これ以上ルイを困らせてはいけない
そうは思いながらも、大事なことを見落としているような、そんなモヤモヤした気持ちが頭から離れなかった。
(なにか…忘れてる…)
「…ほら、戻るぞ」
ルイはセレーネの腕を掴む。
だがセレーネはルイに気付いていないかのように、必死でその『何か』について考えていた。
(何かあるはずなんだ)
「聞いてるか?」
(何か……!)
―私は何か大事なものを…
呼び掛けても反応しないセレーネに痺れを切らしてルイは不機嫌そうに呟いた。
「おいセレー―――」
「――扉」
予想外の返答にルイは目を丸くする。だがそんなルイを気にすることなく言葉を続けた。
「扉!ほら、あの開かずの扉!」
そこまで言ってから、あぁ、と理解する。しかしそれでも腑に落ちない、という表情を浮かべながら口を開いた。
「それがどうした?
まさか吸血鬼があの扉の地下にいるっていう噂を鵜呑みにしてんのか?
それにあれは扉じゃなくてただの飾りだろ」
「違うの!」
またもおかしなことを言うセレーネに怪訝な表情を浮かべた。
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