※礼猿


 口の悪さ、態度、表情。
 それらは伏見猿比古という人間の奥にある核の様なモノを隠してしまう。
 時に壁となり内側に彼を隠す盾の役割をなしている様にも思える。

「伏見君は、綺麗な顔をしていますね」

 笑う宗像を、伏見は怪訝な表情で軽く眉を寄せて睨みつけた。

「あんた、ついにイカれたんすか?」

「いいえ。感想を述べただけですよ」

 顔は内面を表すという。
 宗像は伏見を綺麗な人だと思うのだ。とても純粋で綺麗な内面を持っている、と。
 口は悪いが、よく言葉を聞けば言い方が悪いだけで内容は特に酷い訳じゃない。どんな態度をとろうと仕事はこなす。それも、誰より早く、完璧に。
 表情はいつも不機嫌や、ダルそうと形容されているが、十代の年相応の一面を見せることもある。
 伏見はなんだかんだ言ってもまだ若い19歳の青年だ。
 そんな面があるのを知っているのは、自分と伏見の距離がある程度近いからだと宗像は自負している。

「綺麗、ですね」

「俺は自分の顔なんて興味ないです」

 そんなことを言いつつも少しだけ照れているのか彼は背を向けてしまった。

「可愛げもありますね」

 伏見の耳に入らないよう呟いて、微笑を浮かべたところで、ゆっくりと彼が綺麗な顔で振り返って言うのだ。

「室長の顔のがキレーです」


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