※秋伏


「猫、好きなんですか?」

 伏見があまり興味は無さげにそうきけば、腕に黒い猫を抱いたまま秋山は曖昧に笑った。

「猫という生き物が特別好きな訳じゃないんです。…ただ、一匹好きな猫がいまして……」

「…へぇ?」

「とても美人な子ですよ」

「猫に美人とかあるんすか?」

 秋山はくすりと笑って、美人というよりか可愛いかもと付け足した。

「それはおいといて、とりあえず最後まで聞いて下さいよ。伏見さん」

 伏見が返事の変わりのように舌打ちすると、黒猫がびくっと動いた。秋山は撫でて猫を落ち着かせながら続ける。

「初めて見た時から気になってたんです。それで近づいたら、最初は睨み付けられるか噛みつかれるかのどっちかでした」

「…秋山さんて、猫は知らないすけど、動物に好かれそうだと思ってたんで、意外です」

「そうですか?……でも暫くした頃、撫でさせてくれる様になりました」

「あんたがしつこいから諦めたんじゃないですか?」

「かもしれない。睨まれても噛まれても可愛いなって思っていましたが、撫でた時の顔は何とも言えなく可愛かったです」

「何だか秋山さん、彼女の話してるみたいで気持ち悪い」

 伏見が眉を寄せると、秋山は間違ってはないですねと言う。

「あ、あと、最近は隣でご飯を食べてくれる様になりました。好き嫌いは多いんですけど」

「隣で食事?好き嫌い?」

「はい。他には、たまに部屋に来てくれたりしますよ。同じベッドで……。ふ、ふひみひゃん」

「もう、言わなくていいから」

 伏見はほんのり頬を桃色に染めて、手で秋山の口を抑えていた。秋山が頷いてみせると手を離して、顔を隠す様に俯く。

「伏見さんは猫みたいですよね」


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