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手を洗い急いでトイレから出る。
だがそこにいるはずのセイラの姿がなかった。
「セイラ…?」
声に出して名前を呼ぶが返事がない。
薄暗くて目で姿を捉えることは出来ないが、前に広がる廊下に人気はないように思える。
「どこ…?」
声は闇に溶けて消えていくばかり。それが余計にセレーネを不安にさせる。
その恐怖を必死で振り払うために頭を働かせた。
セイラもトイレに入ったのかもしれない
だがトイレの中で物音を聞いた覚えがない。
じゃあ先に部屋に戻った?
可能性はある。
だが今まででもこういうことは何度かあった。今回が初めてではない。
その度に必ずセイラは待っていてくれた。
なのに突然自分を置いてきぼりにして、一人で戻ってしまうということがあるのだろうか。
セイラは優しくて面倒見がいい。そんなセイラが怖がる自分を置いて戻る、ということを想像することができなかった。
まさか吸血――
そこまできて思考を止める。
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