お寺に泊まろう!15


 嫁の頭の良し悪しによっては、生まれてくる子の出来にかかわるというのは、わからないではないし、子の寿命が親の行為一つによって決まるかどうかは置くとしても、それなりの内容が続いたというのに、次に来た書き出しは
「男の年齢が女の倍ならその情交は女に、女の年齢が男の倍ならその情交は男に有害である(要約)」
 ちょっと待て。これまで妊娠だの胎教だの、説得力があったものもあったというのに、唐突になんだこれ。
 これを書いたヤツは経験がないのも問題だが、それ以上に記載の構成を考えてないとしか思えない。文章としては大して難しくないが、構成が内容を難しくしているような気がしてならない。
 しかしこれを書いたヤツには、訂正する気もなければ、そのへんを指摘してくれる存在もいなかったらしく、お構いなしに続ける。
「情交するのに縁起の良い方角・日時がある(要約)」
 書き出しと全く関係ないと感じるのはオレだけか。
「春は東枕、夏は南枕、秋は西枕、冬は北枕で寝る(要約)」
 寝る方向まで決まっているのか、すげえ。
 だが要するに、季節を表す方向に頭を向けろと言いたいらしい事くらいはオレにもわかる。縁起がいいかどうかまではわからんが。
「奇数日は吉、偶数日の情交は有害(要約)」
 二日に一回かよ。
 いや、問題はそこじゃねえ。もし仮にこれを守るとすると先述の
「月の障りの後、一・三日目にすれば男が、四・五日目にすれば女が生まれる、それより後は精液の浪費(要約)」
 とかいうやつが実行不能になる可能性が高いだろう。それこそ、産み分けがどうこうというやつができなくなるわけだ。理論が破綻してきてるぞ。
「子時(午前一時)から午前中は吉、午時(正午)から午後の間の情交は有害(要約)」
 待て、本格的に理論が破綻してきてるだろ。それこそ
「夜半に身ごもった子は長寿、夜半前に身ごもった子は人並みの寿命、夜半過ぎに身ごもった子は短命(要約)」
 というやつに引っかかる。どういう計算だ。行為と身ごもるのとは時間差があるとでも言いてえのか。
「春は甲乙の日、夏は丙丁の日、秋は庚辛の日、冬は壬癸の日が良い(要約)」
 甲(きのえ)乙(きのと)――五行でいう木の属性だ。丙(ひのえ)丁(ひのと)は火、庚(かのえ)辛(かのと)は金、壬(みずのえ)癸(みずのと)は水を表す。つまり春夏秋冬それぞれに適した、木・火・金・水に属する日を選べということだろう。このへんは枕がどうこうという話と、linkすると言っていい。
 そのあたりまでは理解した。
 問題はこれらに戊(つちのえ)己(つちのと)を加えた十干は、十二支と合わせて年や日を表すものとして利用されるという点だ。組み合わせは甲子からstartして乙丑、丙寅、丁卯……全六十。だからこそ、六十歳のことをわざわざ還暦、calendarが元に戻るという言い方をするわけだ。
 一カ月がだいたい二十八日と考えて、仮に春で朔が甲子だと計算したとして、甲乙の日は甲子(一日)、乙丑(二日)、甲戌(十一日)、乙亥(十二日)、甲申(二十一日)、乙酉(二十二日)の六日しかない。しかも奇数日は半分の三日、chanceがなさすぎるだろ。これに月の障りが入ったら目も当てられない、一体どうしろってんだ。
 やはりこれ書いたやつの理論は破綻してる。実行不能とは言わんが、難易度がかなり高い――嫌な結論が出たもんだ。

2012/03/25 : 初出
2012/07/30 : 加筆修正



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