お寺に泊まろう!16
いい加減この書物もほとんど終わりに近い。総括に入れよと思っていたら、次章の書き出しは
「禿鶏散」
なんだ、これ。トクケイサン?禿げた鶏の薬?
「男の病と痛みを直し、性的不能になるのを防ぐ(要約)」
はあ?なんだそれ。一体いつの間に薬の話になった?
しかも続きが振るっている。
「七十歳過ぎの老人がこれを服用したところ、男三人を作ったは良いが、嫁は座ったり寝る事も出来ないくらい病んでしまった……(要約)」
七十過ぎたジイさんが何やってんだ、おい。
しかも子が生まれてるって事は、相当若い嫁もらったんだろう。ついでに男三人ってことは、数にcountされてない女も何人かいる可能性が高い。
それでジイさん相手に若い嫁が体壊すほど、だと……もはや薬の効能通り越して狒々爺の自慢話としか思えない。
「……老人は仕方なく庭に捨てた所、オスの鶏が食い、メスと数日絶え間なく交尾して、メスの頭をつついてハゲにしたので、禿鶏散・禿鶏丸という名前の薬になった。(要約)」
ちょっと待て。なんだその由緒書きは。どう考えても劇薬、いやそれを通り越してヤバイ薬だろうがこれは。
材料と処方まで書いてあるが、これを作って飲めとでも言う気か、和尚。
ちなみに作った薬は
「粉末にして、空腹時に匙一杯を酒で飲む。一日三回服用で無敵。六十日飲み続ければ、四十人の女と交わる事ができる。糖蜜と混ぜて丸薬にしても可。初めは五日か九日の間規定通りに、その後は必要に応じて服用する(要約)」
処方・用法・用量とともに実に懇切丁寧な説明だが、本当にそれで安全に服用できるんだろうな。はっきりいって怪しすぎる。
しかし更に恐ろしい事は、この手の劇薬は一つだけではなかった事だ。
「鹿角散」
効能は勃起障害――この時点で、前の薬をpower upさせたもの、つまりは一層ヤバイものだと知れる。ついでに不随意の射精や腰痛にも効果あり……なんだこれ。
処方は禿鶏散に数種類の薬剤を加えた内容で、一体どれが何に効くのかさっぱりわからない。
飲むのは毎食後に匙一杯、効かなければ更に匙一杯追加する、だそうだ。
薬など耐性ができるものだから、要するに日に日に劇薬を飲む量が増える寸法……性質の悪いjokeとしか思えないが、まだ書物は終らない。
次に紹介されたのは局部に塗布する塗り薬――三寸は長くなるそうだが、材料が海藻だの白犬の肝、それも第一の月に殺したものだの……効く気がしねえが、効いたらすげえ。
あと女に使う塗り薬――性交に先立ち塗るらしい。使うとよく締まるのと冷感症に効果あり、はともかく材料が茱萸に香料……悪いものではなさそうだが、怪しいことには違いない。ちなみに使いすぎると、締まりすぎるらしい。ついでに湯で割って使っても可。
どっちにしても、こんなものを使うつもりはねえから、まあいい。
しかしこの記述を最後に、唐突にこの書物が終わってしまっているこの中途半端さが、最大にして重大な問題だろう。
一体何を考えているんだ、これ書いた奴は。途中で死んだとしか思えないような終わり方だが、その際に漂うであろう哀愁とか無念さが、全く感じられないのはなぜだ。
いろいろすっきりしねえ。
誰か何とかしろよ……と思ったところで、喜多の顔が頭をよぎって慄然とした。城に戻れば和尚の説いた「婚礼の心得」について聞いてくるであろう事に思い至り、本気でどうしようもなくなって、深くため息をつくしかなかった。
2012/04/29 : 初出
2012/07/30 : 加筆修正
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