あと一歩


 私のハンター知識には偏りがある。友人の一人がどうしようもないハンターオタで、授業中回す手紙にハンター文字で内容を書いて送ってきたり『わたしのかんがえたさいきょうのねんのうりょく』を語ってきたりとはた迷惑極まりない子で、でもその子のおかげで今私は生きているといえる。夢を見るようになってからなんとなく不気味で読めなくなった私に構わず念の系統だとか話の展開だとかキャラクターの絵だとかを見せてきたからだ。

 ついでにその子はシャルが一番好きで、何故好きかというと引き締まったマッチョが好きだかららしい。今考えてみると私の周りには濃い人しか集まらなかった気がする、不思議だ。


「ねーねー、ユカリって戦闘歴二年だって? たった二年でよくそんなに強くなれたよね」

「はあ、まあ」


 何故かシャルにつきまとわれて早二日。闘技場内部に設置されたカフェで休憩する私の円には二つのオーラが触れている。毒々しいというかおどろおどろしいというか、とある人への悪意に満ちたオーラと、他に比べて巨大だけど落ち着いていて、いま突然暴れ出したりはしそうにないオーラだ。どっちのオーラも私に攻撃を加えてくる様子はないから良いんだけど、前者の暗い紫色っぽい印象を受けるオーラの持ち主はどうやらシャルに対して恨みでもあるらしい。チクチクとオーラがシャルを刺している。


「どこで修行したんだい? 師匠の中では弟子をある程度鍛えたら森の中に放置する人もいるって聞いたことあるし。もしかしてそういうタイプ?」

「あ、いえ……私に師匠はいないので」

「ホント!? よくそれでそこまで強くなれたね!」


 シャルの一方的な質問にどう答えるべきなのか目を回しながら言葉を選ぶ。


「気がついたら森の中で、どうして自分がそこにいるのかとかも分からなくて。必死に毎日を生きてたら自然と?」

「へえ……」


 嘘をついても仕方ないので正直に答える。


「じゃあ、二年前から山で?」

「はい、正確には一年半くらいですけど」


 私にはこの体の家族を探すと言う目的がある。この子にとっての「パパ」と「ママ」と「お兄ちゃん」――この子がいなくなって、彼らはどれだけ心配してるだろう?


「探さなくっちゃ……」


 小さく決意した言葉はシャルの耳に届くには十分な大きさだったらしい。私を質問攻めにする気満々の目を見て口が引きつった。


「何を探すの? これでもオレは探し物が得意だからね、手伝ってあげるよ!」

「いえ、良いですよ……私だってそれが何なのか分んないんですから」


 「何」というか、「どこ」と言う方が近いかもしれないけど。この子が住んでた地名をはっきり覚えていないから、虱潰しに世界を回ろうと思ったのだ。それにはやっぱりお金がいるし、稼ぐなら天空闘技場かなぁ、みたいな。


「ふーん」


 シャルがニヤニヤとしながら私を見た。一体何のつもりなんだろう、さっぱりだ。


「これでこの話はおしまいっ! もう聞かないでくださいね!!」

「えー、なんでさ?」

「シャルしつこいんですよ、粘着質です!」

「うっわ……酷い言い様」


 顔をひきつらせたシャルに鼻を鳴らす。どうしてこうも興味を持たれたのかは知らないけど、私にとって歓迎できることじゃないのは何よりも明らかだ。

 テーブルのグレープフルーツジュースを吸いあげると、ちょっとした幸福感に包まれた。














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11/16.2011(抜き取り式04)

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