馬鹿馬鹿しい話


 すくいあげるように抱きしめられて足がぶらーんとした。ヒソカさんの肩に顎が乗って、お尻の下に腕が回されてしっかり支えられる。――こやつ、プロだ……! っていうのは冗談として。どうしてヒソカさんが私を知ってるのか、だ。お母さんに頼まれたとか? そりゃあ半年も行方知れずだったら心配するよね。藁にも縋る、の想いで頼んだのかも。なるほどなっとく。

 初めて会った叔父さんは新族には愛情表現過多なんだろうか、頬をすりすりと擦りつけられてキスまでされた。でも叔父さん、匂いまで嗅ぐのはどうかと思うよ。


「ユカリ、ユカリ――ん?」


 叔父さんは急に眉根を寄せて宙を睨みだした。


「ユカリ、この酒の匂いはどうしたんだい?」

「え、と。ノブナガさんが」


 とたん叔父さんは一瞬顔から表情という表情を失くしたと思ったら、やけに爽やかな笑顔を浮かべた。そして膨れ上がる殺気……私は辛くないんだけど、周りの空気がビリビリ震えてるのが分る。殺す気満々、まさに「殺気」って感じ。


「誰だ!!――テメ、ヒソカァ!!」


 ノブナガさんは置きぬけとはまるで思えない動作でばっと現れ出て、私がヒソカさんに抱き上げられているのを見てギンッと目を鋭く細める。


「この状態は何だい……? 説明、してくれないか、な?」


 ヒソカさんは私を抱き直すと妙に低い声で訊ねた。


「あ゛ぁ!?」


 ノブナガさんが眉間に深い皺を寄せて凄む。


「何でユカリにこんなに酒の匂いが付いてるわけ? それと、その様子だとキミ昨晩はだいぶ飲んだね。まさかユカリに飲ませてなんかいないだろうね」

「……あ?」


 ノブナガさんの目が点になった。そりゃそうかも、こんな殺気をぶつけられて殺り合うのかと思っていたら、お酒の話なんだもん。


「ああユカリ、やっと見つけたと思ったらこんな保護者として最低な部類に入る男に拾われていたなんて! さあ、服なんてボクが新しく買ってあげるからこんな場所からすぐに出るよ。こんな精神衛生に悪い男となんて一緒にいちゃ駄目だ」


 の、ノブナガさん散々に言われてる……。


「おい、テメーは一体ユカリの何なんだ。お前がそこまで人のために動くっつーのは」


 叔父さん、だと思うよ。一応まだ証拠というか言質がないから何とも言えないけど。――と、そう思っていた私は次の瞬間ヒソカさんの顔をガバリと見上げた。


「兄妹だよ」


 え……? どう見てもヒソカさんは二十代かそこら。お兄ちゃんは私と三歳違いだから、おかしい。


「の割にはユカリが変な顔してんぜ」

「そりゃそうさ。ユカリは九年の間消えていたからね」


 ヒソカさんは私が理解できないと思い込んで話し出す。私の中には八歳のユカリはもちろんいるけど、十七歳の紫がいる。説明されれば分ってしまう。

 あっちにいた時の私とこの今の私は、もしかして、前世と来世じゃなくてパラレルワールドの同じ人間だったんじゃないかって。同じだけこっちでも時間が過ぎてたんだって。そんな仮説が浮かんで――急速に成長し始めた。

 何でおかしいと思わなかったの……? 私が流星街に一人で立ってたのはなぜなのかって、考えなかったの? ううん違う。違うんだ。私は目を背けていたかったんだ。お兄ちゃんを九年前に置いて来てしまった事から。

 私は戻って来たんじゃない、帰って来たんだ……。涙がジワリと盛り上がって、零れた。私は馬鹿だ、馬鹿だ。


「ああ、ユカリ。説明しなくてごめんね。ちょっと見た目が変わっちゃったけどボクはユカリのお兄ちゃんだよ?」


 私の涙を何と勘違いしたのか分んないけど、ヒソカさん――お兄ちゃんは私をあやすようにゆすった。


「お兄ちゃん」


 謝らなきゃと思うのに何も言えなくて、一言そう言った。


「うん?」

「ただいま」

「うん。お帰りユカリ」


 抱き着いて泣いたら鼻水付けちゃった。














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12/17.2010(抜き取り式お題11)

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