再開


 私とルルーシュは十七歳になった。マリアンヌ様を喪った事件のせいでルルーシュは家族に対して盲目的すぎるきらいがあるけど、なんにせよ私の可愛い弟だ。また姉として尊敬され続けるためにはルルーシュに負けられず、【ザ・スピード】を使って勉強して『憧れの恰好良い姉上』の座を必死に守り続けてきた。天才と凡人が戦うためには勉強の量でどうにかするしかないんだよ……。

「あーもー! ルルってばまた授業抜けだして!! まだお昼だよ? ねえアンリからも言ってよ、ルルに授業受けるようにって!」

 ルルーシュがリヴァルと一緒に授業を抜け出してどこぞへと行くのを窓から目にしたシャーリーがぷんすかと怒っている。私に言われても、ルルーシュはルルーシュで私たちの生活のためを思って荒稼ぎに身を投じているのを知っている身としては無理矢理止めさせることなんてできそうにない。――まあ、私も二人のためにアングラの女子プロレスで稼いでいるんだけど。生身の人間なんて一捻りだからね……プロレスで何に苦労しているって、手加減に苦労しているくらいだよ。誤って殺しでもしたらと思うとヒヤヒヤする。最近は女性では相手にならない――男性でも私の相手になれる人なんていないけど――ので男子プロレスに混じってる。胸がなくて良かったと試合の時ほどしみじみと思う事はないね。時々『ひんぬー萌え、はぁはぁ……』とか荒い息をする人もいるけど、たいがいの方は失望したような目で見てくるから。女性の価値は胸じゃないのに。

「うーん、私はルルーシュの自主性を尊重したいです」

 まあ、そんなのは建前なんだけど。アッシュフォードからの援助が無くなった時に備えているのを止めようとは思えない、だなんて本音は言えないし。でもまあ、もし将来首が回らない事態になった時はビスマルクとの回線を繋ぐつもりだから大丈夫だけどね。ビスマルクは私たちが生きていることを知っているけど、きちんと口止めしているからお父様には伝わっていないだろう。生きているとバレたら不便になること間違いないからね。

「もう、アンリはルルに甘すぎるよ? もっとこう、ガツンと一度言わないと!」

「そうですね、ではそのうちそうしましょうか」

 もう塀の向こうに消えてしまったルルーシュの背中を追う――【ジ・オド】を使えば半径二十キロ程度なら目標の気配を瞬時に察知できます。円と違って『そういう能力』だからこそこの範囲をカバーできるのだけど、円と違うところは私以外のコード保持者によってギアスを与えられた能力者が【ジ・オド】の範囲内にいる場合、ガクンと精度が落ちるというところかな。

「もうっ!」

 口では文句を言いつつも心配そうに塀の向こうを見つめるシャーリーが微笑ましい。シャーリーがルルーシュに恋しているのは誰の目にも明らかで、気が付いていないのはルルーシュ本人ばかりなり。好きならガツンと告白すれば良いのにと思わなくもないけど、これは本人の問題だからね。

 チャイムが鳴り、昼休みが終わる。あまり好きでもない教師のくどい説明に内心飽き飽きしつつ授業をやり過ごし、あと一時間ほどの我慢で今日の学校が終わるのを慰めにしていた――の、だけど。

「――っ!!」

 ルルーシュを追っていた私の【ジ・オド】に異物が触れた……!? 顔を上げた私に気付く様子もなく教師はつまらない講義を続けている。これは人間ではない、そしてビスマルクや父上のようなギアスユーザーでもない。これはコードの気配だ――つまり原作が今日始まるということ。どうやらC.C.はクロヴィス兄上のところに搬送される途中みたいで一定のスピードで移動している。そろそろテロが起きるんだろう。

「C.C.……私の可愛い弟を傷付けるのは許しませんからね?」

 今すぐ駆けつけて、ルルーシュをC.C.から守りたい。彼女の望みはナイトメア・オブ・ナナリーと同じであるなら『死ぬこと』のはず。ナイトメア・オブ・ナナリーと混同しちゃいけないんだろうけど――ルルーシュに不死の呪いが移る可能性がある限り、私はC.C.からルルーシュを守らなきゃいけない。私はもう魔王だけど、ルルーシュをも魔王にしようとは全く思わないからね。

 それにしても、私の弟妹は犯罪者になる傾向でもあるんだろうか。幻影旅団しかり、ヒソカしかり、ルルーシュしかり。可愛いあの子たちを犯罪者に育てるつもりなんて全くなかったのに、いつの間にか犯罪に手を染めてたと知った時はもう……。可愛く『だって欲しかったんだもん』と言われたのは写真に収めて永久保存したいくらいだったけど。

「迎えに行くべきか、いえ、止めておきましょうか」

 ナイトメア・オブ・ナナリー版では一話目で死亡フラグだったけど、あれはナナリーを主人公にするための展開だったとあとがきか表紙裏にあった――はず。つまりルルーシュは帰り道に死ぬことはない。主人公だから生き残ることが決められている。

 ああ、でも心配だ。ルルーシュとC.C.が出会うことだって反対なのに。今なら【ザ・スピード】か【ジ・アイス】を使えば楽々ルルーシュに合流できる……黒の騎士団と関わらせずに済む。さっさと保護して帰れる――あれ? アニメではどうやってルルーシュはシンジュクゲットーから逃げて来られたんだろう? ブリタニアの兵がテロリストを探しまわってる中では主義者として捕まる可能性が大きい。でもアニメでは捕まらずに黒の騎士団とパイプを作った(と友達に聞いた覚えがある)。ルルーシュのギアスが一体何なのかはよく知らないけど、確かアニメイトのコードギアス関連の場所に『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる! 全力でグッズを買え!!』とか書いてあったから命令を聞かせるギアスなんだろう。ブリタニア兵に命令して保護させた、というのはないだろうね。あの子なら末端兵であっても助けを求めるの嫌だろうし。

 可能性として一番高いのは、黒の騎士団は武頼をいくつか所有しているはずだから、武頼にどこか安全な場所から指示を出し、その間に逃走ルートを確保したってところだろうか。うーん、ならマークネモで助けに行っても問題ない……かな? 顔を出すわけにはいかないから偽名&変装だけど、他人ならまだしもルルーシュを前にして私が誰かバレないという自信がない。【ザ・ソウル】で誰かに憑依するとか、ウィッチ・ザ・ブリタニアの容姿に――って、そうだ! ナイトメア・オブ・ナナリー版でゼロがC.C.の姿になったりルルーシュの姿になったり出来るのは変身能力があるからじゃないだろうか? もう原作を読み返すことなんてできないから何とも言えないけど。それにネモはナナリーの容姿をコピーして姿を手に入れた。オリジナルであるC.C.にその能力がないとは思わない。

 すぐに想像できて、またこの世界の人間じゃない人物と言えば、ハンター世界の弟妹が真っ先に思い浮かぶ。マチかなぁ。今の私の身長ではパクの方が近い気がするけど、顔が西洋的すぎる。顔合わせの時に嫌そうな表情をされるのは気分的に嫌だし。

 あとで試してみよう。きっと変身できるという自信があるけど確認するに越したことはない。私は窓の外を眺めた。――ルルーシュが巻き込まれるのがいつごろかはまだ分らないけど、ああ、姉としては今すぐ助けに向かいたいよ。




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長文にするの頑張った。01/17.2011

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