開いた本音


 見つけた、見つけた――。










 将来が楽しみな青い果実、それを客席にまで殴り飛ばした。ボクは強化系の能力者は嫌いじゃないんだ☆ 頭が悪いくらい強さに貪欲だからね。一度こうやって力の差を見せつければ、死ぬ気で這いあがってくるのが強化系☆

 観客を巻き込んで客席を破壊してアレは止まった。何人か押しつぶされてるみたいだけどどうでも良いよ☆ 死んでないだけ良いだろう?


「――え」


 もうボクの勝利は決定的だね☆ 今のアレはもう見る価値もないと視線を外そうとして、見つけた。驚きすぎて顔から表情が抜け落ちたのが分る。だってあの子はどう見てもあの子で。

 一般人に擬態したノブナガがあの子のだろうパーカーを持っているのを見て更に驚く。何故ユカリはノブナガと一緒にいるんだ……? どうしてボクの隣にいない、どうして。ノブナガがユカリの肩に手を置き、何か言ってあの子を連れて行ってしまった。ボクだよユカリ、お兄ちゃんがここにいるのにどうしてそいつと一緒に行こうとしてるんだい。ただ立ちぼうけて目だけで二人の背中を追えば、そのまま扉の向こうに消えて行った。


「くっ、ヒソカ……私はまだ降参していないぞ!!」


 さっきまで興味の対象だった男なんてもう目に入らない。ボクはユカリを追いかけたいんだ、邪魔を、するな!

 視界に飛び込んできた男を殴り倒し、審判が勝者ヒソカだとか何だとかと言っているのを最後まで聞かずに扉へ駆ける。まだ、まだそう遠くまで行っていないはずだ。見つけたら抱きしめて、今度こそ失くさないようにずっと手を離さずにいよう。


「ユカリ……!」


 でもユカリの姿はもうそこになかった。ノブナガ――ノブナガがユカリを見つけたのか。ユカリはまだ八つで自分の町の名前なんて覚える必要もなかったから、きっと住所なんて覚えてないに違いない。なら今は住んでいた場所を探す旅の途中なのかな。なら早く行って、ボクがお兄ちゃんなんだよと教えてあげなきゃね☆


「く、くくく……ノブナガには礼を言わないと☆ ユカリを見つけて保護してくれてたんだから☆」


 壁にトン、と背中を預ける。ボクの試合を見たってことは数日前から天空闘技場にいたってことだ。チケットを買ったにせよ盗んだにせよ、今日僕の試合があると知らなければ来ようがない。しばらくの間滞在している、ってことかな? それともユカリに念を教えていたりなんてしないよね☆ 顔を見るのに夢中で、精孔が開いているかの確認を怠ったのはいけなかったかもしれない――まあ、ここ最近の試合表を見れば分るから良いんだけどね☆

 受付に向かいここしばらくの試合表を見れば、毎日のように並ぶユカリの文字。――念を覚えているうえで経験値を積むためにここに来たんだろうと分る。ユカリはかなりの使い手に育っているみたいだ☆ 育てたのがノブナガだと思うと嫉妬で脳が沸騰しそうだけどね。

 選手や観客たちがボクを見て来た道を引き返して行く。別の出口から出ようと必死な様子に少し笑いが零れる。ここで殺しはしないよ、もしユカリの耳にそんな噂でも入ったらどうするんだい? お兄ちゃん怖いなんて言われたらボクは泣くかもしれない。

 背中を丸めてクツリと笑みを浮かべた。今のユカリの部屋は分った――もう時間も夕方に近いし、明日の昼前に部屋を訪問しよう。ユカリ、ユカリ。今度こそその手を離さないから、もう二度とボクの目の前から消えないでおくれ。もしまたキミを失ってしまったらボクはもう立ちあがれないから。


「ああ、明日。きっと」


 伸ばし続けた手が、届く。














+++++++++
12/15.2010(抜き取り式お題03)

8/22
[pre][nex]
ページ:

[目次]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -