君がいた筈の場所


 ユカリとかいう女とシャルが対戦することになるとは思わなかったが、今回は本当に運が良い。記念撮影でも何でも理由を付けて写真を撮ってこいと命じたため今オレの手にはあの女の引きつった笑顔の写真がある。――ユカリと似ている。全くの黒ではなく日に透けると紅く輝く髪に灰がかった茶色の瞳。目元や薄めの唇がヒソカに瓜二つだ。ぴっちりした服の下は筋肉で締まっていると言うより贅肉が削ぎ落とされていると言うべきか? あのユカリがそのまま成長すればこうなるだろうといった容姿の女だが……年齢が違いすぎる。

 シャルとの試合を見て分かったが、あの女は殺す・倒すためというより生き残ることに一番重点を置いたスタイルの戦い方だ。相手の力を一瞬で見極め、食らっても問題ないレベルかどうかを判断している。圧倒的強者――たとえばオレのような念能力者――を相手に戦うよりは、二・三段階強い動物を相手にしていたのではないだろうか。理性的な戦闘よりも本能的な戦いを得意とするに違いない。


「ユカリか……」


 もしこの女が「ユカリ」だとすれば、何故オレの前に現れなかったのか? ユカリが捨てられたと勘違いした、記憶喪失、合わせる顔がないと思うような出来事が起きた、拉致監禁のち洗脳? ユカリが勘違いするような要因がないためこれは論外、記憶喪失はどうだかな……可能性の一つだが本人に確認しなければ分からないな。合わせる顔がないと思い込むような出来事など滅多なことではないし、拉致監禁の場合では犯人の目的が知れない。シャルによればユカリは初見の相手に警戒を崩さず、精神的に不安定なところもなく正気。洗脳の線は薄い。

 残るは記憶喪失と顔を合わせられないなんからの事情があるの二つ。後者の場合オレが直接出向くと逃亡する可能性が高いからシャルに任せた方が良いだろう。


「――というわけだ」

「了解、つまり彼女に近づいて話しかけて、それとなく過去を聞き出せば良いんだね?」


 シャルが面倒臭そうに答えたのに頷く。オレも人任せにしなくて良いことだったら自分でしているんだ、そう嫌そうな顔をするな。


「年齢違うんだったら別人じゃないのー? でもオレ、あの子のことまあまあ好きかな。オレとの実力差も分かってたみたいだし」


 シャルは今度はニコリと笑むとパソコンを開きそちらに集中しようとした――が。

 示し合わせたように二人、高速で近づく殺気に来た気配に顔を上げる。これはあいつか……マチが連絡を入れてまだ一日しか経っていないはずだが。一体どこで何をしていたのかは知らないが、きっと一日で来られるような距離ではなかったはずだ。


「クロロッ!」


 ドアを開くのももどかしいと言わんばかりに蹴破って入ってきたのはまさに予想通りヒソカで、この男にしては珍しく汗も拭わぬ様子は余裕のなさを窺わせる。


「よく来たな、ヒソカ。喜べ――今回は可能性が高い」

「可能性が高い? どういうこと。本人だったらすぐ分かるはずでしょ」

「年齢が違う。しかし、本人だとしか思えない」


 写真を指で弾いて渡せば奪い取るように受け取り、ヒソカは写真の女を確認した。


「……なるほど☆」


 ヒソカはニヤリと笑んだ。


「クロロ、キミは忘れてるかもしれないけどユカリの実年齢は二十近くだよ☆」

「ああ、だが――」

「オーラの集合という形で蘇ったユカリなら何が起きてもおかしくないと思わないかい?」

「なるほど、言われてみればそうだな……。」


 ヒソカは汗を振ると乱れきった髪を整えた。写真に唇を当てて目をキツネの様に細める。普段のこの男らしさを思い出したのだろう、ヒソカの変貌ぶりに目を剥いていたシャルがやっと正気付いてオレとヒソカを見比べた。


「ユカリは百五十階で試合をしている。見に行くと良い」


 天空闘技場に現れてから毎日試合をしているというから、明日も――いや、明日は休むかもしれないな。シャルと戦ったのだ、最低でも一日は休むに違いない。














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11/15.2011(抜き取り式お題03)

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