(※白→レオ。流血表現注意。) その日、彼のどこか覚悟したような眼を見て、 (ああ、今日なのか…。)そう、どこか他人事のように思ったのを今でも覚えてる。 白い床に真っ赤な血を零し、仰向けに倒れ込んだ彼。 ボンゴレの霧の守護者の部下であるレオナルド・リッピ…いや、グイド・グレコ。 先程までは六道骸が憑依していたが、どこからか逃げたらしい。 今は華奢な黒髪の青年の姿に戻っている。 「…あーあ、逃げられちゃったか。」 わざとらしく、呟く。 倒れている彼は今にも止まりそうな息の根にもかかわらず、随分と落ちついていた。 本来なら、誰しも死に際には騒ぎ出すものだが、その素振りは一切見えない。 その姿からは、彼が今までいくつもの死線を超えてきたのが分かる。 「君、置いて行かれちゃったね。骸君に。」 彼の近くで屈んで、笑いながら話かける。 つい先ほどまで抱きしめていた彼の白い隊服は、鮮血で赤く染まっていた。 「……それで、良い…っ…骸、さまが……無事なら…、」 絶え絶えの言葉が、彼がどんなに六道骸を大切に思っているか伝える。 (良いなぁ骸君。僕もレオ君に好かれたかった。) いくつか言葉を交わしただけで今はもうどこかに消えた彼に、小さな嫉妬。 第一印象は、もう良く覚えていない。 でも、大きな瞳で、青年にしては少し高い声で、隊服の上から見ただけでも分かるほど華奢な体格だったから、 女の子みたいだと思ったのは覚えてる。 『白蘭様、』 その青年がレオナルド・リッピでないことは、最初から知っていた。 時折見せる探るような眼、そして部屋に飾られたダチュラ。それに気付かないほど自分も馬鹿ではない。 でも、自分の名を呼ぶ彼の声に、惹かれていたのも事実だった。 そして、彼が来てからちょうど1週間。情報が少しずつボンゴレに漏れていると気付いた。 『レオ君って可愛いね。好きだよ。』 それと同時に、僕は彼に愛を囁き始めた。 最初にそう告げた時、眼を見開いて呆然とした彼に僕はまた可愛いと告げた。 彼は曖昧な返事をし、真っ赤な顔で部屋を飛び出す。その後ろ姿を見届けながら、また、小さな声で好きと囁く。 なぜそうしたかは、自分でも良く分からない。ただ、 13回目の僕の愛の言葉を俯きながら頬を赤らめ戸惑う彼は、六道骸の演技かグイド・グレコの演技か。 『あ…ありがとうございます…、』 そんなことを、彼の小さな返事を聞きながら思った。 細い体に抱きついては愛してると言って、手のひらにキスを落としながら好きと言う。 繰り返し繰り返し。それを何度も行い続けた。(まるで、それに依存したみたいに。) そして、彼が来てから三週間目の今日。 血に溺れそうな彼を見ながら、今、やっとその意味が分かった気がした。 (君を、殺しくなかった、なんて…思ってたのかもしれない。) 今まで数えきれない程の人と出会い、殺してきた、この血に染まった手を。 同じくらい血に染まった君といることで、誤魔化したかった。 多分、傷を舐め合おうと思っていた。 「……、…?」 一瞬浮かんだ違和感。そして目の前には今や僕の靴さえも赤く染め始めた血。 心臓が体の中で響く。指先が小さく震える。軽い眩暈が自分を襲う。それら全部を振り切るように言った。 「…レオ君、僕今からラーメン食べに行くから。」 「げほっ……っ、………?」 だんだんと意識が遠のいている彼に、僕の言葉は届いているだろうか。 (いや、届かない方が良いのかもしれないなぁ…。) 立ち上がり、彼に背を向け歩きだす。向かう先はこの部屋と廊下を繋ぐ扉。 「…だから、その間にいなくなってね。」 独り言のように呟いた。 それはきっと初めて口に出した僕の本当の願い。(なんて、今さら…遅いか。) 「……びゃ、くら…、」 僕の名を呼ぶ彼の声を、扉を閉める音で遮った。 (代わりの死体用意しなきゃなぁ…。) 白い壁で覆われた廊下。今は僕の足音だけが響く。 足音のリズムはどんどんと早まり、徐々に掛け足になっていく。 (誤魔化したかった?傷を舐め合いたかった?……それは本当に…?) だとしたら、この言葉に出来ない心を刺す痛さは、 彼から溢れ出る血を見た時の恐怖は、今、彼を抱きしめて全てから逃げ出したいと願う脳は、 この頬を伝う涙は…一体何だと言うんだ。 「……、っ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」 不意に触れた指先。 瞬く長い睫毛。 こちらを見上げる優しい笑顔。 名を呼ぶ声。 全てが演技で良かった。 それでも嬉しかった。 だけど、それらを失いたくないと思った時には既に遅かった。 三週間と言う短い期間。 僕には勿体ないほど幸せな時間だった。 だからこそ、もう僕の元に居てはいけない。 彼には帰る場所があるのだから。 二度と会わない約束をしよう (バイバイ、グイド君。) end |