二度と会わない約束をしよう.5 | ナノ

(※白→レオ。流血表現注意。)



その日、彼のどこか覚悟したような眼を見て、
(ああ、今日なのか…。)そう、どこか他人事のように思ったのを今でも覚えてる。


白い床に真っ赤な血を零し、仰向けに倒れ込んだ彼。
ボンゴレの霧の守護者の部下であるレオナルド・リッピ…いや、グイド・グレコ。
先程までは六道骸が憑依していたが、どこからか逃げたらしい。
今は華奢な黒髪の青年の姿に戻っている。

「…あーあ、逃げられちゃったか。」

わざとらしく、呟く。
倒れている彼は今にも止まりそうな息の根にもかかわらず、随分と落ちついていた。
本来なら、誰しも死に際には騒ぎ出すものだが、その素振りは一切見えない。
その姿からは、彼が今までいくつもの死線を超えてきたのが分かる。

「君、置いて行かれちゃったね。骸君に。」

彼の近くで屈んで、笑いながら話かける。
つい先ほどまで抱きしめていた彼の白い隊服は、鮮血で赤く染まっていた。

「……それで、良い…っ…骸、さまが……無事なら…、」

絶え絶えの言葉が、彼がどんなに六道骸を大切に思っているか伝える。
(良いなぁ骸君。僕もレオ君に好かれたかった。)
いくつか言葉を交わしただけで今はもうどこかに消えた彼に、小さな嫉妬。



第一印象は、もう良く覚えていない。
でも、大きな瞳で、青年にしては少し高い声で、隊服の上から見ただけでも分かるほど華奢な体格だったから、
女の子みたいだと思ったのは覚えてる。

『白蘭様、』

その青年がレオナルド・リッピでないことは、最初から知っていた。
時折見せる探るような眼、そして部屋に飾られたダチュラ。それに気付かないほど自分も馬鹿ではない。
でも、自分の名を呼ぶ彼の声に、惹かれていたのも事実だった。
そして、彼が来てからちょうど1週間。情報が少しずつボンゴレに漏れていると気付いた。

『レオ君って可愛いね。好きだよ。』

それと同時に、僕は彼に愛を囁き始めた。
最初にそう告げた時、眼を見開いて呆然とした彼に僕はまた可愛いと告げた。
彼は曖昧な返事をし、真っ赤な顔で部屋を飛び出す。その後ろ姿を見届けながら、また、小さな声で好きと囁く。

なぜそうしたかは、自分でも良く分からない。ただ、
13回目の僕の愛の言葉を俯きながら頬を赤らめ戸惑う彼は、六道骸の演技かグイド・グレコの演技か。

『あ…ありがとうございます…、』

そんなことを、彼の小さな返事を聞きながら思った。
細い体に抱きついては愛してると言って、手のひらにキスを落としながら好きと言う。
繰り返し繰り返し。それを何度も行い続けた。(まるで、それに依存したみたいに。)



そして、彼が来てから三週間目の今日。
血に溺れそうな彼を見ながら、今、やっとその意味が分かった気がした。
(君を、殺しくなかった、なんて…思ってたのかもしれない。)

今まで数えきれない程の人と出会い、殺してきた、この血に染まった手を。
同じくらい血に染まった君といることで、誤魔化したかった。
多分、傷を舐め合おうと思っていた。

「……、…?」

一瞬浮かんだ違和感。そして目の前には今や僕の靴さえも赤く染め始めた血。
心臓が体の中で響く。指先が小さく震える。軽い眩暈が自分を襲う。それら全部を振り切るように言った。

「…レオ君、僕今からラーメン食べに行くから。」
「げほっ……っ、………?」

だんだんと意識が遠のいている彼に、僕の言葉は届いているだろうか。
(いや、届かない方が良いのかもしれないなぁ…。)
立ち上がり、彼に背を向け歩きだす。向かう先はこの部屋と廊下を繋ぐ扉。

「…だから、その間にいなくなってね。」

独り言のように呟いた。
それはきっと初めて口に出した僕の本当の願い。(なんて、今さら…遅いか。)

「……びゃ、くら…、」

僕の名を呼ぶ彼の声を、扉を閉める音で遮った。
(代わりの死体用意しなきゃなぁ…。)

白い壁で覆われた廊下。今は僕の足音だけが響く。
足音のリズムはどんどんと早まり、徐々に掛け足になっていく。
(誤魔化したかった?傷を舐め合いたかった?……それは本当に…?)

だとしたら、この言葉に出来ない心を刺す痛さは、
彼から溢れ出る血を見た時の恐怖は、今、彼を抱きしめて全てから逃げ出したいと願う脳は、
この頬を伝う涙は…一体何だと言うんだ。

「……、っ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」




不意に触れた指先。
瞬く長い睫毛。
こちらを見上げる優しい笑顔。
名を呼ぶ声。

全てが演技で良かった。
それでも嬉しかった。

だけど、それらを失いたくないと思った時には既に遅かった。

三週間と言う短い期間。
僕には勿体ないほど幸せな時間だった。
だからこそ、もう僕の元に居てはいけない。
彼には帰る場所があるのだから。







(バイバイ、グイド君。)


end






第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -