望郷の丘


 良いかヒソカ。突然現れた変な男が「兄さんだよ☆」などと言ってきても、一般的な感性の持ち主ならその言葉を信じない。ユカリには絶対に「ボクはキミの兄さんだよ☆」などの妄言を吐くな。女性の意見をとパクやマチに確認したところ、「そのようなことを言われても信じられない」「変態の兄など死んでもごめんだ」という回答をもらった。分ったかヒソカ、ユカリに会う際には兄弟などと名乗り出ず、信頼を得るために紳士的な行動を取れ。これはお前のためではなくオレのための助言だ――くれぐれもユカリに嫌われるような行動を取るなよ。

 面と向かって会話するにはヒソカは殺気立ちすぎていたため、電話口でユカリと会う際の注意をした。きちんと理解していたかは謎だ。果たして今日の『初対面』はどうなったやら……シャルが「クロロまだここに居座る気? この部屋にクロロがいるとヒソカが来るから嫌なんだけど」と口を尖らせているが、他に宿を取るのも面倒なため無視。

 本を広げながらもヒソカやユカリの気配を探る。どうやらオレが広げた円の範囲内にはいない――地上階にヒソカの気配が飛び込んできたと思えば、階段を飛ぶように上ってくる。目的地はここか? オーラからは上機嫌だと分るから、ユカリとの『初対面』に成功したのだろう。


「クロロ!」


 扉を破壊して現れたヒソカに、シャルが「うわぁ扉がぁぁぁ!」と叫ぶ。弁償しろよお前、今日の宿どうしろってんだよクソヒソカ! と掴みかからんばかりのシャルをポイと投げ捨て、ヒソカは満面の笑みでオレの前に腰かけた。


「大成功だよ☆」

「それは良かったな」


 はにかみながら「ヒソカさん」と呼ばれたのだと笑顔のヒソカに、どうやらボロを出さなかったようだと判断する。


「ユカリはどうだった」

「死ぬ前までの記憶はあるみたいだね☆ でも、キミが拾って半年の記憶はないみたいだ☆」


 キミの手垢が付く前のユカリになってくれて喜ぶべきかもねと嫌味を言うヒソカだが、その表情は言葉程には嫌味たらしくない。……一度味わった蜜の味は、簡単に忘れられるものではない。妹を妹として扱えずじれったく思っているに違いない。


「先ずは信頼を勝ち取れ。それが一番の近道だ」

「分ってるよ☆」


 ばふん、とクッションを背中で押しつぶしソファの背もたれに両腕をかけ、ヒソカは足を組み直した。


「記憶が戻るにせよ戻らないにせよ、ボクはユカリを取り戻す☆」

「――それは、ユカリを閉じ込めると?」

「翼をもがれた鳥はもう鳥じゃないよ、キミだって分ってるだろう? ボクはユカリと家族に戻れればそれで良い☆」


 ニマリと笑みながら、ヒソカはゆったりとした口調で言い放つ。


「兄妹に戻れないのなら戻れないで、もう一つ☆ 家族になる方法はあるじゃないか☆」


 ヒソカの後ろで、シャルが「うげっ」と小さく呟いていた。





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10/01.2012(抜き取り式お題04)

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