※遙凛


「欲がないって言われた」

 遙がぽつりと口に出した言葉に、ふぅんと返した凛は、その時点でこの会話は終わったと思っていたが違ったらしい。

「おまえはどう思う?」

 珍しいこともあるものだ。めったにひとの考えを気にしない遙が、こうして凛に意見を求めることが。

「そんなことないんじゃねぇの」

「そうか」

「まず、人間なんだから衣食住と酸素が必要だろ?…それとハルの場合は水がなきゃ生きていけない」

 大抵ひとは衣食住と酸素、つまりは必要最低限以外のものは状況次第で捨てていく。
 それは至って普通のことだ。なくても生きていけるものなのだから。
 でも、遙は違う。水がなくなった世界に彼は存在できないと凛は思う。まるで本当に魚みたいだ。
 必要最低限のものがひとより一つ多い遙は、ひとよりも欲があるはずだ。他のひとは、趣味とかそういうすきなものを捨てても死なない。

「凛も」

「あ?」

「凛も必要だ。…俺は欲張りかもな」

 照れもせずそんなことをのたまう遙が、凛は憎かった。自分はその言葉一つで、こんなにも舞い上がってしまうのに。

「そうかよ」

「おまえは違うのか?」

「違く…ない。俺もハルが必要だ…」

 恥ずかしさから小さくなった凛の言葉は届いたようで、遙は凛の唇にキスをおとした。


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