明日、笑って嘘をつけますように


 シャルの部屋でユカリに関する報告を聞き、あのユカリとこのユカリが同一人物であろうという確信を得た。仕方なしに同席させているヒソカは今すぐに飛びださんばかりの表情だ。


「待て、ヒソカ」

「――なんだいクロロ。ボクはこれから忙しい」

「目の前に突然怪しい男が現れたら、お前はどうする」

「殺す」

「お前らしい答えだな。だが今回は不正解だ」


 睨みつけてくるヒソカのそれを無視し、言葉を続ける。


「今日はただでさえシャルの尋問じみた質問の嵐で疲れているところだ。そこに突然、殺気立った不審人物が現れてみろ。ユカリは間違いなく逃げるだろう。良く考えろ――お前は今、頭に血が上り過ぎている」


 ヒソカはオレを睨んだまま盛大に舌打ちをした。ヒソカも分っているのだろう、今の状態でユカリに接触したとしても兄妹として認識されるわけがないと。

 体を投げ出すように椅子に座りなおしたヒソカから視線をシャルに戻す。他に報告すべきことはないのか?


「他には……ユカリちゃんがとっても可愛かったことかな。あーヒソカも会えなくて残念だよね」


 ヒソカが苛ついた様子で歯を食いしばり、それを見てシャルは目元をニヤリと歪ませる。ヒソカをからかえるのがよほど楽しいらしい。全く……無駄にヒソカを弄るな。後でストレスをぶつけられるのはオレだというのに。


「明日」


 足を組み直し半身を倒して足を抱き抱え、床を見つめながら呟くヒソカ。どうもヒソカらしくないそれに猛烈な違和感を持つものの、こいつの経緯を思うと当然なのかもしれない。


「明日、ユカリに会いに行くよ。ボクはお兄ちゃんだから」


 今度こそ妹を守るんだ、と首筋を晒し項垂れる姿に、オレも目を閉じてあの半年に想いを馳せる。

 始めは単なる興味だった。屈託なく懐いてくるユカリが可愛く思えてきたのは二ヶ月目くらいだっただろうか? 打てば鳴る才能の塊が面白くて、気が付けばユカリの想いを優先してやりたいなどと――妹のように思っていた。


「オレも付いていってやろうか」

「いらない」

「手伝いをしてやろうと言っている」

「いらない」

「そうか」


 ヒソカはのったりとした動作で立ちあがり、一歩一歩踏みしめるように歩いて部屋を出て行った。


「アレ、何?」

「ヒソカだが?」

「アレが? 冗談キツいよ。あんなのヒソカじゃないじゃん」


 同じ蜘蛛とはいえ、ヒソカの態度が悪いため蜘蛛の他のメンバーに嫌われている。だが、特にヒソカを嫌っているマチなどが今のヒソカを見れば、彼を「ヒソカの皮を被った他人」と言うだろう。それほどに様子が違う。


「アイツにとって妹は人生そのものだ。だから今度からアイツを妹の話で弄るな――今回はなかったが、前に妹のことで暴走した時は止めるのに苦労した」

「ふうん……」


 シャルはつまらなそうに鼻を鳴らし、会話が途切れたとたんパソコンを開いて自分の世界に潜って行った。

 ユカリ、オレのことは思い出せなくても良いが、ヒソカのことは思い出せ。ヒソカがストレスに任せてお宝を破壊したのは二度や三度の話ではないんだ。――だが、そうだな。ヒソカの次にで良いから、オレのことを思い出してくれると、嬉しい。





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09/29.2012(抜き取り式お題02)

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