輪廻


 ここがコードギアスの世界だと気が付いたのは、ついしばらく前のこと。本来アメリカと名乗っているはずの『自由と平等』を謳った国はブリタニアといい、中国は中華連邦――転生先はパラレルワールドか、と思っていたらアニメの世界だった。

 参った……私が知っているのはナイトメア・オブ・ナナリーのみ。アニメ本編もアスカ版もLOST COLORSも知らないのだ。もしこの世界がナイトメア・オブ・ナナリー版でない場合には一体どんな展開が待っているのか分らない。とりあえずアニメ版ではルルーシュが死んで終わるということとギアスユーザーが少ないということくらいしか知らないから、何かアクションを起こすのは危険だろう。いたずらに混乱させるだけだから。

「あだぁ」

 とまあ、こんなことを考えていますが。今のところ私がすべきことは全くない。することができない、という方が正しいかな。だって――

「あぶぶぶ」

 私はまだ生まれて半年の、赤ん坊だもんね。




 あれから三年が過ぎた。そしてどうやらここはナイトメア・オブ・ナナリーの世界ではないようで、エデンバイタル教団のエの字も聞かない。そしてルルーシュが私の双子の弟だった。可愛いのだけど、この子が最終的に死ぬ位置づけだと思うと空しさが去来する。どんな経緯で殺されるのかは知らないけど、天寿を全うして死んで欲しい。

 それにしても、念を使えるせいでSPがどこにいるのかだとか知りたくもない情報が入って来て邪魔だ……。向こうは私の身の安全を確保しようと考えているのだろうけど、私はこの世界の誰よりも強い自信と自覚がある。視界の端をうろちょろされても気色悪い。どうにかできないかね?

「ギアスをつかうべきですかね?」

 【ザ・リフレイン】であれば楽にSPを撒ける――っと。いけない、ハンター世界では犯罪なんて日常茶飯事で忘れていた。人をそうそう簡単に廃人にしてはいけないのだった。なら【ジ・アイス】で時間を止めようか、それとも【ザ・スピード】ですたこら逃げますかね。いや、そんなことをしたら彼らの首は明日には胴体と一緒にはいないだろうね。守らなければならない相手、それも幼児を見失うなんて無能の証拠だし。

「こまりました……」

 SPをどうやって外させるべきか、思い付かない。私はクロロのように頭脳派じゃないんですよ。私の方が強いから別にいらないの、本当だよ――そうだ! 私が強いと分ったら、付ける必要がなくなるよね。そうだよね。これでも幻影旅団の育ての姉だし暗殺一家と二十年近いお付き合いをしてきた。そこらにいる一般人に毛が生えただけのSPなど赤子の手を捻るようなもんですよハッハッハ。

 この時の私は、まさか私のこの身体能力に目を付けてナイトメアの訓練をさせられるとは思いもしなかった。コーネリア姉様でさえ六歳から訓練を始めたというのに、まだ四歳にもならない私が何故そんな無骨で可愛くもないものに乗らないといけないんだろう? せめて見た目だけでもどうにかして欲しいもんです。ランスロットくらいの恰好良さを切に望むよ。

 話は変わるけど、可愛いルルーシュは甘えたがりで人見知りで、瓜二つの私には当然懐いているし我らが母上にも甘えている。だけど、母上の目を私は見たことがあるのだ――自分の思い通りにならないものを冷酷に切り捨てられる目を。

 あの目がブリタニアの敵に対して向けられていたのなら、私は何とも思わなかっただろう。それは当然のことだから。私は旅団の敵であるクラピカを慈愛に満ちた目で見るつもりなんて全く起きなかったけど、母上、いえ、マリアンヌ様は違う。そんな目を、腹を痛めた我が子に対して向けるのはおかしい。ナナリーを抱いたビスマルク卿を見たらマリアンヌ様の目付きに絶句している様子だった。――これは使える。私たち三人の身の安全のため、ビスマルク卿には味方になって頂こう。期限はマリアンヌ様が暗殺されるまでのあと五年弱、余裕だね。

「アンリ? どうしたの?」

「ああ、ルルーシュ。何でもありませんよ? ちょっと訓練に疲れただけですからね」

 育児ノイローゼだ、と言ってビスマルク卿にナナリーを押しつけたマリアンヌ様は今、ナイツオブラウンズの一角として出撃中だ。コーネリア姉様はマリアンヌ様に憧れているようだけど、アレは我が子に対しても冷血になれる女――いくら閃光のマリアンヌと武に優れても、人格はまた別のものということをコーネリア姉様は理解されているのだろうか。

「アンリばっかり大変なのは、ぼくが役に立たないからなのかな……」

「そんなことはありませんよ、ルルーシュ。私は他の人よりもちょっと身体能力が高かったのです。ルルーシュが普通なんですよ」

 頭を撫でながらそう言えば、ルルーシュは顔をへにょりと崩した。ああ、何て可愛いんだろう、私の弟は! 抱き寄せてナデナデすればルルーシュはクスクスと可愛い笑い声をあげ、私の母性本能が刺激されてならない。何て可愛い。世界で一番可愛い。マリアンヌ様がルルーシュのことを不要と判断しているのなら私にくれれば良いのに。

 まあ、あと数年もすればマリアンヌ様はこの世からログアウトされるのだけど。


+++++++++
時々更新予定。01/17.2011

- 1/4 -
×|目次次#



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -