な施設を建てるよりも先にすべきことが沢山あったでしょうに。税金の無駄遣いとはあのことを言うのです」
皇族の一人として国内に遊戯施設や美術館を建てるのならまだしも、総督として赴いた荒れ地にそんなのを建ててどうするのか。さっぱり分らない。先ずは家を建てて、生活に必要な建物を作って、それからの話じゃないだろうか。
「クロヴィス兄上の政治に反発を覚える者がいるのは当然です。今まで暗殺されなかった方が不思議でなりませんね」
他人に聞かれでもしたら皇族批判として縄を頂戴するだろう言葉がつらつらと口から零れる。夕食の前にナナリーが言った「誰がこんな酷いことをしたのでしょう」という言葉に傷ついていたルルーシュには、これくらい過激な言葉の方が良いだろう。ルルーシュが兄上を殺したのかは私にとってどうでも良い――死んでしまえと恨んでいる相手の死を、愛しい妹が悲しんだ。それがルルーシュの心を突き刺していたのだから。
隣に座るルルーシュの頭を抱きしめて撫でる。本当は、こっそりルルーシュを守ろうと思っていた。影から支える、縁の下の力持ちであろうと思っていた。だけどこのルルーシュの様子はどうだろう? 妹の否定的な言葉に傷ついて、兄弟の死を悲しみたくないことにも傷ついて。ルルーシュの心の支えはあるんだろうか?
「ルルーシュ、話してごらん。私はルルーシュがクロヴィス兄上を殺した犯人でも、そうでなくても、絶対にルルーシュを否定しませんからね」
「姉上、ですが」
ルルーシュはむずかるように頭を振った。離すものかと抱く力を強めて言葉を続ける。
「ブリタニア人がブリタニアを否定して、何が悪いのです。国家はいつか打ち倒され、新しい国が建つものです。中華連邦なんてその良い一例でしょう」
始皇帝の政策に反発し、劉邦と項羽は立った。革命の権利は誰もが持っているのだと歴史が言っている。
「貴方の一人や二人でよろけるような軟弱な身はしていないつもりですよ、ルルーシュ」
頼ってくれれば、私が出来る最大限のことをしてみせる。だって私はお姉ちゃんだもの。弟や妹を守るのがお姉ちゃんだもの。
「不思議な……」
「うん?」
「不思議な力を、手に入れたんです」
人の心を操る魔法を手に入れたのだとルルーシュは語り始めた。絶対尊守の命令を下せるというその魔法は、ルルーシュを孤独にすると言う。
「あのねルルーシュ、私も貴方に言ってなかったことがあるのです」
だから私も明かそう――私の持つ力について。
++++
当初の展開予定を大幅に変更したため、ちょっと矛盾した考えになっています。が、修正しません。
2012/07/18
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