「ま、嘘だけどね。
他人を簡単に信用するのは感心しないよ
大人しく帰った方がいいんじゃない?
ガキ」
その言葉にぷちんと何かが切れる音がする。
「ふざけないでよ!こっちは真剣なの!!
もういい!
放っておいて!!」
その言葉に一瞬真剣な眼差しを向ける。だが、そんな彼に気付くことなくセレーネはくるりと青年に背を向けて、いくつかあるうちの一つの扉に向かう。
彼女が扉を手にかけた時、
「気を付けろよ」
後ろで青年の声がして振り返るが、何処にも青年の姿はない。
少し怪訝な表情を浮かべてから気のせいだと思い直し、セレーネはまた扉に顔を向け、扉をあけて足を進めた。
そんなセレーネを見つめる瞳。その瞳の主は小さく呟く。
「…死ぬなよ」
それは小さくて今にも消えてしまいそうな祈りだった――…
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