お寺に泊まろう!11


 和尚の限界が見えたところで、もう少しこれらの書物の誤謬について考えてみるのも悪くないと思えるようになってきた。
これらの書物の端々に書いてあるが、これらは要するに不老長寿になる方法の一つ、つまりは健康法だ。いつまでも若くて健康な体を保つというのも、君主の務めというやつだから、うまく活用できるものがあるなら取り入れたほうが良いには違いない、多分。
 しかし読みすすめると、更に珍妙な記述が続く。
「(相手になる)女は美しくなくてもよい。若くて子を産んだことがなく、肉付きがよい者がよい(要約)」
 いや、美人にこしたことはないだろう。肉付きがいいは重要だと思うが。
「乳房が未発達で肉付きのよい若い女性で、髪は絹のように細く、黒目と白目がはっきりわかれた小さい目をしていることが必要(要約)」
 若い女にこだわりがあるのはわかるとして、肉付きがいいのに胸がないとか矛盾してないか。ついでに胸もあったほうがいいに決まってる。
 一貫して肉付きを重要視しているのは納得がいくとして、容貌の美醜にはこだわらないとか言っておきながら、髪とか目とかには妙に規定が細かい……そんなに重要なのか。
 他の書物に書いてあるものを要約すると「生まれつき優しくて素直で物静かて、髪は絹のようで黒く、柔肌で骨は細く、丈は高すぎず低すぎず、太すぎず細すぎず、二十五から三十歳の子を産んでいない女(要約)」がいいらしい。
 前半だけは見るべきものがあるって事にしておいてやるとして、なんだこのumbalanceな条件は。
 「素直で物静かな女」――生まれてこの方見たことねえ。伊達家にいねえだけか?
 「髪は絹のようで黒く、柔肌で骨は細く、丈は高すぎず低すぎず、太すぎず細すぎず」――背丈はともかく、骨が細い女とかオレは見たことねえ。ついでにこれからくる嫁も姫とはいえ武家の娘である以上、これはありえねえだろう。
 「二十五から三十歳の子を産んでいない女」――別に年にこだわりはないが、二十五歳以上とか大年増もいいところだ。オレより年下の嫁が来るってのに、倍以上年齢が離れた妾をおいた暁にはmother complex扱い必定。思っただけで憂鬱だ、特に母と疎遠なオレにとっては。
 よく考えたら女なんか最終的にやれたら誰でもいい。嫁も嫁で、人質みたいなものだから関係がいつまで続くとも知れない。そのへんを突き詰めても仕方のない話だった。
 気を取り直して、先を読みすすめる。話は次第に実践的なものになっていく。
 これまでもそうだったが、これらの書物では守るべき手順やら礼儀やらが重要視されているから、ああいう行為にも作法がある。例えば床入りなんかはこうだ。
「男は女の左に、女は男の右に座らなければならない(原文ママ)」
 いきなりなんだ、この書き出しは。というか、そこがそんなに重要なのか。席次がそんなに必要不可欠なのか。
「男は両足を前にだした状態で女を懐に抱きいれる。抱きしめて言葉をささやき……お互いの唇を押し付けあう。そのとき男は女の上唇、女は男の下唇を吸う(要約)」
 今更のようだが、ずいぶん決まり事が多い。
 婚礼でも何かしら煩雑な事をしなければならないとは承知している。普段から血腥いのが今の世の中、生臭いものを何かにつけて排除したくなるのは人情として理解できる。
 だがだからといって、kissにまでの作法を求められるとは思わなかった。
 いや以前に、これからくる嫁はオレよりも年下ってこと考えても、もしかしたらまだ体ができていない可能性もある。多分経験もないだろうし、最悪このへんの知識が皆無という事も考えられる。そんな言ってみれば小娘に、いきなりここまでのlevel求めるのか。それとも何か、オレが仕込まなきゃならないのか。
「時にはそっと舌を噛んだり、唇を少しかじったり、頭を抱いたり、耳をつねったりもする(原文ママ)」
 本格的に求めているlevelが高いぞ。不老長寿の、つまりは健康で長生きできる方法の一環だとしても、ずいぶんだ。
 多少沈痛な気分にさせられたが、女を抱くのはともかくとして正室を迎えるためのしきたり、礼儀というのはそれでなくても煩雑なのだから、こういう事もあるのかもしれないと多少は納得できるところもある。「婚姻の、心得、のようなもの」とはよく言ったものだ。

2011/11/29 : 初出
2012/07/30 : 加筆修正



PREVBACKNEXT
[]
BACKTOP
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -