羽毛で包まれたような世界


 私はだいたい五階飛ばしで登ってて、今は百六十五階にいる。通帳の中はもう一生遊んで暮らせるくらいの金額が溜まってる。この世界は本当に弱肉強食なんだなって思うね。強いものは上へ上へ、弱いものは私みたいに殺される。全く無情な世の中だね。

 今日はヒソカさんの試合を見るためお休みして、ノブナガさんが手に入れてくれたチケットで会場に入った。近くで見たいからノブナガさんを引っ張って前から十列目に座り、ワクワクしながら試合開始を待つ。


「楽しみだね」

「そうかぁ? あいつの試合なぁ……まあ見てから感想言いな」


 原作で知ってるのはヒソカさんがなんかダボダボの服を着た男の人をなぶり殺しにしたってこと。でも相手の名前とか、覚えてない。か、カリオストロ? とかそんな名前だった気がする。生で見るにはかなりグロテスクな試合だと思うけど念能力者同士の試合なんて私初めて見るし。好き好んで見たいわけじゃないけどグロいのには麻里絵で慣れてるし。


「うん」


 会場も観客で一杯になってきた。そろそろ試合が始まる時間……ヒソカさんはお兄ちゃんに繋がる鍵だろうか? 会った事も聞いたこともないけど、もしかするとヒソカさんは私の叔父さんだったりするのかもしれない。お兄ちゃんはお母さん似だったからヒソカさんはお母さん方の親戚かなぁ。私の家の住所知っててくれたら良いな。


「それではぁこれよりぃ、ヒソカ対カストロの試合を行いまぁす!!」


 マイク越しの女の人の声に会場内が湧いた。やっぱり皆が注目する試合なんだろう、凝をして見回せば何人も念能力者がいるのが分った。私は今わざとオーラを垂れ流しにしてるから一見しただけじゃ分んない、と思う。クロロさんには上手いって言ってもらえたし。

 審判がサッと手を振ると男性からのヒソカコールと主に女性からのカストロコールが起こった。カストロさん――は、うん、女性が好きそうな顔だね。私にはちょっと軽薄そうに思えて苦手な部類だな。

 左右からそれぞれ壇上に上がる二人。ヒソカさんを見てみればやっぱりお母さんにそっくりだった。お母さんの話に一度もヒソカさんの話が出たことがなかったのはヒソカさんが変態で戦闘狂だからなんだろうか。

 カストロさんはなんていうか余裕綽々とはかけ離れた顔して、激しく動いてるわけでもないのにもう汗びっしょりだ。ヒソカさんはヒソカさんでかかって来いとばかりにニヤニヤ笑ってるし、でもそのくせ殺気が半端ない。あれと戦えって言われたら私逃げるよ。


「おーおー、楽しそうなこった」


 会場が固唾を飲んで観戦する中、ついにカストロさんが動いた。「虎咬拳ー!」とかって叫びながら飛びかかってる姿は何て言うか、みっともない。あ、殴り飛ばされた。女性陣の悲鳴と男性陣の歓声が被る。なんていうか、顔の良い人は同性に嫌われるものなんだね。気持ちが分らなくもないからなんても言えないよ。


「一方的だね」

「だな。だがアイツにしてはぬるい方だぜ? あいつ、あのスカトロ男が気に入ったみてぇだしな」

「ノブナガさん、スカトロって何?」

「あ――、まだお前は知らなくて良い言葉だ。スマン、忘れろ」


 クロロにはオレがそんなこと言ってたなんて絶対に言うなよ、と念押しされた。差別用語なのかなぁ。顔の良い男を罵る言葉とか、それともホスト顔を馬鹿にした表現なんだろうか?

 ヒソカさんが「気に入ったよ」とか「青い果実」とか言ってるのが聞こえる。確か似たようなことをゴンにも言ってたよね。――あ、モロにパンチが腹に入った。吹っ飛んでる吹っ飛んでる……ってこっちに飛んできた!?


「ったくあんにゃろう、面倒なことしやがって!」


 ノブナガさんが私の頭を掴んで引き寄せようとしたのが、パーカーは肩にかけてるだけだったせいでパーカーだけすっぽ抜けた。カストロさんが私たちの二段下の席の人たちを巻き込んで床にめり込んだ。

 ヒソカさんは笑いながらカストロさんを見て、そして――私と目があった。ヒソカさんの顔から笑顔が消える。驚き、だけが浮かんでる。私の顔に何か付いてるのかな……? あ、ノブナガさんと一緒にこんな子供がいるからか。ヒソカさんはノブナガさんと顔見知りだし、人種も見るからに違う大人と子供の組み合わせって変だろうし。


「チッ、せっかく見つからねーようにしてたって言うのによ……ユカリ、帰るぜ」

「う、うん。分った」


 ノブナガさんがオーラを垂れ流しにしてたのは知ってたけど、どうやらヒソカさんと会いたくなかったみたい。試合は見ても顔を合わせたくなかったんだろうに、私がこんな前の方に引っ張ってきたから見つかったんだと思うと申し訳なくなる。


「えと、ノブナガさんごめんなさい」

「ん? どうした」

「私のせいで会いたくない人に見つかっちゃったんでしょ?」

「なんだ、こりゃ偶然だから気にすんな。な? 何か食ってから部屋に帰ろう、景気づけに肉でも食うか!」


 明るい口調でそう言ったノブナガさんに手を引かれその足で焼肉屋に連れ込まれた。庶民的な店なのになかなか美味しくて、私はいつの間にか申し訳なさを忘れてた。そして、ヒソカさんの強い視線も、忘れた。














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12/14.2010(愛(それは幸福)五題)

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