ゆめをみていました
目が覚めたらクロロさんがいた。帰って来ていたのは知ってたけど、目の前にあの顔があると流石にビックリする。驚きのあまり後ろに倒れ込んだのは仕方ないよね……?
「おはよう、ユカリ」
「おはようございます、クロロさん」
お兄ちゃんは――どうやらいないみたいだ。迎えに来るよって言ってたけど、いつ来るんだろう。
「昼にヒソカが来る。荷物の用意をしておけ」
「あ、はい」
クロロさんはポンポンと軽く私の頭を叩くとふと笑んだ。
「たった半年だが、俺は良い弟子を持った。胸を張れば良い」
「クロロさん……」
お兄ちゃんと一緒に行きたいんだと私が言う前に、気負わなくて良いと先にそう言ってくれたクロロさんの優しさに胸がジンと熱くなった。
「ほら、荷物もだが先ずメシだ。ノブナガに任せていたら炭を食べることになるぞ」
漢料理のノブナガさんだから目玉焼きとか焼き魚はもう炭みたいになってしまう。私は布団を足元に畳んでベッドから転がり下りた。もうノブナガさんは起きてるんだろう、今日は寝坊したのかな、私。
窓の外は白く明るくて、でも細かい時間はさっぱり分らない。目ざまし時計代わりの携帯を開けば八時半――寝過ごしたみたいだ。
「クロロさんは先に居間に行ってて! 私着替えてからすぐ行くから!」
旅行バッグに手を突っ込んで今日の服を漁りながら言えば笑い声が返って来て、それと扉が閉まる音がした。いつも似たり寄ったりの服を取り出してパジャマから着替え、部屋から走り出たら……キッチンにはノブナガさんとクロロさんが二人で並んで立ってた。恐ろしく似合わない図だなぁ……。
洗面所に走って顔を洗い、駆け足でキッチンに向かう。ノブナガさんとバトンタッチしてフライ返しを受け取った。――まだ魚は焼き始めたばっかりだ。良かった。
「早かったな。あのままノブナガに任せていたらフレークになるところだった」
「餅は貧乏人に、魚は大名に焼かせろって言うからね」
餅はくるくる回して焼いた方が良いけど、魚は何度もひっくり返すと身が崩れてしまうからじっくりゆっくり、気楽に焼くのが良い。
「ということはノブナガは貧乏人か」
「ちょっとせっかちなんだよね」
「それを精神的に貧しいというんだ、ユカリ。覚えておくと良い」
「ええ……」
「おい、貶された気がするんだがなぁクロロォ……」
背後でノブナガさんの声が地を這い、楽しそうにクロロさんは笑い声を上げる。仕方ないなといわんばかりのノブナガさんのため息、居間に響きわたるクロロさんの楽しそうな哄笑。
命の恩人に背を向けて、お兄ちゃんと一緒に行こうとしたからなのかな?――私は存在しちゃいけないのかな? ねえ、何で。
「のォっ!!」
クロロさんに何かお礼をしたくて闘技場から出て、プレゼントを探してた私は、突然裏路地に連れ込まれた。そして、壁に叩きつけられた額が割れた痛みと振り下ろされた拳による殴打で――意識を失った。
ねえ神様。いるなら教えてよ。私は何か、悪いことをしたのかな……。
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01/03.2011(ひとりぼっち五題)
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