「私、行くよ」
突然聞こえた言葉。ルイは声の主であるセレーネに急いで目を向ける。一方のセレーネはルイに目を向けることなく、真っ直ぐに開かれた扉の奥を見つめていた。
「……なっ!!?
危ないから本当に―――」
部屋に戻れ、と言いかけたが、懇願するように涙の膜が張られた真っ直ぐな瞳に見つめられ、それ以上何も言えなかった。
口には出さないが、言いたいことは痛いほど伝わってくる。
(卑怯だろ…)
そう思いながらルイは、どうやってセレーネを止めたらいいのか、どんな判断が正しいのか、どう言葉を続けたら誰も失わなくなるのか、を必死に考えたが分からなかった。
『明らかに考えすぎだ』とは思うのだが、何故そこまでのことを自分が心配しているのかも分からなかった。
それほどまでにこの扉の闇は深く、危険であると本能は悟っていたのかもしれない。
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