その十字架に祈れば良い


 歩き回って、何日も歩き回って、分ったのは――誰にも会えていないという事実だけ。

 このまま、ここで朽ち果てて死ぬんだろうか。お兄ちゃんにただいまって言えないまま死んでしまうんだろうか。嫌だ、嫌なのに、この流星街で生き抜く術を私は持たない。死にたくない、死にたくない。

 泣いたら体力を使うってどっかで聞いたことがある。だから泣けないと思ってるのに目は潤むし、口元は引きつるし、肺は熱い。


「うっ」


 口を押さえて泣かないように我慢する。目の下に見える手がぼやけてきた。泣くな、泣くな、泣くな。そう何度も念じてやっと涙が引っ込んでくれた。良かった。

 と、手から白い煙が立ち昇って見える。手だけじゃない、体全体から白い煙が昇っている。確かこれは――オーラと言うんじゃなかっただろうか? そう気を抜いた途端見えなくなり、困惑する。なんで? 突然消えたわけじゃないでしょ……? 眉間に皺が寄るのを分りながら目に力を込めたらまた白い煙が見えだした。何でだろう、見えたり見えなかったりして変なの。と、待って。見えたり見えなかったり?


「もしかして、凝?」


 凝じゃないの、これ。










 纏って確か体にオーラを吸着させるんだよね。体力が戻りやすくなると読んだ覚えがある。なら纏をしてたら生存確率が上がる……?

 そう思って纏をしながら歩き回ったら、それまでの何倍もの時間歩けることが分った。ちょっと楽しいかも! わくわくしながら他の技も試してみようと技を思い出す。確か円! 円って技があったはず!

 オーラを伸ばす感覚――だよね。ウンウン唸りながら試してみればだんだんと輪が広がって行って、一キロ――二キロ――三キロ、と空間が手に取るように分かりだした。誰もいない……ええい、見つかるまでやるっ!

 だんだんとその輪を広げていって、半径七キロまで広がった時にやっと人っぽいのを見つけた。オーラが大きいからきっと人間、だと思う。両手を上げて喜んでたらそのオーラの塊が立ち止まった。どうしたんだろ。しばらくその場に止まってたかと思うと突然猛スピードで移動しだした。それも私に向かって。

 その時私は知らなかったんだ。一般の念能力者の円は三キロもあれば十分なんだってことを。原作だって流し読みだったし。


「どんな人が来るのかなぁ……」


 私はその場に座り込んでその人を待つことにした。円によるとその人は時速百キロくらいで走ってるみたい。だいたい四分くらいでここに着く計算かな――どこのチーターだろうか。その人――人だよね?――の来る方向を見ながら膝を抱えて待ってたら、ケシ粒みたいな黒い点が見る間に大きくなっていった。


「……子供?」


 私の前に立ったのは黒髪の柔和な顔したお兄さんで、何故か鉢巻してた。


「君、どこのコロニーの子だい?」

「コロニー?」


 なにそれ。


「コロニーの子じゃないのか……ならどうしてこんな場所に」


 真っ黒のズボンが汚れるのも厭わずにお兄さんは膝を突いて私と視線を合わせた。良い人……!

 私が首を傾げたのを見てお兄さんは難しい顔をした。コロニーっていうのは流星街の中の街のことだろうか。そんなのがあったなら何で見つからなかったんだろう? もしかして私の落ちた場所は流星街の中でも辺鄙な場所だったとか……もし私を落とした存在ってのがいるなら、何て性悪なんだろうか。もう神なんて信じない。


「気が付いたらここにいたんだよ」


 眉間にしわを寄せてるお兄さんに言えば、小さく「捨てられたのか」と呟いた。


「そうか――俺の名前はクロロっていうんだよ。君の名前を教えてくれるかな?」

「ユカリだよ、よろしくねクロロさん」


 あれ、どこかでその名前を聞いた気がする……まあ良いか。細かいことは気にしないに限るよ。


「ユカリちゃんか。ユカリちゃんはさっき何をしてたのかな? 俺に教えてくれないかい」


 クロロさんは私を抱き上げると優しい口調でたずねてきた。あやすように揺すられてなんだか嬉しくなる。ユカリとしての記憶が強いのか分らないけど、こういう扱いが嬉しいとか……もう私高校生として終わってるよね。まあ年齢相応だと思えば気にならないよ。


「探しても誰もいないから、歩くの止めて触角伸ばしたの」


 円って触覚だと思うんだ。じゃない? 専門用語知ってたら疑われるだろうし。


「へえ、触角を。その触覚の伸ばし方は誰かに教えてもらったのかな」

「ううん。さっき知ったばっかり」


 漫画で読んだなんて言えないしね。クロロさんは目を見開いて私を見つめた。そして嬉しそうに微笑むと、そうかと一言言って空いた手で私の頭を撫でる。


「ユカリちゃん、俺と一緒に来ない? お風呂に入ってご飯を食べよう」

「うー……うん。行く!」


 ちょっと悩むふりをして頷いた。いや本当にお腹減ってるんだよね。流星街は臭いし、食べ物なんてないからお腹はペコペコだし。是非拾ってください、実はこっちからお願いしたいくらいでした!














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12/13.2010(檻の中の100題)

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