(※レオ君+雲雀。前話の続き。でも前話より少し前の話。) 「知ってますか、僕の名前。」 背後から問いかけてみれば、彼は振り向きながら鋭い目でこちらを睨んだ。(怖いなぁ・・・。) 雲の守護者の雲雀恭弥。会うのも話すのも今日が初めてだ。 「…知らないよ。誰だい、君。」 彼はトンファーを両手に持ち不機嫌そうに言葉を返す。 滲み出る殺気に背筋が震えた。どうやら僕は敵として認識されたらしい。 (まぁ、当たらずと雖も遠からず…ってところかな。) 「じゃあ、初めまして。骸様の部下のグイド・グレコです。」 にっこりと笑って挨拶すれば、彼は「骸」と言うキーワードにピクリと肩を揺らした。 骸様からあまり仲が良くないとは聞いていたが、そこまで仲良くないのだろうか。 増した殺気に、背中を冷や汗が伝う。 骸様には「絶対彼に近づいてはいけませんよ。」と言われていた。 最初は嫉妬かな?と思っていたのだが、今はその言葉の意味がよく分かる。 「…あいつの下僕が何の用だい。」 溜息混じりに吐きだされた言葉に口元が引きつる。(下僕…否定はしないけど…。) 自分よりも10センチ程背の高い彼に見下ろされると、まるで蛇に睨まれた蛙のような気分になる。 (早く伝えて帰ろう。)そう思った僕は要件だけを簡潔に告げる。 「骸様と明日の朝早くに、ミルフィオーレの本部に潜入するんです。」 彼からの返事はなかった。 ただただ無言で、だが、恰も心底気分悪そうに顰められた眉は彼の性格をよく表していた。 「…………何が言いたいんだい。」 数十秒続いた無言の状態を壊したのは彼の一言。 何の感情も見せない声音は、静寂に包まれたこの廊下と同じようにどこか寂しげで。 「貴方も気付かないほど馬鹿ではないでしょう?」 挑発的な僕の言葉に、彼はまた眉を顰めて黙り込んだ。 黙ったと言うことは肯定したと思って良いのだろうか。(分かりにくい人だなぁ。) とは言え、きっとそれを訊いても、答えは帰って来ないのだろう。 「見送りぐらいしてあげてください。」 彼の嫌がるようにわざと作り笑いしてみれば、思った通りこちらを睨んで来た。 ただ、瞳には若干の困惑を見せながら。(知っているはずだ、貴方なら。) 中学時代に初めて会い、それからずっと犬猿の仲。 それなのに、仕事の忙しい今でも月に何度かはどちらかがわざわざ相手に会いに行き剣を交える。 それは他の人間から見れば、「喧嘩するほど仲が良い」みたいに見える。 (骸様は、苦笑しながら否定してたけど。) 対照的に、僕は数ヶ月前に助けられたばかり。骸様とは出会って間もない。 剣を交えることも、わざわざ会いに行くことも今まで一度もない。 微笑みかけてくれるけど、時々抱きしめてくれるけど。(それは恋愛対象としてではない。) どう見たって僕よりも雲雀さんの方が仲が良いじゃないか。 (ズルイ。僕はこんなにも骸様を愛しているのに!) 「……、」 『いっそ今ここで彼を殺してしまおうか。』 一瞬そんな考えが浮かんだが、僕の力では彼に勝てない。 それに、彼も僕の放った殺気に気付いたらしく、今は鋭い眼光で僕を見ていた。 ふっ、と自嘲気味に笑って、 「…それじゃ。」 彼に背を向けながら、ひらひらと手を振って歩き出す。 例え彼が恋敵だとしても、少しでも骸様が喜ぶのならばそれで良い。 (…少しは、僕も骸様のお役に立てたでしょうか。) 手を振るだけならば迷わずに (…嗚呼、彼が羨ましいなぁ。) next |