初陣


 ルルーシュを助けるのは案外簡単だった。ルルーシュの様子を確認すればどうやらレジスタンスにあれこれ指示して逃亡の手助けをしているみたいだったから、私も乱入して逃がす手伝いをすることにした。泥人形ことマークネモを操りブリタニア軍をひっちゃかめっちゃかにしただったけどね。ルルーシュが通信を繋ごうとあの手この手でマークネモの固有通信周波数を探したみたいだから繋いであげれば、居丈高な声色でああしろこうしろと指示してくれた。ブレーンを任せるのって便利だね。思考回路まで鈍化させてしまったらいけないってことは分ってるけどついつい楽をしたくなる。

 戦闘時は通信を繋いだままだったんだけど、遠くから私の戦いを観戦してたらしいルルーシュは「貴様は怪物か」とか「どうしたらそんな機動が出来るんだ」とかいう内容のことを何度も言ってくれた。怪物って言うなんて、ルルーシュは女の子の気持ち分らないのかな? 全く、本当に失礼だよ。でもこれ以上の機動を生身でできるって言ったら人間だって信じてもらえなくなりそう。ゾルディック家の七の扉を開ける私からすればグラスゴーなんて軽い軽い――人間の出来ることじゃなかったね。

 閑話休題。武頼に乗って逃走してたレジスタンスの女の子を助けて逃がして、さて私はそう逃げれば良いの? と聞いた私にルルーシュは冷酷な一言を告げた。曰く、それだけ強いなら自分で血路を開いて逃げろ、と。ルルーシュが冷たいよ。お姉ちゃんは弟が真っ当な人間に育っていないことを知って泣きそうだよ。


「あーっと、それは本気で言ってるの?」

「こんな状態で私が嘘を吐くと思っているのか? 勝手に加勢してきたのは貴様だろう」

「あ……うん、まあね。そうだけどさ」


 そんなやり取りがあった後、仕方がないからKMFを蹴散らして逃げた。途中で新型っぽい白いKMFに襲われたけど両足部分を破壊してすたこらさっさした。閃光のマリアンヌをして天才と言わしめた私の操縦技術を舐めるなよ――マークネモは分身だから操縦してないけど。通信でルルーシュと繋がったままだったから、向こうで「貴様の操縦は変態的に上手いな」って言ってるのが聞こえてもうお姉ちゃんのライフはゼロよ。追手がないことを確認して、ルルーシュが引き払うのをちゃんと確認してから逃げた。街が近くなってからは生身に戻り、走ってクラブハウスに帰った。ルルーシュより先に帰らなきゃ不審に思われるし。

 あ、あと。話は違うけど。ネモみたいに変身することは出来なかった。どうやって顔を隠そうか悩むなぁ……大きいバイザー? ルルーシュならすぐ私の正体に気付きそうだから却下。フェイスマスクは怪しさ満点すぎる。ゼロも仮面を付けているとはいえそれは駄目だよ、うん。

 顔を隠すと言えば。アニメ本編の二期を見てた友達が「黒の騎士団――あ、ルルーシュの仲間って言えば良いのかな? まあ良いや――がルルーシュをシュナイゼルに売ったんだよ! ほんと信じらんない。ルルーシュがブリタニアの皇子だって分った途端に手のひらを返して騙したなとか嘘つきとか言ってさ!」とか言っていた気がする。つまり身分や顔を隠してると「騙したなぁ!!」とか「この嘘つきめ!!」とか言われる可能性があるわけで……えっと、どうしよう。ルルーシュは男だからまだ良いけど、私はマリアンヌ后妃そっくりの顔に髪質だ。あの人有名だし、ばれたら何を言われるか。ルルーシュ共々売り払われるかもしれない。

 悩むのは後でも出来る。とりあえず、そう――三人で夕飯を食べよう。




 晩、ベッドの中で今日のことを考える。ようやく始まったストーリーはこれから転げ落ちるだけ。この流れはきっと私でも止められないだろう。だからこそ、ルルーシュを近くで守りたい。

 突然現れた味方か敵かもまだ分らない相手(私)を信用出来ないことは、私もよく分ってる。でも、私はルルーシュを支えたい。だって私はお姉ちゃんだもの。精神年齢を言えばお姉ちゃんなんて言えないくらい離れてるけど、私はルルのお姉ちゃんだから。どんな障害からも弟を守ってみせる。ルルーシュが救世主ならば私はその露払いをする。疎まれた結果生首になったとしても構わない。

 でも、ナナリーは……ルルーシュが甘やかすのもあってか『型に嵌った良い子ちゃん』状態で苦手。言うなれば『不幸な目にも遭ったけど私は明るく健気な良い子です』って感じなんだよね。一時期流行った少女マンガのヒロインみたいでなんかね。だって、幸・不幸に関わらず、体験っていうのは人格形成に於いて大きな影響力を持つんだよ。

 ――ルルーシュは父上に裏切られたのと、他に仲良かった兄弟が救いの手を差し伸べようともしなかったことで私やナナリーに対して病的に執着してる。気持ちはよく分る。たった二人残った肉親を手放したくないと思うのは当然で、周囲には単なるシスコンと思われてるようだけどちょっと違う。あれはもう病気だ。本人もそれほど自覚は無いみたいだけど、私が濡れた廊下でこけた時は顔色を失くして保健室に飛び込んできた。あれはもう、本当に異常だった。

 私は原作を微妙ながら知っているから覚悟は出来てた。けど、父上に捨てられたのとシュナ兄上やコゥ姉上やクロ兄上が私達を探そうともしてくれなかったことは、この胸に深く突き刺さってる。だから私にとって『兄弟』とはルルーシュとナナリーだけだ。後は誰も塵芥と一緒だって思ってる。前世のハンター世界の経験もあるし、異母兄弟を殺しちゃうことに躊躇いは無い。

 でも。ナナリーにはそれが見えない。歪んでいるはずなのに何も見えない。まるで『父親に捨てられ他の兄弟にも見捨てられた』という事実などなかったかのようにふるまうナナリーは私の目から見ると異常だ。クロヴィス兄上やシュナイゼル兄上がテレビに出ると懐かしそうに喜んで手を合わせている。そんな姿を見る度に、ルルーシュの顔は切なそうに歪むんだ。だから私はナナリーが苦手。妹として愛しいとは思ってるけど。

 例えば私が父上を殺したとしたら、ナナリーは「どうして父上を。お姉様の人殺し!」なんて言いそうだ。そうするに至った理由や原因は考えず、ある意味結果主義。始点や過程について知ろうとしないタイプだよね。今が幸せなら過程の不幸は気にしない――それは素敵なことに聞こえる。でも、その不幸を被ったのは私とルルーシュだ。


「でも、その一因は私にもありますね……」


 グルグルと高速で走る思考回路を休めるため、そう声に出した。

 目が見えず足が動かないからと甘やかしたのは私も一緒だ。綺麗な物だけを知って欲しいと汚いものからは遠ざけて育てたのは私も同じ。そして、成長する過程で私はナナリーに見切りをつけ、ルルーシュは過保護を続けた。誰が一番悪いなんて言えないけど、でも、私はナナリーをルルーシュのようには愛せない。

 ナナリーが死んだとしても私には痛くも痒くもないだろうって自覚がある。でもルルーシュは駄目。死なせたくないし死なせない。絶対に。


「ルルーシュのためなら私は――」


 荒れ野で叫び続ける。


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 久しぶりのコードギアス。とてもお待たせしています。
2012/07/14

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