お寺に泊まろう!1


 もうすぐ嫁が来る。そのために城も改修工事をするため、今日からしばらく寺で寝泊りすることになった。
 小さいころならいざ知らず、こちとら元服も済ませ婚礼控えて忙しいのに、何の因果で寺なんぞ……。
 喜多曰く「婚礼に向けての心構えをきいていらっしゃいませ。」
 坊主に女の事がわかってたまるか、Unbelievable!しかし抵抗したところで、すでに城に寝泊りする場はない。不承不承、小十郎に連れられて寺に行くと、山門のところで一つ下の従兄弟の時宗丸が退屈そうに座り込んでいた。
「あ、梵天丸!」
 と人を見るなり能天気に手を振ってきたので、顔に向けて一発punchを見舞ってやった。
 時宗丸の髪はさらさらしてる。女でもちょっとお目にかかれないくらいに綺麗な光沢だ。目は切れ長だし、鼻筋も通っていて、一緒にいるとそっくりとよく言われた。むしろ、時宗丸のほうが優しい顔勝ちをしているので、ずいぶん可愛がられてた。笑うと目が垂れて妙に頭が悪そうに見えるのが欠点だが。
 実際頭は大してよくない。というか脳味噌まで筋肉でできてるから、昔から女の子みたいと言った相手に情け容赦ない一撃を食らわせるような野生児だったし、今もせっかくの一撃は鼻先を掠めただけだったが、後ろに回った小十郎の平手が頭に命中してた。
 一応何をしにきたのか聞いてみたら、
「もうすぐ元服するから心構えを和尚に聞きに来た」
 どこかできたことのある台詞だ。だが時宗丸の場合、和尚をrespectして何かというと寺に来ているから、今回もそういう名目で勝手に家出してきたに決まっている。しかし言い聞かせたところで聴くヤツではないし、追い返すのも面倒なのでついてくるままにしておく事にした。
山門を抜けると本堂の前に小さい御堂があり、覗くと出っ腹抱えた布袋が鎮座ましましている。その昔、一体どういう仏かと和尚に尋ねたら
「弥勒菩薩さまじゃ」
 Don’t tell a lie!これを見るたび、いつもそう思う。

 そもそも和尚はすごい人なのだろうが、その言動は時に見も蓋もない。嫌な予感はしつつも和尚に挨拶したついでに、一応婚儀の心得とやらを聞いてみた。
「わかるわけがなかろう」
と一蹴しつつも、
「若は殿に似てお優しいところがある。まあ溺れん程度になさることだ」
と呵呵大笑。あらゆる意味で、聞くんじゃなかった。
 寺に来たからには、寺のruleやscheduleに従わなければならない。
 まず写経。
 時宗丸がなぜか紙も手も着物も墨で汚している――理解不能。
 そのうち「勝訴」と書いた半紙もって走り出し始めた――意味不明。
 次に本堂で読経。
 音痴の時宗丸が隣で調子のはずれた読経をしているせいで、つられそうになった。
 その後食堂(じきどう。仏教用語)で食事。
 粥一杯と一汁一菜。はっきり言って足りない。そして会話はもちろん物音を立てることが厳禁されているというのに、沢庵が出るのは問題だと思う。前々から疑問だが、一体どうやって食えというのだ。前歯で噛んだら音は少ないが食えない、奥歯で噛んだら食えるが音がする――何の禅問答だ。
 ちなみに寺の坊主どもと時宗丸は、音を立てずにすべてを平らげる。すげえ。
 更に禅堂で座禅。
 ここも物音一切禁止。ため息一つで和尚が容赦ない警策を肩にかましてくるせいか、時宗丸もここではおとなしい。
 足は胡坐か結跏趺坐、背筋を伸ばして目は半眼に開く。意外とそれによって視野が開ける感じがして、嫌いではない。
 それが終わると、宿坊で就寝。
 時宗丸と二人だけで使うには広すぎるが、存外古い。縁側は鴬張りになっていて歩くたびに音がするが、それは設計のせいなのか単に古いせいなのか、判断が難しい。
 二人だけなのをいいことに枕投げしたくてたまらないらしい時宗丸だが、それでなくても補給しきれてないenergyの無駄遣いをする気にはなれず、Hell doragon一発。
 Good night……。

2010/06/23:初出
2011/07/20:加筆修正


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