思考回路よ 焼け落ちろ


 もう十年も前のことだ、あの子を失ったのは。ポケットには折りたたんだ古い写真、取り出して広げれば昔の自分ともう亡き妹の姿が写っている。


「ユカリ――ユカリを殺した酷い人はお兄ちゃんが殺したよ。だから帰って来てよ」


 まだ八歳だった妹を快楽目的に殺した男は、半年前にやっとのことで見つけ出して殺した。あの男の念能力は他人のオーラを吸い取ることによって自分のオーラに変えるという極悪非道なモノで、男の嗜好のため狙われるのは幼い少女ばかりだった。その被害者となり殺された妹……あの男を殺せば、帰ってくると思っていたのに。

 こぼれおちた砂は二度と帰らないと、男の死体を前にして、そしていつまでも現れることのない『死んだはずの少女』の情報を目を皿のようにして探して見つからなくて、痛感した。帰ってこない。あの子はもう帰ってこない。ボクの大事な妹は。

 椅子から投げ出した足はぶらんとして、この状態で襲われたら死ぬだろうなと自嘲た。死にたいのか?――分らない。ただ、妹に会いたい。


「戦い、戦いだけがボクをこの世に繋ぎとめる」


 強いものと戦いたい、これは雄としての本能だ。つまりボクは今、理性ではなくて本能で生きてるってことか。理性は妹と共にどこかに消えたに違いない。


「く、くく……くはははははははは!」


 自嘲のあまり声を立てて笑ってしまう。ああ、救いようがない。あの時のボクくらい救いようがない。








 二人で駄菓子屋に行ってバンジーガムとドッキリテクスチャーを買った。このためにお母さんの手伝いを頑張ったって言っても過言じゃない。貧しい我が家にはそんなに経済的余裕なんてないし、時々こうやって買える駄菓子がボクとユカリの楽しみの一つだった。


「半分ずっこ、ね?」


 ガムを半分に割って差し出してくるユカリが可愛い。クシャクシャに頭を撫でて半分貰って口に放り込んだ。


「あ」

「よぉヒソカ! またユカリと一緒かよ、はやく妹離れしろよな」

「やあタツキ。きっと一生無理だから早く諦めて」


 友達のタツキと偶然会って、話が弾み、気が付いた時にはユカリは隣にいなかった。探せば通りの向こうにしゃがみ込んで木の枝で何かガリガリと書いてる。タツキと一緒に苦笑しながら肩を竦めてユカリを迎えに歩き出し、そして――


「なあ、あのおっさんなんか変じゃね?」


 見るからに不審な中年の男がちょうど向こうから歩いて来るところだった。早く通り過ぎてくれれば良いんだけどな……ユカリが顔を上げませんように。

 近付くのが怖くて、自然と足が止まった。タツキと二人でその男を観察していたそのボクの目に飛び込んできたのは、ユカリを掴み上げる男の姿だった。やばい、関わり合いになっちゃいけないタイプの人間だったか……! ユカリをさっさと回収して帰るべきだった!! そして、タツキと同時に走り出したボクが見たのは信じられない光景だった。

 みるみるうちにミイラのように骨と皮と化していくユカリの姿、ニヤニヤと笑う男の顔。十秒とせず塵となったユカリ、だったもの。残っているのはユカリが着ていた服だけで、お気に入りのワンピースはふんわりと地面に落ちた。――それでも足は止められなくて、ボクは男に突っ込んだ。とたん体中を襲う激痛に悲鳴を上げることになった。


「なんだ、妹か何かだったのか? オジさんが美味しく頂きました、ゴチソウサマ! なんてなぁ、ヒャハハハハ!」


 体から白い靄が昇っている。なんなんだこれは、なんなんだ、これ、は。四肢に力が入らなくてぐしゃりと倒れ伏した。冷や汗が出る、顔から血の気が引いて行くのが分る。何なんだ、何が起きたんだ!?


「おー、優しいおじさんが教えてやるよ。それはオーラっつってな。いわば生命力って奴だ。そのオーラを体の周りに留められねーと、お・ま・え・は・死ぬ。分ったかぁ? ハハ、頑張れよ! せいぜい死なねーようにな!!」


 タツキがボクを守るように立ち、でもすぐに男はその場を離れていってしまった。

 考えろ、あの男は今なんて言った……? この白い煙が生命力で、流れ出るのを止められなかったらボクが死ぬ、だって? くそ、くそくそくそくそくそ! 留まれ、留まれ!

 数分してやっとオーラを留められるようになったボクはそれから、タツキと一緒にユカリの消失を嘆いた。あの、地面に山になっている白っぽい粉がユカリのなれの果てだなんて信じたくなかった。ユカリは誘拐されたんだと――信じ込むことで心を守るしかなかった。まだぬくもりを残したワンピースが切なくて、そのポケットに入っていたドッキリテクスチャーが空しかった。














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12/14.2010(抜き取り式お題09)

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