※音トキ


「ただいま」

「おかえり〜」

 仕事で疲れ気味な表情のトキヤを優しく抱きしめて、唇を重ねる。

「音也っ」

「えへへ、おかえりのちゅー」

「馬鹿ですね、あなたは」

「そんなことないって」

 トキヤは頬をピンク色に染めて呆れた様にそう言って、俺の頬にキスをする。

「いいえ、馬鹿です。…私も馬鹿になってしまいましたが」

「トキヤ可愛い。でも、目に隈」

「少々寝不足で疲れました」

 出逢った頃のトキヤは他人に"疲れた"なんて弱音をはくことは絶対にしなかった。言ってくれる様になったのは気を許してくれているからだと感じられてかなり嬉しい。

「じゃあ今日は早く寝ようか?」

「はい。でも、少しだけ早めにするだけでいいです。せっかくあなたに会えたのですから」

「そういうの反則だよ」

「正直な気持ちを述べたまでです。私はあなたの傍にいられる今が大切なんです」

 トキヤは欲があまりない人だ。俺達は仕事上あまり会えないのに"会える時のことを考えれば頑張れる"、"あなたがいるそれだけで満たされる"といつも笑ってくれた。そんな言葉にいつだって救われて、安心感を覚える。
 ただ少しだけ心配なんだ。
 ねぇトキヤ、我慢してない?

「おや、信用できませんか?情けない顔をしていますね」

 俺が首をブンブン振ると、頭の上に真っ白い手がポンとのる。トキヤはしばらく頭を撫でてから、俺の肩に体重をかけて腰をおろした。

「音也の髪はさらさらしていて好きです」

「…へ?ありがとう」

「こうして背中を合わせると体温が伝わってきて心地良いです」

「俺もだよ」

「こんなふうにあなたと話しができることが嬉しいです」

 背中の体温が一瞬だけ離れて、それからすぐに戻ってくる。
 トキヤは俺を後ろから抱きしめて、耳元に唇を寄せた。

「私は幸せなんですよ」


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